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第五話 憎しみの連鎖

第五話  憎しみの連鎖


会議室 ― 八人の顔合わせ


厚い鉄の扉が閉まる音が、部屋に重く響いた。


室内は広く、天井は低い。

長方形の会議卓は金属製で、表面には無数の擦り傷がある。


空調の音だけが、低く鳴っていた。


中央に座るのは――軍最高権力者。

顔は影に沈み、沈黙を貫いている。


その左右に並ぶのは、各部隊の指揮官たち。


火野アキラと霧島レンは、入口側に立ったままだった。


緊張が、空気を張り詰めさせていく。


最初に口を開いたのは、

第一機体部隊隊長――早乙女 一心だった。


にこやかに微笑みながら、手を軽く上げる。


「いやぁ……噂には聞いていたけど……」


目を細め、二人を見る。


「ずいぶん若いじゃないか、“第三”の隊長と副隊長は」


声は柔らかい。

だが、何かを測るような視線。


「霧島レン君……そして、火野アキラ君……だったね?」


霧島が短く答える。


「……はい」


火野も続いた。


「……火野です」


早乙女は満足そうに頷いた。


「うんうん……いい目だ。怖さも、不安も……ちゃんと混じってる」


小さく笑う。


「長生きするかどうかは……別だけどね」


冗談めいているが、笑っているのは口元だけだった。


椅子を少し乱暴に引いた音。


第一機体部隊副隊長――神宮寺 景光が腕を組んだ。


「……話したいのは挨拶じゃねぇ」


語気が荒い。


「“第三機体部隊”が本当に戦力として扱えるのか……そこだろ」


鋭い視線が霧島に刺さる。


「ガキの遊びじゃねぇんだぞ……現場は」


だが、すぐにため息をついて視線を逸らす。


「……ま、どうでもいい。

 実戦で役に立たなきゃ……すぐ淘汰されるだけだ」


冷酷だが、どこか現実的だった。


沈黙していた男が、視線だけを動かした。


第二機体部隊隊長――椿原 虎徹。


声は低い。


「……生き残ったか……」


それだけ。


だが、その一言に、異様な重みがあった。


次の瞬間。


椅子が、乱暴に床を擦った。


立ち上がったのは――

第二機体部隊副隊長。


月影 ツナミ。


ゆっくり、しかし確実に歩き出す。


靴音が、一歩ずつ無音の室内に響く。


そして――霧島と火野の目の前で止まった。


声は、抑えきれない怒りで震えていた。


「……お前らが……」


拳が震える。


「……お前らが……“生き残った”のか……」


霧島は何も言えない。


火野も、視線を逸らさなかったが、口が動かない。


ツナミは低く唸るように言った。


「……妹は……」


一瞬、言葉に詰まる。


「……ナギは……どこだ……?」


空気が、凍りついたように静まり返る。


霧島が、絞り出すように答える。


「……戦死……しました……」


火野も続く。


「……守れませんでした……」


その瞬間。


ツナミの拳が机を叩いた。


鋭い金属音。


「守れなかった……?」


かすれた笑い。


「……ふざけるな……!」


声が大きくなる。


「お前らが指揮を取ってたんじゃないのか!?

 あいつは……あいつは……!」


言葉の最後は、うまく形にならなかった。


一歩、さらに近づく。


「“第三部隊”だ……?

