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第十四話  真の目的

警報が鳴り響く中、黒い影が外壁を跳ね回り、本部の隔壁をひっかき破るように進撃する。

天井から落下してくる複数の小型爆裂物が弾け、粉塵の中から八咫烏の強襲部隊が雪崩れ込んだ。


「第一機体部隊、展開! 本部を死守する!」

先頭で号令をあげるのは早乙女 一心。


粉塵を切り裂き、鋭く跳び出す一機体。

他の機体よりスリムで俊敏性重視の黒銀のフレーム――


バグロス・スカー。


・背中に小型ガス缶を複数搭載し、圧縮ガスを使って瞬間的に跳躍加速。

・腰と腕部には合計八本の“ワイヤーユニット”が内蔵されており、

 先端に刺突用のネジ状フックとバネ式の弾き機構。


壁に刺してジップ移動、敵に引っ掛けて拘束、または通常移動できない体勢での強制移動など自由自在。

・主武装はカッターナイフを大型化したスケールブレード。

・右肩にガス式リボルバーエアーガンをマウント。


早乙女がスイッチを押すと、背中のガス缶が短く「シュッ」と鳴り、

スカーは空中を軽やかに弾むように移動を開始した。


本部中央ロビー──

天井の換気路を破壊しながら、真っ黒なバグロスが落ちてくる。


黒煙と粉塵をまといながら、

天井から叩きつけられるように降下したその機体は、

明らかに正規仕様ではなかった。


全身を覆うのは、光を吸い込むような漆黒の装甲。

各部の接合は粗く、溶接痕がむき出しになっている。


右腕には――

輪ゴム式ガトリング。

無数のゴムを束ね、回転力で金属弾をばら撒く違法兵装。

発射前から、きしむような不快な音を立てている。


左腕はさらに異様だった。

腕部パーツそのものに、

ステーキナイフを溶接した刃が固定されている。

刃は欠け、黒ずみ、血と油の跡が混じっている。


――バグロス・ロベス。


その瞬間。


《――チッ……まだ“隊長サマ”やってんのかよ》


早乙女の視界に、ノイズが走る。

部隊無線が、強引に割り込まれた。


早乙女は足を止めず、

スカーを軽やかに宙返りさせながら、くすりと笑った。


「やあ半助。

 ずいぶん乱暴な入室だね。ノックって知ってる?」


《ヘラヘラしやがって……!

 その余裕ヅラが昔から気に食わねぇんだよ!!》


砦 半助の声は、歪んでいた。

怒りと執着と、長年煮詰めた劣等感が混じった声。


《俺が!

 俺が第一の隊長だった!!

 なのにテメェが来てから全部だ!!》


早乙女はワイヤーを一本、壁に撃ち込み、

ぶら下がるように宙で静止する。


「うーん……そうだっけ?」


あくまで柔らかく、

だが本気で思い出そうとしていない声音。


「ごめんね。

 “地位”とか“席順”とか、あんまり興味なくてさ」


《ふざけんなァァァ!!》


ロベスのガトリングが回転を始める。

輪ゴムが張り詰め、

今にも弾丸を吐き出そうとしている。


《俺は奪われたんだ!!

 評価も!信頼も!

 ……居場所もだ!!》


早乙女は、ほんの一瞬だけ視線を上げる。

天井の崩落跡、散乱する瓦礫、

恐怖で逃げ惑う非戦闘員たち。


「……ねぇ半助」


その声から、

からかいの色が一滴だけ消えた。


「それ、誰のせい?」


《……ッ》


「少なくとも、

 “本部を襲っていい理由”にはならないよ」


沈黙。

次の瞬間、砦の声が低く、粘つく。


《……だから潰すんだよ

 テメェを。

 テメェが守ってる“ここ”ごとだ》


早乙女は、再び笑った。

いつもの、柔らかい笑顔だ。


「なるほど。

 じゃあ――話は終わりだね」


スカーの足部ガス缶が、一斉に噴射音を上げる。


「半助。

 “昔話”は嫌いじゃないけど……」


ワイヤーが弾け、

スカーが一気に距離を詰める。


「今は、侵入者の処理が優先なんだ」


次の瞬間、

ロベスのガトリングが火を噴いた。


輪ゴムが限界まで引き絞られ、

次の瞬間――

金属音と共に、無数の弾丸が扇状に吐き出された。


「散れッ!!」


第一機体部隊の隊員たちが咄嗟に伏せる。

床、壁、支柱。

弾丸は跳ね、砕け、火花を散らしながらロビーを削り取っていく。

だが――


その嵐の中心に、早乙女はいない。


「おっと」


軽い声と同時に、

スカーのワイヤーが天井梁へ突き刺さる。


ジップトリック。


圧縮ガスが瞬間噴射し、

スカーは弾幕の“上”を跳び越えた。


砦が歯噛みする。


《チョロチョロと……ッ!!》


ガトリングの照準が追う。

だが早乙女は、まるで弾の軌道を読んでいるかのように、壁、柱、崩れた天井材次々とワイヤーを打ち込み、三次元的にロビーを舞う。


「ねぇ半助」


弾幕を紙一重で抜けながら、

早乙女は通信を開いたまま、楽しそうに言う。


「その武器、重くない?

