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焦りとゾクッ、そして美咲のヒーリング

山田剛がレベルアップしてから、状況は驚くほど変わった。山田の力は確実に強化され、今まで以上に簡単にモンスターを倒していた。筋力や反応速度が格段に向上し、攻撃力も飛躍的に増しているようだ。ダンジョン内を徘徊するスライムや飛行ムカデなど、これまで苦戦していたモンスターも、山田にかかれば軽く一撃で片付けられるようになった。


「おい、山田!お前ほんとに強くなったな!」と佐藤が笑顔で話しかける。彼はまだ剣などの武器を持っていないものの、持ち前の運動神経で機敏に立ち回り、戦闘には積極的に参加していた。特に素早さを活かして、仲間たちの隙をカバーしたり、攻撃を誘導する役割を担っている。


「いや、本当に軽くなったんだ。まさかこれがレベルアップの力とは…」と山田もまた、レベルアップによる強化に驚きながらも、それを受け入れていた。


モンスターとの戦闘が楽になり、探索は順調に進んでいた。だが、その一方で他のメンバーも次々と力を発揮し始めていた。


「次は俺の番だな」鈴木は戦闘の最前線に立つわけではないが、頭脳を活かしてチームの戦略を考え、戦闘をサポートしていた。鈴木の提案で、罠や待ち伏せなどの戦術を駆使し、モンスターを効率よく倒せるようになっていた。彼もまた、数日後にはレベルアップを果たし、さらに精密な戦略を立てることができるようになった。


「やっぱり、状況を見てから動くってのが一番だよな」と鈴木は、頭をフル回転させて次々に戦略を立て、皆を誘導していた。


「お前もレベルアップかよ、どんどん強くなっていくな…」真人は鈴木がレベルアップしたことを知り、焦りを感じずにはいられなかった。


その間、佐藤もまた少しずつ成長を見せていた。まだ剣などの武器は手にしていないが、持ち前の運動神経を駆使し、戦闘に参加するたびに徐々に戦闘の感覚を掴んでいた。


「おい!そっちは任せろ!」と佐藤が言うと、軽やかにモンスターを翻弄しながら仲間たちの支援に回る。素早い動きで敵を引きつけたり、攻撃を避けつつ反撃のチャンスを仲間に提供することができるのだ。


「佐藤もレベルアップしたか。これでますますダンジョン探索が進むな」と山田が感心した様子で言った。


「なんで、俺だけ…」真人は皆が次々とレベルアップするのを見て、自分だけが取り残されているような気がしてならなかった。レベルアップしていないのは彼一人。罠を作って貢献しているとはいえ、彼の焦りは日に日に募っていった。


ある日、いつものように罠を作りながら、真人は自分に対して独り言を呟き始めた。「俺もみんなみたいに、強くなりたいのに…なんで俺だけレベルアップできないんだ?」


その時だった。以前、ダンジョンで仲間たちと初めて出会った時と同じような、背筋が凍る感覚が突然彼を襲った。


「ゾクッ…なんだ、この感じ…?」


真人は一瞬立ち止まり、周りを見回したが、特に異変はなかった。音もなく、風も吹かない。ただ、その感覚だけが一瞬、彼を貫いた。だが、それはすぐに消え去り、何事もなかったかのように元に戻った。


「またか…一体何なんだ?」彼は頭を振ってその違和感を振り払おうとしたが、どこか引っかかるものを感じた。しかし、それ以上考えるのはやめた。今は自分の役割である罠作りに集中するべきだと思い直した。


それから数日が経ち、皆が次々とレベルアップしていく中、真人だけは依然としてそのままだった。戦闘ではなく、サポートとしての役割を果たす自分が、どうしても他のメンバーに比べて劣っているように感じてしまう。それが彼の心を蝕んでいた。


夜、皆が眠りに就いた後、真人は一人静かに起き上がり、隠していた趣味である粘土細工を始めることがあった。手先の器用さが彼の唯一の救いであり、心の平穏を保つための唯一の手段だった。


「みんなには言えないけど…俺はこれが好きなんだよな」彼は小さな粘土の塊をこねながら、心の中でそう呟いた。仲間たちには粘土遊びなんて恥ずかしくて言えない。それでも、粘土に触れている時だけは、現実の厳しさを一瞬だけ忘れることができた。


そんなある日、チームがまたもダンジョンを進んでいると、突然美咲が声を上げた。


「え、何これ…?」


「どうした、美咲?」山田が振り返る。


「私、レベルアップしたかもしれない…」美咲は驚いた表情で立ち止まり、自分の手のひらを見つめていた。「なんか、新しい力を感じる…」


「新しい力?」佐藤が怪訝そうに近づいてきた。


「うん、なんていうか…頭の中に、スキルみたいなのが浮かんでくるの。『ヒーリング』って書いてある…」美咲は混乱したように言葉を続けた。


「ヒーリング?それって、もしかして回復系のスキルか?」山田が推測する。


「そうかもしれない。多分、怪我を治せるんだと思うけど…試してみる?」美咲は少し不安そうな表情を浮かべながら、仲間たちに尋ねた。


「いやいや、試すって…」佐藤が苦笑しながら言いかけたが、その時、理恵が小さく指を切ってしまった。


「あ、ちょっと待って。理恵、今治してみるよ」美咲はすぐに駆け寄り、彼女の指に手をかざした。


すると、淡い光が美咲の手から発せられ、その光が理恵の指に包み込まれるように広がっていった。


「えっ…!?」理恵が驚いた表情で自分の指を見つめると、指の傷がみるみるうちに消えていった。


「す、すごい…本当に治った!」理恵は信じられないといった顔で自分の指を確認していた。


「これが…ヒーリングの力なのか…」美咲自身もその力に驚きを隠せない様子だった。


「すごいじゃないか!これで戦闘中でも安心だな!」山田は嬉しそうに笑いながら、美咲の肩をポンと叩いた。


「いや、ほんとにすごいな、美咲。これで俺たちの戦いも少しは楽になるかもな」佐藤も感心しながら、美咲を称賛した。


「ありがとう、でもまだこの力をどう使えばいいのか、完全にはわかってないんだ。もう少し練習してみるね」美咲は謙虚に笑いながらそう答えたが、その表情には少し自信が戻っているように見えた。


そして真人は、みんなの成長を目の当たりにし、再び自分だけが取り残されているという感覚に苛まれる。彼の焦りはさらに深まっていく。


「俺も、俺もいつか…」


だがその時、再びあの背筋が凍るような感覚が真人を襲った。


「ゾクッ…またか…?」


彼はその場で立ち止まり、再び周りを見渡したが、何も異変はない。ただ、その感覚だけが確かにそこにあった。

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