 称号もらって……英雄気分か……?」


火野が一歩踏み出す。


「……違います」


強く。


「……誰も……そんなふうに……」


霧島も低く言う。


「……生き残っただけです……俺たちは」


ツナミは笑わない。


「……だったら……証明しろ……」


目を細める。


「……その肩書きが……亡き者への戦士の墓標への侮辱してないってことを……」


その時。


床を鳴らす軍靴の音。


教官が、ツナミの背後に立っていた。


低く、鋭い声。


「……そこまでだ」


ツナミは振り返らない。


「……まだだ」


「……ここは“裁きの場”ではない」


教官はさらに近づく。


「……戦った者同士で、刃を向ける場所でもない」


一拍置いて。


「……怒りは……戦場で使え」


ツナミは、しばらく黙っていた。


やがて、視線を床へ落とす。


拳が、ゆっくりと緩んだ。


数歩、後ろへ下がる。


「……失礼しました……」


声はまだ震えていた。


沈黙を破ったのは、再び早乙女だった。


軽く手を叩く。


「うんうん……いいねぇ……」


微笑む。


「だから好きなんだよ……軍って場所は」


椅子にもたれながら言う。


「綺麗事より……本音が見える……」


視線を霧島と火野へ。


「……歓迎するよ。“第三機体部隊”」


神宮寺が鼻で笑う。


「……生きて戻って来れたらな」


椿原は短く。


「……期待はしない……だが……注視する……」


誰も暴言ではないのに、圧力だけが強く残る。


軍最高権力者は、最後まで一言も発さなかった。


ただ。


霧島と火野を――

“値踏みするように”見ていた。


その視線の重さだけが。


二人の胸に、深く残っていた。


作戦会議室 ― 本格的な軍議


重たい扉が閉まる音が、低く響いた。


軍最高権力者の席は――空。


その椅子だけが、まるで不在を主張するように静かに佇んでいる。


一度は立ち上がりかけていた第一機体部隊。


だが。


早乙女一心は、背筋を伸ばしたまま――座った。


隣にいた神宮寺景光が小声で言う。


「……隊長、本来ここは――」


早乙女は、にこやかな顔のまま小さく手を上げた。


「君は戻っていいよ、神宮寺くん」


神宮寺は一瞬言い返しかけたが――

早乙女の笑顔を見て、口を閉じた。


椅子を引く。


「……失礼します」


扉が閉まる。


部屋に残ったのは――


火野

霧島

教官

椿原虎徹

月影ツナミ

そして……早乙女一心。


教官がタブレット端末を操作し、壁面に投影された。


映像は荒い。


だが、はっきりと分かる。


「……“軍曹”の行動記録だ」


画面には、黒い影が高速で移動する様子。


「移動経路……壁面……天井……そして――」


一か所の場所が拡大される。


《第二居住区 第7耐圧壁・破損孔》


教官は続ける。


「侵入経路は……ほぼ確定だ」


椿原が短く言う。


「……また……ここから来る……」


誰も否定しなかった。


その時。


椅子が音を立てて動く。


月影ツナミが、立ち上がった。


手を机に置き、身を乗り出すようにして言う。


「……正面から受ける」


全員の視線が集まる。


「次は……逃げない……」


声には、まだ火が残っている。


「……軍曹は速い……それは認める……」


スクリーンを指差す。


「だが……あいつの動きは“直線的”だ……」


火野が目を細めた。


霧島は無言で聞いている。


ツナミは続ける。


「正面から……第二部隊が受け止める」


目線が椿原へ。


椿原は無言のまま頷いた。


「そこからだ……」


指を左右に広げる。


「左右に第三部隊を展開させる……挟撃だ」


机に軽く拳を打ち付ける。


「前に進むしかない状況を作る……

 進むか……引くか……跳ぶか……選ばせない距離まで詰める……」


声が少し熱を帯びる。


「脚さえ止めれば……あとは潰せる……」


沈黙。


だが、その沈黙を割った声があった。


霧島レンだった。


「……上を……想定してません」


皆の視線が霧島へ向く。


霧島は続ける。


「……記録映像……見ました……」


壁の映像を見る。


「……軍曹は……壁だけじゃなく……天井にも跳びました……」


一歩踏み出す。


「……正面と左右に誘導した場合……」


静かに、だが真っ直ぐに。


「……上方向に跳ばれた時の……対策がない……」


室内の空気が、目に見えないほどに固まった。


ツナミが、ゆっくりと霧島を睨む。


声が低くなる。


「……お前……」


一歩近づく。


「……それを……なぜ最初に言わない……」


霧島は動かない。


「……意見は……今言いました……」


ツナミの拳が、机の端に食い込んだ。


「……つまり……お前は……俺の作戦が……甘いと……?」


霧島は視線を逸らさない。


「……甘いとは……言ってません……」


一拍。


「……死角があると……言いました……」


空気が、ほんの少し軋んだ。


ツナミが一歩踏み出す。


「……お前……

 俺の妹の最期……見て……何も感じなかったのか……?」


霧島の喉が、小さく鳴った。


だが答えは静かだった。


「……感じました……」


そして。


「……だから……言いました……」


火野が息を呑む。


ツナミの怒気が、限界まで膨れ上がった瞬間。


――椅子が、きぃ……と音を立てた。


早乙女一心が、ゆっくりと立ち上がる。


顔は、相変わらず柔らかい笑顔だった。


だが。


床に落ちる視線だけで、空気が沈む。


ぽん、と軽く手を叩く。


そして、短く言った。


「……その辺で」


一歩、視線を落とす。


「もっとクールにいこう……君の敵討ちでもあるのだから」


それだけ。


たったそれだけの言葉なのに。


ツナミは言葉を失い、足を止めた。


呼吸の音だけが残る。


教官が、重く息を吐いた。


「……議論を続ける」


視線を全員に向ける。


「……霧島の指摘は……有効だ」


霧島は静かに頷く。


ツナミも、沈黙したまま腕を組み直す。


火野は、胸の奥に走ったものを――

言葉にはしなかった。


だが確かに思った。


(……こいつら……本気だ……)


