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第四話 身勝手な復讐

第四話  身勝手な復讐



地下帰還 ― 静かな帰還ー


帰還ゲートが閉じた。


金属音が、乾いた空気に響く。


誰も――すぐには降りなかった。


バグロスのコクピットの中。


外は静かすぎるほど、静かだった。


ようやくハッチが開く。


9人が、無言で降りる。


足音だけがコンクリートに反響する。


担架は……ひとつ、空いたまま。


簡易ブリーフィングルーム


四角い部屋。

無機質な白い壁。

天井の蛍光灯は、微かに揺れている。


9人はベンチに並んで座っていた。


誰も前を見ていない。


床。

自分の手。

ヘルメット。


そこに――


教官が入ってくる。


いつもの重たい足音。


……だが、今日は遅い。


一歩一歩が、重い。


教官は、全員の前に立つ。


数秒、何も言わない。


そして――


「……よく、生きて戻ったな」


声は低い。


だが、かすれている。


「……誉め言葉じゃない」


教官は言う。


「今日の戦いは……作戦としては失敗だ」


誰も顔を上げない。


「だが……お前たちは、命令を遂行した」


「そして……生存限界の状況で、仲間を守った」


拳を、強く握る。


「それは……誇っていい」


沈黙。


誰かの呼吸が、乱れる。


崩れる心


葛城が、唇を噛む。


「……誇れ、ますか……?」


目線を上げないまま。


「……月影は……」


言葉に詰まり、喉が鳴る。


桜井が、ヘルメットをぎゅっと抱きしめた。


「……私……止められたかもしれない……」


声が震える。


「……撤退、もっと早く言えてたら……」


握る手が、震えている。


隼人ソラが笑うように息を吐く。


「……オレ……最後……何もできなかった……」


「……声、かけることすら……できなかった……」


霧島が、かすれた声で。


「……通信……最後まで……拾えなかった……」


「……司令なのに……」


火野は、何も言わない。


ただ、拳を握りしめていた。


指が白くなるほど、強く。


教官は、目を閉じる。


ほんの一瞬。


「……お前たちの誰一人……間違っていない」


ゆっくりと、言う。


「……月影は、選んだんだ」


「……逃げなかった」


「……仲間を、逃がした位置にいた」


言葉が、重く落ちる。


「……それを“無駄”にするのは……生き残った者の、選択だ」


教官は、目を開く。


強く。


「……泣け」


短く、命じる。


「……悔しがれ」


「……それを……忘れるな」


沈黙していた部屋。


音を堪えていた誰かが、嗚咽を漏らす。


肩を震わせる音。


ヘルメットに顔を伏せる音。


涙が床に落ちる音。


しばらくして。


教官が姿勢を正す。


声のトーンが変わる。


“軍人の声”になる。


「……だが」


一段、低く。


「……泣く時間は、終わりだ」


9人が、顔を上げる。


赤くなった目。


濡れた頬。


「本日付をもって――」


机の端末に手を置く。


表示が切り替わる。


《命令書》


《第三機体部隊 発足》


《対象者:火野以下 九名》


空気が張り詰める。


教官の声が響く。


「貴様らを――」


一呼吸。


「学生籍のまま、“第三機体部隊”への入隊を命じる。」


ざわめきすら起きなかった。


ただ、息が詰まる音だけ。


火野が、最初に立った。


椅子が軋む。


震える手で――敬礼。


葛城が、続く。


桜井は一瞬、唇を噛み――


「……っ……」


涙が落ちたまま、立ち上がる。


声が、震えたまま。


「……命……受けます……!」


他の者も、次々と立つ。


声が重なる。


「第三機体部隊……!」


「……入隊……受諾します……!」


隼人は涙を拭いもせず、叫ぶ。


「……オレ……逃げません……!」


霧島の声も、震えている。


「……次は……守れる司令に……なります……!」


9人、並んで敬礼。


涙は止まらない。


それでも。


背中は、伸びていた。


教官


教官は……返礼しなかった。


ただ、微かに拳を握り――


小さく、言う。


「……生きて来い」


その後、火野と霧島は呼び出しを食らった


広い部屋。

天井が高く、光源は中央の白い照明のみ。


無機質で、冷たい空間。


霧島レンと火野アキラは、数メートル間隔を保って立っていた。


前に立つのは、教官。


「霧島レン」


「……はい」


低い声で答える霧島。


「貴様を――第三機体部隊、隊長に任命する」


霧島の目が、わずかに見開かれる。


教官は続ける。


「火野アキラ」


「……はい」


火野は背中を固くして答える。


「貴様を――副隊長に任命する」


一拍の沈黙。


霧島が小さく息を吐く。


「……俺、で……いいんですか」


教官は即答した。


「貴様だからだ」


霧島は一度、強く目を閉じ――


それから静かに開き、火野を見る。


火野は小さく笑った。


「……相変わらず、面倒な役だな。お前の背中、追うの」


