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.hack//C.S.  作者: 月京蝶
31/44

死神v.s.死神

★の予想通り、G.U.ではアール達を認めたが斑鳩は一歩引いての容認となった。

一通りの話が終わった後、エンデュランスが口を開いた。

「…上層部が立ち入りを許さないエリアに5人も入っていたのに、何の介入も無かったのは不自然じゃない?」

「確かに、泳がされてる感じするよな」

同じことを思っていたクーンが、エンデュランスの意見に同調する。この件に関しては、実際にエリアに行ったパイに★、恐らくアール達も疑問視している。だが、現時点では結論は出せない。

「連中もモルガナのこと分かんねぇから、俺達使ってんじゃないか?」

人一倍他人から利用されることを嫌うハセヲが、吐き捨てるように言う。

「それも可能性の一つとして、あちら側と検討しよう。今日の集会はこれで解散とする」

これ以上感情を乗せた議論は避けたいと、八咫は早々に閉会を宣言した。



メンバーが知識の蛇から出ていく中、離れて壁に寄り掛かっていた斑鳩が漸く動いた。

離れていたのは、話し合いに参加する気がなかったのもあるが、一番はハセヲと距離を取りたかったからだった。スケィスのデータ量が安定しているといっても、干渉を全く受けない訳ではないようだ。気を抜けば、また引き込まれそうにもなる。

今は特に気にすることではないが、この先斑鳩とハセヲ、二人の戦力を合わせなければならない時が来るかもしれない。そう考えていた★は、何とか干渉を抑える方法を見つけようとした。

「斑鳩、ちょっと良いかな?」

「…ん?何?」

★は出ていこうとした斑鳩を呼び止め、自分から駆け寄る。

★が見い出した方法は、嵩煌のプログラミングを応用したものだった。以前ハセヲを使ってもらった逆流を防ぐプログラムを、斑鳩用に書き換えて本人のデータに入れる。干渉をを完全には解消出来ないが、データの流出は抑えられるというものだ。

「別に、あいつと仲良くする気はねぇんだけど」

「すぐに仲をどうこうとは言わないよ。今後の保険みたいなもの、そう思ってくれれば」

★が斑鳩を宥め、データが入ったメモリースティックを渡す。斑鳩はおずおずと手を伸ばし、半ば仕方なく受けとる。持つ手の一部を分解し、スティックの中のデータと繋ぐ。淡い光が、二人の顔を照らす。

「…どう?」

「ちょっと容量デカいけど、なんとかなる」

斑鳩はゆっくりとデータを引き出し、手のグラフィックを再構築する。

「これで良いのか?」

右手で何度か拳を作り、ちゃんと元に戻ったか確認しながら★に聞く。

「机上の理論では、ね。出来れば実際に近付いてもらいたいんだけど…」

すると、斑鳩は何を思ったのか笑みを浮かべた。

「どうせなら、あいつのスケィスと一戦やってみるかな。それで問題無ければ、こいつの性能を心配することはなくなるだろ?」

しかし、それは★の想定した状況には無いものだった。スケィス同士が刃を交える時の干渉係数は、すぐに出せるものではない。

だが斑鳩が言うことも一理ある。最も干渉を受ける憑神同士の接近にも耐えられれば、杞憂から解放される。多少の危険は伴うが、★は斑鳩の提案を飲むことに決めた。

「ただし、ちょっとでも危ないと思ったら憑神を解除して離れてね」

「分かってる」

斑鳩が二つ返事で返すと、★はメンバーアドレスの一覧を開く。ここまで話が進んでも、ハセヲが承諾しなければ意味がない。幸いまだログインしており、エンデュランス、朔とレベル上げしているとのことだった。★が斑鳩のことを送ると、エリアワードだけが返ってきた。

