異世界ダンジョンで迷子…粘土で気を紛らす俺
頭を強く打ち、暗闇の中に意識が薄れていくときに聞こえたあの謎の声が、今も耳にこびりついていた。
「お前を待っている……」
まるで夢の中の出来事だったかのようだが、どうしてもその言葉が頭から離れない。高野真人はゆっくりと目を開け、周囲の様子を確認しようとした。しかし、目の前には薄暗く湿った石の壁が広がり、どこか不気味な空気が漂っていた。
「ここは…どこだ?」
ぼんやりとした頭で周りを見渡すが、暗さのせいでほとんど何も見えない。しばらくすると、少しずつ目が慣れ、ぼんやりとだが周囲の状況が見えてくる。そこは明らかに自然な空間ではなく、人工的に作られたダンジョンのようだった。石造りの壁はひび割れ、天井からは時折水が滴り落ちる音が響いている。
「ダンジョン…だと?」
彼は頭を抱え、目の前の現実を信じられないような表情を浮かべた。バスジャックの混乱の中で、確かに銃声や悲鳴が響いていた。そして、頭を強く打った瞬間に意識を失い、この異世界へと転移してきたらしい。しかし、どうして自分がこんな場所にいるのか、さっぱり理解できない。
周りには誰の姿も見当たらない。バスに乗っていた他の乗客たちもいない。まるで自分だけが取り残されたかのようだ。薄暗い空間に立ち尽くす中、真人はふと感じた。
「俺、一人なのか……?」
その考えが頭をよぎると、急に胸の奥から孤独感が湧き上がってきた。今まで現実世界では、会社に行けば嫌でも誰かと会うし、孤独を感じることは少なかった。だが、ここでは全く別だ。見知らぬ異世界で、仲間もなく、ただ一人取り残されてしまったかのような感覚が彼を押しつぶす。
「くそ……どうすりゃいいんだよ……」
ふと足元を見ると、そこには湿った土が広がっていた。手を伸ばして少し触れてみると、その感触にどこか懐かしさを覚えた。粘土質の土。そうだ、これを使えば……。
真人は無意識のうちに、土を手に取り、形を作り始めていた。現実逃避のように、目の前の恐怖や不安を忘れようと、ひたすら土をこねる。その指先が、自然と自分の得意なクレイクラフトの技術を駆使し始めたのだ。指が土の柔らかさを感じ取りながら、徐々に形が整っていく。頭の中で何も考えず、ただ無心で作り続けるその行為が、彼に一時の安らぎを与えた。
しかし、土をこねながらも、ふと我に返る。
「何をやってるんだ、こんな時に……」
彼は出来上がった粘土の塊を眺め、呆れたように自嘲する。しかし、その粘土遊びの時間は、現実を一瞬でも忘れさせてくれた。周りの状況をもう一度確認しようと立ち上がると、ふと遠くから微かな物音が聞こえてきたような気がした。
「なんだ……?」
真人は耳を澄ませ、音の方向を探る。かすかに聞こえるのは、水が滴る音に混じった何か……話し声のようなものだ。遠くからではあるが、確かに人の声のように思えた。
「誰か……いるのか?」
恐怖と期待が入り混じった気持ちで、彼は音の聞こえる方へ歩みを進めることにした。しかし、足元に注意しながら、ゆっくりと進んでいくたびに、心臓の鼓動が速くなっていく。暗い通路の先に何が待っているのか分からないからだ。水が滴り落ちる音がさらに大きく感じられ、その度に彼はビクッと体を震わせる。
「落ち着け……ただの水だ……」
自分に言い聞かせながら、慎重に歩を進める。やがて、狭い通路が少し開けた空間へと繋がっていることに気づいた。そこには、他の場所よりも広い部屋が存在していた。天井は高く、石造りの壁には古びたランタンが吊り下げられており、かすかな明かりが部屋全体を照らしている。
「ここは……?」
真人は目を細め、その空間の中を見渡した。部屋の中央には、石の台座があり、古びた模様が刻まれているようだった。壁際には、大きな壺や家具らしきものが散らばり、長い年月が経過していることを示していた。
そして、その空間の奥に、5人の人影が見えた。真人は急に足が止まり、心臓が跳ね上がるのを感じた。
「……誰だ?」
5人の人影は、彼に気づいていないのか、何やら話し合っているようだった。だが、彼らは武器を持っている様子もなく、険しい顔つきでもない。真人はそっと息を潜め、しばらくその様子を観察することにした。
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