 肩こり、ひどそうだよ」


《黙れェ!!》


ロベスが踏み込む。

床が沈む。


左腕――溶接されたステーキナイフの刃が、唸りを上げて振り抜かれた。


怪力斬撃。


空気が裂け、

刃圧だけで壁面が抉れる。


「うわ、危ない危ない」


だがスカーは、

その“下”へ潜り込む。


ワイヤーを床に撃ち込み、

自分自身を引きずり込むように滑走。

ワイヤーを床に撃ち込み、

自分自身を引きずり込むように滑走。


刃は空を切り、

背後の隔壁を真っ二つに裂いた。


砦の息が荒くなる。


《……逃げてばっかじゃ

 勝てねぇぞォ!!》


「え? 逃げてる?」


早乙女はスカーを反転させ、

ロベスの肩口すれすれを通過する。


「これは――

 “付き合ってあげてる”だけ」


その瞬間、

スカーのワイヤーが四本同時に射出される。


・一本はロベスの右肩装甲へ

・一本は左肘の関節へ

・残り二本は背後の壁へ


「なっ――」


砦が引き金を引く前に、

早乙女が小さく指を弾く。


弾き機構、作動。


ロベスの巨体が、

壁へ向かって強制的に引き倒される。


床を削り、瓦礫を巻き込みながら、

ロベスは体勢を崩した。


《クソォッ!!》


即座に、

砦は左腕を振り抜く。


至近距離からの刃塊横薙ぎ。


今度は当たる――

そう思われた瞬間。


「惜しい」


スカーの背中のガス缶が、

一瞬だけ白く噴く。


早乙女は、

刃の“内側”をすり抜けるように跳躍した。


刃が通過した場所には、

何もない。


「でもさ」


スカーがロベスの正面に着地する。


「力任せに振り回すの、

 昔から変わってないよね」


《……ッ!!》


砦の声が、怒りで歪む。


《テメェ……

 俺を見下しやがって……!!》


「うん」


早乙女は、あっさりと肯定した。


「だって――

 “見上げる理由”、一つもないから」


その言葉が、

砦の最後の理性を切り裂いた。


ロベスのガトリングが、

限界まで回転を上げる。


《殺すゥゥゥゥ!!》


弾幕が、

今度こそロビー全体を覆い尽くす。


だが早乙女は――

笑っていた。


「じゃあ、次はこっちの番」


スカーの右腕が、

静かに構えを取る。


試作兵装――零閃。


弾幕が、壁を、床を、天井を――

削り尽くす勢いで迫る。


だが、早乙女は一歩も退かない。


「……近すぎると、当たっちゃうよ?」


スカーの右腕。

その先端に握られているのは、

武骨で、原始的で――危険な試作兵装。


零閃。


ゴム式の発射機構を備えた“フォーク”。

先端には、爆竹を仕込んだ小型杭。


ガトリングの銃口が、完全に早乙女を捉えた瞬間――


「零距離」


早乙女が、呟く。


発射。


バン、という乾いた破裂音。


零閃は、

“撃つ”というより“突き出される”ように

ロベスの左腕へと叩き込まれた。


杭は――

左腕の大砲とマガジンを繋ぐ関節部へ。


《な――》


砦の声が、途中で途切れる。


次の瞬間。


炸裂。


爆竹が内側から弾け、

金属の継ぎ目を、無理やりこじ開ける。


ガキン、という不快な音。

続いて、引き裂かれるような破断音。


左腕の巨大砲が、

肩口から“もげた”。


《う、あ……!?》


宙を舞う大砲。

床に落ち、跳ね、

重い音を立てて転がる。


ロベスの左半身が、

一気に軽くなった。


「――あ、壊れた」


早乙女は、心底どうでもよさそうに言った。


「やっぱりさぁ

 違法改造って、耐久設計が甘いよね」


《て、てめぇぇぇぇ!!》


砦が吠える。


右腕のステーキナイフが、

今度は真正面から振り下ろされる。


怒りだけを原動力にした、

無茶苦茶な一撃。


だが――


「雑」


早乙女は、そう言って

ワイヤーを一本、砦の右手首に刺した。


弾き。


ロベスの腕が、

無理やり横へ引き倒される。


刃は床を叩き、

火花と瓦礫を撒き散らす。


「半助」


スカーは一歩、前へ。


「君、さ」


通信越しに、

静かで、穏やかな声。


「“地位を奪われた”って言ってたけど」


ワイヤーが、