霧島は少しだけ口角を上げる。


「……離れるなよ。火野」


「当たり前だろ」


空気が少しだけ、和らぐ。


だが教官は、静かに合図した。


「前へ出ろ」


■ 専用装備の授与


金属ケースが二つ、ゆっくりと開かれる。


霧島の前に差し出されたのは――

バグロス専用 望遠レンズユニット。

鈍い銀色に光る、大型の精密装置。


教官:「霧島。お前は“見る者”として部隊を導け」


霧島は両手でそれを受け取る。


手がわずかに震えている。


「……必ず……」


次に火野の前。


差し出されたのは、両手持ちの巨大ハンマー。


名――

対決戦兵器強打装置《金槌》


無骨で、重く、冷たい金属の塊。


教官


「火野。お前は“砕く者”になれ」


火野は静かに触りその重厚さに圧倒される。


こうして第三機体部隊の正式な任命式及び授与式は終わった……


■ ふたりの心情


ーーー寮への帰り道ーーー


霧島の胸に浮かぶのは――月影ナギの笑顔。


「……守れなかった」


だが同時に、強く握りしめた拳。


「……もう、二度と……」


火野の喉の奥が、熱くなる。


「……俺は……奪われる側には、もうならない」


霧島は小さく言う。


「……必ず……」


火野が続ける。


「……借りは、返す」


二人は顔を見合わせ、静かに頷く。


希望ではなく、覚悟。

誓いではなく、復讐。


教官は彼らの背を見ながら言う。


「……行け。第三部隊……お前達は鬼になるか英雄になるか……俺が見届けてやる……。」



ーーーー残された7人ーーーー


風が吹いていた。

崩れたコンクリートの隙間から伸びた灰色の雑草が、かすかに揺れている。


地面に突き立てられたのは、ただの一枚の石。

名前も階級も刻まれていない、ただの石。


――それが、月影ナギの墓。


七人は、その前に並ぶのではなく、

半円を描くように立っていた。


誰も「敬礼」とは言わない。

ただ、動けない。


沈黙を破ったのは、隼人ソラだった。


「……なぁ……」


声が、かすれている。


「……なんで……あいつなんだよ……」


風に言葉が溶けた。


榊ミナトが拳を握り締める。


「……俺たち……助かった側なんだぞ……」


石を見つめたまま、低く言う。


「……生き延びた方が……強くなんか……ならねぇ」


葛城が歯を噛み締める。


「……目、合わせらんねぇよ……」


声が震える。


「……ナギ、ほんと……うるさかったのにな……

 静かになりすぎだろ……ここ……」


桜井が一歩前へ出る。


いつものツンとした表情はない。

ただ、目元だけが赤い。


「……ばっかじゃないの……」


声は、細い。


「……あの子……偉そうに……“私が先に仕掛ける”とか……

 あれ……強がりだったくせに……」


空を見上げて、鼻を鳴らす。


「……置いてかないでよ……」


霧島でも火野でもなく、

“ナギ”と呼べる者はいない。


それが余計に、痛かった。


月影の相方だった隼人が、石の前にしゃがみ込む。


「……怖かったよな……」


小さく、呟くように。


「……あのとき……俺……祈ってた……

 “俺に来てくれ”って……」


握った砂が、指の間から落ちる。


「……なんで……聞いてくれなかったんだよ……」


その時。


榊ミナトが、ぽつりと口を開いた。


「……でも……」


全員がそちらを見る。


「……俺、見たんだ……」


視線は石のまま。


「……最後まで……あいつ……逃げなかった……」


拳を固める。


「……怯えてたのに……機体……前に出してた……」


誰かが息を呑む音。


桜井が、ゆっくりと石を見る。


「……バカ……


 ……ほんと……バカ……」


だが、肩は震えている。


葛城が低く言う。


「……“50人食いの軍曹”……だったか……」


名前を口にしただけで、空気が冷える。


「……あいつ……」


隼人がゆっくりと立ち上がる。


拳を握り締めたまま。


「……俺……怖いままだよ……」


自嘲気味に笑う。


「……でも……」


地面を見つめながら言う。


「……怖いままでも……やるわ……」


他の者たちも、静かに拳を握り始める。


榊が言う。


「……ナギの分は……いらない……」


首を横に振る。


「……あいつの命の“代わり”なんて……誰にも無理だ……」


桜井が、小さく息を吸う。


「……だけど……」


目を閉じて。


「……忘れない……」


目を開く。


「……あのクモが……あいつを……奪ったってことは……」


葛城がゆっくりと石に手を伸ばす。


「……いつか……必ず……」


指が、石に触れる。


「……名前、ちゃんと刻める場所……取り戻す……」


最後に、隼人が言う。


声は静かだが、芯がある。


「……月影ナギ……」


誰も止めない。


「……聞いてたら……」


拳を胸に当てる。


「……俺たち……逃げない……」


風が、石の隙間を吹き抜けた。


静かに、しかし確かに。


七人の心の奥で、

憎しみと復讐が――小さく、燃え始めていた。


Xはじめました。

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