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地底湖の奇跡と妖艶なフクロウ

真人は異様な静けさに違和感を覚えながら、ダンジョン内を歩き続けていた。モンスターの姿が一切見当たらない。これまでは、どの階層でも絶えず遭遇していたが、今は気配さえ感じない。普段なら恐怖と緊張が襲いかかるはずの場所が、不気味なほどの静寂に包まれていた。


「どうなってるんだ…」


真人は、耳を澄ませながら警戒を怠らず進んでいた。彼の目に入ったのは、床に倒れた小さな物体だった。近づいてみると、それはフクロウだった。白と茶色の美しい羽が乱れ、かすかな呼吸をしている。通常のフクロウサイズだが、その目には明らかに知性が宿っていた。


「おい、大丈夫か?」


真人が声をかけると、フクロウはゆっくりと目を開けた。その目は鋭く、だがどこか艶やかさを含んでいた。


「…近寄らないで…」


驚くべきことに、そのフクロウは言葉を話した。上品で知識を感じさせる声だが、どこか妖艶な雰囲気が漂っている。


「お前、喋れるのか?」


「ええ、見ての通りよ…驚かせたかしら?」


真人は一瞬言葉を失ったが、すぐに正気を取り戻し、フクロウに再び問いかけた。


「こんなところで倒れてるなんて、どうしたんだ?」


フクロウは弱々しいながらも優雅な仕草で、少し体を持ち上げた。そして、小さく笑いを漏らした。


「そうね…少しばかり無茶をしてしまったのかも…モンスターたちに追われ、ここまで逃げてきたの。でも、途中で力尽きてしまったのよ」


彼女の声はどこか儚げで、それでいて真人を引き込むような魅力があった。だが、彼女の体は全身傷だらけで、今にも命が尽きそうなほど衰弱している。


「このままだとまずいな。ちょっと待ってろ」


真人は自分の荷物を探り、水筒を取り出した。中には地底湖で手に入れた最後の一滴の水が入っていた。この水は、自分自身が以前、怪我を負ったときに命を救ってくれたものだった。癒しの力を持つこの水は貴重だったが、彼はためらわずにそれを差し出した。


「これを飲め。少しは楽になるはずだ」


フクロウは驚いたように彼を見つめたが、その目には感謝の色が浮かんでいた。


「あなた…これがどれほど貴重なものか、分かっているの?これを私に使うなんて…」


彼女は躊躇しながらも、真人の差し出した水を受け取る。その動作は優雅で、どこか品格を感じさせた。


「いいんだ。俺にはこれしか方法がないからな」


真人は静かに言った。その言葉に、フクロウは一瞬沈黙した。彼女は小さく息をつき、慎重に水を飲んだ。瞬間、彼女の体が微かに光を放ち、傷口が少しずつ癒えていくのが見えた。


「感謝するわ…あなた、名は?」


フクロウはしなやかに首をかしげ、真人を見つめた。その姿は、まるで高貴な淑女が礼を述べるようだった。


「真人だ。で、君は?」


「ルーナよ。覚えておいてね。あなたが私を助けたこと、忘れないわ」


ルーナはそう言って、再び微笑んだ。その笑みには妖艶さがありながらも、どこか知的な奥深さを感じさせた。


「ルーナか…どうしてモンスターがいなくなってるんだ?」


真人が問いかけると、ルーナは少し体を起こし、冷静に答えた。


「私がここにいるからよ。私を追い詰めようとしたモンスターたちは、私が魔力を放つと、それに恐れをなして引き下がったの」


「魔力…?」


「ええ。私の体には、ある種の結界を作り出す力があるの。もっとも、傷を負った今はその力も弱まっているけど」


ルーナは、再び静かに語り始めた。その話し方には、どこか冷静で落ち着いた知識を感じさせつつ、言葉の一つ一つに優雅な色気が混じっていた。


「今の私は、力を完全には発揮できないけど、それでもこの周囲には魔力の残り香が漂っているわ。それが、モンスターたちを遠ざけているの。もっとも…彼らはそう長く我慢するつもりはないでしょうけど」


「つまり、君が回復すればまたモンスターが現れるってことか?」


「ええ、その通りよ。でも、あなたがくれたこの水のおかげで、少しは持ちこたえられそう。しばらくは安全だけれど、そう遠くないうちにまた彼らが戻ってくるわ」


ルーナの言葉には、確かな緊張感が漂っていた。彼女は自分の状況を冷静に把握しているようだが、その裏には焦りも隠されている。


「分かった、じゃあもう少しここで休んでから、俺たちで移動しよう」


真人はそう提案した。ルーナは彼の言葉を聞いて、ゆっくりと頷いた。


「ありがとう…真人。あなたのおかげで、命拾いしたわ。でも、これからが本番よ。私が完全に回復する前に、ここを離れなければならないわね」


「そうだな…でも安心しろ、俺がついてる。もう少し回復したら一緒に行こう」


真人は自分の荷物を整えながら、ルーナを見つめた。彼女は少しずつ力を取り戻しつつあり、その美しい羽が再び輝きを取り戻している。


「あなた、本当に優しいのね。あまり優しすぎると、損をすることもあるのよ」


「それでも、今は君を助けるのが俺のすべきことだと思ってる。俺だって、ここで倒れるわけにはいかないからな」


真人の言葉に、ルーナは静かに微笑み、再びその知的で上品な声で言った。


「ふふ、あなた、面白いわ。じゃあ、少し休んでから出発しましょう。私も少しは回復できたわ」


彼女の声はまだ弱々しいが、確かな力が戻ってきているようだった。

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