今度はロベスの胴体と背後の柱を繋ぐ。


「実際は――

 自分で落ちただけだよ」


《黙れ……》


砦の声は、震えていた。


《俺は……

 俺は認められるはずだった……!!》


「うん、知ってる」


早乙女は、笑ったまま。


「だから、こうして

 “ちゃんと相手してあげてる”」


スカーの肩部が、展開する。


ガスリボルバーマグナム。


カチ、と乾いた音。


「ほら。

 最後まで、ね」


発射。


圧縮ガス弾が、

ロベスの胸部装甲を撃ち抜き、

内部機構を一気に攪乱する。


火花。

煙。

ロベスの動きが、完全に止まった。


《……く、そ……》


砦の声が、消えかける。


スカーは、

崩れ落ちるロベスを見下ろした。


「じゃあね、半助」


早乙女の声は、

いつも通り――柔らかい。


「昔の仲間として、言ってあげる」


一拍。


「――選ぶ道、間違えたね」


ロベスは、

沈黙した。


八咫烏の強襲は、

ここで――潰えた。


ロビーに残るのは、

瓦礫と、硝煙と、

そして――


笑顔のまま、

次の敵を探す男。


早乙女 一心。



本部ロビーに漂っていた硝煙が、ようやく薄れ始めた頃。


第一機体部隊と第二機体部隊は、連携を取りながら残敵の掃討に移っていた。


通路の両側から挟み込む形で展開する

椿原 虎徹率いる第二機体部隊。


無駄な声はない。


合図は最小限、動きは正確。

バグロスのブレードとシールドが、逃げ場を失った八咫烏の残党を確実に追い詰めていく。


一方、反対側からは――

早乙女 一心率いる第一機体部隊。


ワイヤーが壁を貫き、天井を走り、床を抉る。

ジップトリックで高低差を無視し、

八咫烏の機体を一機ずつ分断、制圧。


挟撃。


逃げ道は、ない。


「投降しなさい。

 それ以上やると、ほんとに痛いよ?」


軽い調子の早乙女の声とは裏腹に、

スカーのワイヤーは既に敵機の関節を封じていた。


数分後――

最後の抵抗が潰え、警報音が停止する。


《本部区域、制圧完了》

《敵性バグロス、全機無力化》


誰もが、胸を撫で下ろした。


――これで、一件落着。


……の、はずだった。


「第一機体部隊隊長、早乙女殿。

 第二機体部隊隊長、椿原殿」


駆け寄ってきた通信士の声が、どこか硬い。


「報告があります」


早乙女はいつもの笑顔のまま答える。


「うんうん、聞こうか」


だが、次の言葉で――

その場の空気が、凍りついた。


「武器庫……

 第三・第四ブロックに侵入痕を確認」


椿原が、わずかに眉を動かす。


「……被害は」


「バグロス用兵装、複数。

 クロスボウユニット、ブレード、試作パーツ数点……

 奪取されています」


沈黙。


瓦礫の音すら、遠く感じられた。


早乙女は――

少しだけ、目を伏せた。


そして次の瞬間、

いつもの笑顔に戻る。


「そっかぁ……」


軽い声。

だが、その裏で――


ワイヤーを握るスカーの指が、

きしりと音を立てた。


「真正面からの強襲は……

 “目くらまし”だったわけだ」


椿原が低く言う。


「……連中の目的は、最初から武器庫」


「うん」


早乙女は頷く。


「きっと、そう」


その笑顔は、変わらない。


だが――

悔しさだけは、隠しきれていなかった。


「やられたなぁ……」


笑っているのに、

目の奥だけが、冷たい。


「鉄斎……

 ほんと、嫌な手を使う」


八咫烏。

ただのテロ組織ではない。


狙いを定め、犠牲を計算し、

 “必要なものだけ”を奪っていく。


早乙女は、軽く肩をすくめた。


「まあ、いいや」


そして、静かに続ける。


「――奪ったってことは、

 どこかで使うってことだ」


スカーの頭部が、わずかに動く。


「なら、次はそこを叩くだけ」


笑顔の奥で、

確かな闘志が燃えていた。


八咫烏との戦いは――

まだ、終わっていない。


それを誰よりも理解しているのは、

他でもない。


早乙女 一心だった。




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