支配されてた
お昼の後、そのままサボる勇気もなくて。
結局その日は6限まで授業を受けて、急いで帰宅した。
幸い、誰にも声を掛けられなかった。
はる君には、体調悪いから先に帰るって連絡入れといた。
その内、私の噂を聞くことになるだろう。
はる君はどう思うかな。
ブーッブブッ
着信を知らせるバイブの音に、スマホの画面を見る。
そこには、はる君の名前。
もしかしたら、もう噂を聞いてるのかもしれない。
躊躇って、結局出なかった。
そう言えば、今日は家庭教師の日だった。
そう君にも、連絡入れとかなきゃ・・・
体調悪いから今日は行かない、とだけ送ってベッドに横になった。
何も考えずに、ぼーっと自室を見て。
気付いたら寝てしまっていた。
なんで寝てるってわかったのか。
それは、あお君がいたから。
あんな事があったからかな。
前世だったら考えられないけど、私は夢の中のあお君に愚痴っていた。
「なんで私が男の子と仲良くすると、他の子にいじめられるんだろう・・・」
「お前がナメられてるからだろ」
「なめられるって・・・じゃあ、どうしたらいい?」
「強くなれ」
「そんな抽象的な・・・」
強くなれって、なに?
私が弱いからいけないの?
私を弱くしたのは、あお君なのに・・・
あお君に愚痴ったって、無駄だな。
そりゃそうだ。
いじめる側の人だもの。
「・・・なんで、私に付き纏って、挙句殺したの?」
「人をストーカーみたいに言うな」
「ストーカーの方がまだ可愛いよ・・・あお君は、私を支配してた・・・」
「・・・そうだな。支配したかった」
「なんで、私だったの」
「・・・俺にもわからない」
「は・・・なによ、それじゃ私は納得できないよ」
「・・・」
「そんなの、ひどいよ・・・」
「責めたきゃ責めろ。それでも、離してやれない」
「ひどい・・・」
あお君がぼんやりとしてきて。
涙が出てることに気付いた。
あぁ、もう目が覚めると思った。
もっと言いたい事があったはずなのに、頭に霞がかかったように思い出せなくなる。
「伊斗・・・伊斗?・・・」
おかしいな、そう君の声が聞こえる。
これも夢?
「夢じゃないよ」
「っ?!」
耳にしっかりと届いたそう君の言葉に、急いで起き上がる。
「・・・なんで」
「心配で」
「・・・今日、ごめんね」
「大丈夫だよ。それより、体調ど?」
「・・・良くなったみたい・・・」
「うそ。まるで幽霊でも見たような顔してる」
「・・・そうかな」
「本当に体調が悪いの?」
「・・・どうだろ」
「俺ってそんな頼りない?」
「ただの、幼馴染に、話すことじゃない」
「じゃあ、叔母さんになら話せる?」
「・・・話せない」
「誰にも言えないなら、俺に言いなよ。言葉にしてみたら見える事もあるかもよ?」
「・・・そうかな。なんとか、なるのかな。私・・・」
続く言葉は、優しく抱き締めてきたそう君の温もりに、消えてしまった。
小さい子どもみたいに、頭を撫でられる。
気持ちは全部預けられないけど、でも、少しだけ涙を預けてみた。