踏みにじられた希望、そして立ち上がる勇気
真人が激しい痛みに耐えながら地面に倒れ込んでいた。彼の目の前には、失神してしまったルーナと、震えて動けずにいるミリアがいた。グリムクロウはその巨大な翼を広げ、今にも止めを刺そうとしている。ミリアは目の前の光景に恐怖しつつも、どうすることもできず、ただ立ち尽くしていた。
「…逃げろ、ミリア…ごめん…」
真人のか細い声がミリアの耳に届いた。普段の真人ならば、もっと強気で自信に満ちた声を出していたかもしれない。しかし、今は違う。体中に痛みが走り、動けない彼に残された力は、ミリアにだけなんとか逃げてほしいという願いだけだった。
だが、ミリアはその声に答えることができなかった。彼女の頭の中では、過去の記憶がフラッシュバックしていた。仲間が次々と命を落とした光景――自分が、ただ見守ることしかできなかった苦い記憶が再び蘇ってきた。
――ミリアが真人と初めて出会ったのは、彼女がまだ奴隷として人族のダンジョン探索に連れてこられていた時だった。ダンジョンは過酷で、奴隷たちは人族の盾として使い捨てられていった。モンスターたちは容赦なく奴隷を狩り、仲間は次々と倒れていった。ミリアもまた、何度も死の淵に立たされていた。
探索隊がモンスターの襲撃に遭い、壊滅した時、ミリアだけが生き残った。彼女は洞窟の隅で、隠れるようにじっとしていた。その時、暗闇の中からひとりの男が彼女を見つけた。それが、真人だった。
真人は、他の人間とは違っていた。彼はミリアをすぐに保護すると、彼女が生き延びるための手助けを始めた。無表情のように見えた彼の目には、どこか哀れみが込められていた。ミリアはその時はまだ、彼の本当の意図を理解できていなかったが、その目だけは忘れられなかった。
ミリアは奴隷としての生活を送ってきたため、いつもボロボロの服を着ていた。その姿を見た真人は、どこか不憫に思ったのか、彼女のために何かを考え始めた。最初はそれが何なのか、ミリアにはわからなかったが、毎晩、真人が何かをコソコソと作業しているのを目にしていた。モンスターを倒してはその素材を集め、次第に形にしていった。
そして、ついに真人はそれを完成させた。彼女のために新しい服を作ったのだ。
「これ、ミリアのために作ったんだ」
彼はそう言って、ミリアに手渡した。その服は、真人の趣味が反映されたものだそうで、胸元が大きく開いていて、スカートは非常に短かった。際どいデザインだったが、それでも今まで着ていたボロボロの服とは比べものにならないほどのものだった。ミリアはその服を受け取り、しばらく眺めていた。
「……いいのですか?」
ミリアは小さくつぶやいた。奴隷として生きてきた彼女にとって、こんなに綺麗な服を着ることは、これまで想像すらできなかったからだ。
「もちろんだよ。ミリアのために作ったんだから」
真人の言葉は穏やかで、どこか誇らしげだった。
ミリアは服を着替えると、真人の方に向き直った。その時、彼の視線が自分の胸元や太ももに向かっているのを感じた。彼の視線はあからさまで、まるで無意識に見ているかのようだった。
「お見せしましょうか?」
ミリアは自然にそう言って、服を脱ごうと手をかけた。彼女にとって、体を見せることや服を脱ぐことに抵抗はなく、それは当たり前のことのように感じていた。
だが、真人は驚いたように顔を真っ赤に染め、慌てて手を振った。
「い、いや! そんなつもりじゃないんだ! 違うんだよ!」
彼は必死に否定し、その反応を見たミリアは少し不思議に思った。彼がなぜそんなに動揺するのか、理解できなかったのだ。しかし、彼の言動が本当に自分を気遣ってくれているものだということは、彼女には十分に伝わってきた。服を作ってくれたことも、彼が自分を大切にしてくれている証拠だと、ミリアは思っていた。
――今、ミリアはその時のことを思い返しながら、真人が自分にしてくれたことを思い出していた。彼は、彼女のことを大事に思ってくれていた。奴隷としてこれから、過酷な運命に晒されていくと考えていたミリアにとって、真人の存在は次第に特別なものになっていった。
「あなた様…」
ミリアは涙を堪えながら、真人が作ったクレイクラフトのナイフを手に取った。彼を助けなければ――そう強く思うと、彼女の中で何かが変わった。恐怖を抑え、勇気が湧き上がってくる。
「ルーナさん…真人様を…守らないと…!」
ミリアは小さく呟きながら、キャット族の俊敏さを活かして一気に駆け出した。彼女の小柄な体は素早く、グリムクロウの足元に迫った。その瞬間、彼女はナイフをクロスするように振りかざし、グリムクロウの脚を斬りつけた。
「これ以上、真人様に…近づかないで…!」
ミリアの叫び声と同時に、グリムクロウは驚いたようにその巨体を揺らし、後退した。ミリアの攻撃が成功したのだ。
その場に立ち尽くしたまま、ミリアの心の中では決意が強く燃え上がっていた。彼女はもう、ただの奴隷ではない。真人は自分が守るべき仲間なのだ。そして、彼を守るために戦う覚悟を決めたのだった。
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