そして。


(……俺たちも……)


スクリーンに映る“穴”が、静かに光っていた。


まるで。


次の戦いを――

すでに決めているかのように。


広い会議室に張り詰めた空気が残っていた。


月影ツナミの提案は、卓上のホログラム上に赤いラインとして表示されたまま、誰もが黙り込んでいた。


霧島レンが、静かに前へ身を乗り出す。


「……月影副隊長の案、ベースは悪くないです」


唐突だったが、声に一切の迷いはなかった。


月影ツナミが鋭く睨む。


「……何が言いたい。霧島」


霧島は視線を逸らさない。


「正面衝突→挟撃。確かに“地上戦”としては理にかなってます。でも……」


指先でホログラムを弾き、軍曹の想定軌道を立体化させる。


「あいつは“跳ぶ”。それも、人間の反応速度を超えた速度で。

“上”に逃げられた時の対策が、今の案にはありません」


会議室の空気が、一段冷える。


月影ツナミの椅子が、音を立てて軋んだ。


「……それがどうした」


低い声。


「だから正面で潰すと言っている!」


霧島は首を横に振る。


「正面で“潰せない”相手だと、俺たちはもう知ってます」


その言葉に、月影の顔が歪んだ。


「……お前が言うな」


椅子を蹴るように立ち上がりかける。


「お前たちが……ッ、ナギを……!」


教官が即座に声を張る。


「月影副隊長!!」


机を叩く乾いた音。


「……ここは戦友を糾弾する場ではない。感情は、任務の後に吐け」


月影の肩が大きく上下したが、奥歯を噛み締め、再び座った。


だが視線は霧島に突き刺さったまま。


霧島は、深く息を吸ってから続けた。


「……だから“利用します”」


全員の視線が集まる。


「軍曹の跳躍。あれを“逃走”じゃなく“誘導”に変える」


ホログラム上に、新しい軌道線が描かれる。


「正面でぶつかる。左右に展開する。

ここまでは月影副隊長の案通りです」


指を上へ弾く。


「――あえて追い込み、跳ばせる」


一瞬の沈黙。


教官の目が細くなる。


「……続けろ」


霧島は頷いた。


「跳躍した瞬間、羽のない軍曹は空中で無防備になります。

その瞬間に――」


新たに投影される巨大な装置。


「爪楊枝バリスタ部隊による、一斉総射」


低く、乾いた言葉。


「空中でダメージを与え、墜落地点を予測」


赤い光点が地面に示される。


「そこに、全機体を集中」


視線が火野へ一瞬だけ流れる。


「……落ちた瞬間を、“殺しどき”にします」


会議室が、完全な沈黙に包まれた。


最初に口を開いたのは、教官だった。


「……合理的だな」


椿原虎徹も、短く頷く。


「異論、ない」


その威圧ある声に、空気が少し軽くなる。


月影ツナミは顎を強く引き結んだ。


「……ッ」


拳を握りしめ、唇を噛む。


「……不本意だが……理屈は、通っている」


顔を上げ、霧島を睨む。


「……借りは、戦場で返す」


それで“賛成”を示した。


その時。


ずっと壁際にいた早乙女一心が、小さく笑った。


「ふふ……」


霧島に歩み寄る。


「面白いね、君」


握りしめた霧島の手首を掴み、そのまま固く握手。


「怖がらない。感情に呑まれない。

……それでいて、ちゃんと前を見てる」


笑みは柔和だったが、圧は消えていなかった。


「嫌いじゃないよ、そういう子」


霧島は、一瞬だけ目を見開いたが、やがて強く握り返した。


「……ありがとうございます」


霧島の胸の奥にあったのは――


恐怖でも、悲しみでもない。


ただ一つ。


必ず殺す、という冷たい決意。


早乙女は手を離し、ふと楽しそうに手を叩いた。


パン……パン……。


乾いた音が二度響く。


「はい、じゃあ――」


視線を全員に巡らせ、笑顔で一言。


「解散」


椅子が引かれ、足音が静かに重なり始めた。


だがその背中には、同じものが宿っていた。


希望ではなく。祈りでもなく。


ただ、復讐という名の炎だけが――静かに燃えていた。







まだまだ初心者だけどよろしくお願いいたしますm(_ _)m

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