「これは、受けて立つってことで良いのかな?」

★には、この辺りの男子心理は分からないようで、疑問符を付けざるを得なかった。

「俺はそう受け取る、ワード教えろ」

言いながら、斑鳩はカオスドームに向かって歩き始めた。★を同行させるには、正規ルートを使わなければならない。

「教えるから…って、ちょっと待ってよ;;」


△凝然たる 異界の カシオペア


洞窟ダンジョンで、声にも足音にもエコーが掛かる。

「第2層まで戻って来てくれてるみたい、ゲートは南西だって」

なんだか借りを作られたようにも感じたが、今は素直に従うことにした。


「…珍しいよな」

前を歩いていた斑鳩が、ふと呟いた。

「ん?」

「★なら反対すると思ってたから、憑神で戦うこと」

「まあ、内心では反対してるけどね。でもそれって、多少のリスクや失敗から逃げてるんじゃないかって思ったから」

「そっか」

★が吹っ切れたような笑みを浮かべて言うと、斑鳩も釣られて目を細めた。


言われた場所にゲートは光っていた。2人はそれを認めると、駆け寄って転送を行う。転送が完了し周囲に視線を走らせると、若干不機嫌気味の朔が見えた。

「俺、何か悪いことしたか?」

「…さぁ、本人に聞いてみたら?」

「あいつ苦手なんだよ…」

これ以上気分を損ねさせるのもなんなので、足早に向かうことにした。

「遅いっ!」

朔が地団駄を踏みながら、目尻をつり上げて叫んだ。

「ハセヲが言うなら分かるけど、何でお前がキレるんだよ…」

斑鳩が溜め息と共に小声で言うと、少し奥の岩に座っていたハセヲが立ち上がった。その傍にはエンデュランスも居る。

「大体、獣神像まで行ってたんだから街に帰れば良かっただろ?」

「…うっ」

斑鳩がそう指摘すると、朔の動きがぎこちなくなる。かと思えば、また威勢良く返してきた。

「う、うちはエン様についてきただけや!ハセヲなんかどーでもええ」

最後はプイッと顔を背けて、エンデュランスの方へ走っていった。

「ガキは良く分かんねぇな」

「良いじゃない、可愛くて^^」

★が可愛いと思える理由は、斑鳩には絶対に理解出来ないと感じた。そうこうしているうちに、ハセヲが少し距離を空けて立ち止まった。

「そのプログラム、本当に大丈夫なのか?」

「…さあな、ダメだったら俺ごとぶっ壊しても構わないけど?」


ただのふざけた会話のはずだったが、★には斑鳩が本気で言っているように聞こえてならなかった。★はエンデュランスと朔の方に行き、改まって会釈した。

「エンデュランスと朔ちゃんに、お願いがあるんだけど…」

「分かってるよ、もしもの時は僕らが止めに入る。僕はそのためにここに居る…」

★の頼み事は、既にエンデュランスが承諾していた形になった。過度の干渉が起これば、斑鳩のスケィスがまた暴走する可能性がある。

「そ、そうだったんか」

エンデュランスがハセヲに同行した理由を知った朔の中から、怒りが静かに引いていった。

「お願いしますね」





「んじゃ、とっととやるか」

ハセヲは腰に添えていた手を下ろし、戦闘する目に変わる。

「ああ。こっちが劣化してるからって、手抜きすんなよ」

斑鳩の言葉に対し、ハセヲは了解の意味を含んだ笑みを返した。次の瞬間、二人の声が重なる。


「来い…スケィスッ!」

「俺はここに居る、スケェェィス!」


憑神を纏った瞬間、二人は洞窟から消える。



スケィス同士が対峙し、同じタイミングで大鎌を展開する。データ量が安定している斑鳩のスケィスは、劣化があまり見受けられず、瓜二つと言って良い。

開始の言葉は必要無く、同時に急接近を仕掛けた。曲刄が交わり、斑鳩の刃が僅かにこぼれた。斑鳩は軽く舌打ちすると、退きながら衝撃波を放つ。ハセヲは急上昇して避けると、エネルギー弾で応戦するが回避される。

自分と同じ憑神を持つということは、憑神の長所、短所を相手も知っていることになる。スケィスは大型の相手には有利だが、素早い相手に勝つには接近することが絶対条件だ。しかし双方がそれを許すことない。

(これじゃ、いつ終わるか分かんねぇな…)

斑鳩は衝撃波とエネルギー弾を織り交ぜながら、ハセヲを自分の足下へと誘導する。その間に自身も降下して距離を縮める。ハセヲが衝撃波に気を取られている所に、一気に斬り込む。


「貰った!」

「…くそっ」

やられそうになったハセヲの脳裏に、条件反射的にデータドレインの文字が過った。


(…何考えてんだ、俺)

ハセヲの動きが止まり、斑鳩の曲刄が外れることはなかった。避けると思っていた斑鳩は、かなり重い一振りを入れてしまう。ハセヲのPCからスケィスの影が幽体離脱のように離れ、ハセヲ自身は洞窟の地面に叩き付けられた。斑鳩は慌てて憑神を解除して、ハセヲの元に駆け寄る。

「ハセヲ、今の何だよ?」

「悪い…一瞬、お前にデータドレイン使おうと思っちまった」

ハセヲはそのまま座り込んで、視線を落とす。だが斑鳩は咎めず、逆に笑い飛ばすように言った。

「つまり、そこまでお前を追い込めたってことだな。俺の戦力、ちょっとはあてになるんじゃね?」

斑鳩は手を出し、ハセヲを引っ張り立たせる。ハセヲはバツが悪そうに頭を掻くと、小さくあぁと返事した。


「大丈夫そうだね」

エンデュランスが、帰ってきた二人を見て★に言う。

「うん、これで一安心かな」




「…もう、被害者ぶってられねぇな」

ハセヲに背を向け、斑鳩が呟く。

「どうした、斑鳩」

「何でもねぇよ」





もう、あの実験の生贄ではない。

自分の力で先に進める。


Challeng of Sacrifice

《生贄の覚悟》



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