助けられて2
席について背を伸ばしただけなのに、あっという間にいつものそう君になった。
伊達眼鏡も、ボサボサ頭もそのままなのに、不思議。
てか、眼鏡も理性的に見えてきた・・・
ボサボサ頭も、よく見ればセットされてる・・・?
「伊斗、無理させてごめんね」
「いいよ、全然。むしろ助かったし」
「お詫びに、今日はデートしよ」
「やだ」
「ケーキ奢ってあげる」
「・・・しょうがないな。少しだけだよ」
決してケーキに釣られた訳じゃない。
ショートケーキも奢ってもらって、さっもう帰ろうか、なんて態度で席を立ったら、さらっと手を繋がれた。
「じゃあ、行こ」
「どこに?」
「原宿とか」
「んー、そう君とかぁー」
「嫌?」
「目立つじゃん。なんかそーゆーの煩わしい」
「眼鏡したままにする?」
「髪もね」
「はは、断らないんだ」
「そう君の奢りでしょ?」
「うん。いくらでも奢っちゃう」
その後なんやかんや、めちゃくちゃデートを楽しんでしまった。
そう君は私の好みを熟知しているから、しょうがない。
というか、これが前世と今世あわせて初めてのデートだと言う事は、考えないようにした。
そう君が初デートの相手だなんて、笑えない冗談だ。
後日、友だち達からまた遊ぼうと頼まれたけど、イケメン'sが忙しいとか言って有耶無耶にして逃げている。
◆◆◆◆◆
GW終わってすぐの体育祭。
私は運動が苦手。
受験もあるし、3年生は免除されてもいい気がする。
青春とは無縁だし。
友だち達は、欠席。
私は欠席する勇気もない。
クラスメイトに迷惑かけられないし。
でも、欠席した方が迷惑にならなかったかも・・・
そんな私は気付いたら、保健室でした。
そう言えば、熱中症って5月でも結構多いんだね。
最後の記憶は、バレーボール終わって、足を引っ張っちゃったお詫びにみんなの分の飲み物を買いに行ったところ・・・
私って、パシリ属性なのかな・・・
そんな事をボンヤリ考えていたら、隣に誰かの気配が・・・
「気が付きましたか?」
「は・・・」
はい、と答えるつもりだったのよ。
でもね、声のする方を振り向いたら、言葉が詰まってしまって。
「・・・菊池さん?」
「残念。僕は松下です」
「わぁあ!ごめんなさいっ。知ってる人に雰囲気が似てて・・・」
「大丈夫そうですね、鈴木先輩」
「なんで、名前・・・」
「体操服に、名前書いてありますよ」
松下君の言葉に、思わず赤面してしまった。
そうだ、名前書いてあるじゃん・・・
てか、先輩って事は、年下なのか。
いやいや、てか松下君はなぜここに・・・
「ごめんね!覚えてないんだけど、運んでくれたのかな?ありがとう」
「倒れそうになった所を受け止めたので、そのまま運んだだけです。大丈夫ですよ」
「そうだったんだ!重いのに、ありがとう」
「いえいえ。・・・それじゃ、僕、先生に先輩が目覚めたって言ってくるんで」
「ほんとに、ありがとう」
松下君はぺこりと頭を下げて保健室を出て行った。
眼鏡をしてて、優しげで・・・前世で私を初めて食事に誘ってくれたスーパーの店員の菊池さんに、雰囲気が似てた。
なんでだろう、もう17年も経つのに何故か覚えてる。
少ししか話した事もないのに。
なんだか心がほんわかして、優しい気持ちになった。
私は軽い熱中症だったみたいで、そのまま帰宅することになった。
幸い意識もしっかりしてるし、身体もスッキリしてる。
先生達は両親に連絡しようとしてたから、それはやめて欲しいと土下座して1人で帰った。
両親の事だから、そう君に連絡が行って、そう君が迎えに来ちゃう。
両親のそう君への信頼度が上限突破してて、怖い。
高3にもなって幼馴染がお迎えにくるって、恥ずかしいし。
でも、会いたくない時に限って会っちゃうんだよね・・・
「伊斗、こんな時間にどーしたの?」
「んー・・・、私って運が悪い」
「今日って体育祭だっけ?」
「そだね」
「早くない?まさか、気分悪くなって早退とか?」
「サボってる訳じゃないからね。ただ、ちょっと・・・立ちくらみ、してさ・・・」
「ふーん」
倒れて保健室運ばれたなんて言ったら怒られそうな気がして、とっさに嘘を吐いてしまった・・・
「今日はもう予定ないし、家まで送るよ」
「いいっ!ホントにいいって!」
「また倒れたらどうするの?」
「1日にそんな何回も倒れる訳ないじゃん」
「そっか。今日倒れたんだね。熱中症かな?」
「かかか鎌かけたの?」
「まだ暑さに慣れてないから、気を付けないとね。ほら、黙って送られて」
なんか、そう君には勝てない。
いや、こんな完璧な人間に勝てる訳ないか。
松下君に癒されたいなぁ。
「松下君って?」
「うそっ、口に出てた?!」
「伊斗って可愛いよね。それで?松下君って誰?」
「後輩っ!今日保健室まで運んでくれたの」
「ふーん。・・・松下君って、眼鏡かけてて、優しげな感じかな」
「エスパー?!こわっ!」
「伊斗の好みは、分かってるから」
「いや、好みって訳じゃ・・・」
「昔から、変わらないよね」
「こんな話したの、初めてじゃ・・・」
言葉が続けられなかったのは、振り返って見たそう君の顔が見た事もないくらい無表情で怖くて・・・一瞬頭をよぎったのは、前世で殺された時に見たあお君の顔だった。