イジメられて
「・・・」
教室に入って自分の席につくと、机の上に落書きがされていた。
机には卑猥な文句が書かれていて、遠い前世を思い起こさせた。
(昔も、こんなのあったな)
前世での諸悪の根源であるあお君の下僕だった私は、いつも陰湿ないじめを受けていた。
やれ、ブスが勘違いするなだの。
やれ、あお君に付き纏うなだの。
付き纏ってたのは、あお君だってのっ!
懐かしい思い出に浸っていると、離れた所から小さく笑う声が聞こえてきた。
その声の方には、友だち、もといパシリ元がいる。
そっか、もうパシられなくて済むのかな・・・
私は黙って席につき、消しゴムを取り出して無心に落書きを消す。
少し薄くなるくらいで、手を止めた。
消しても消しても、また書かれるのだから。
これくらい薄くなれば、それでいい。
疲れるし。
もうすぐ1限の授業が始まるというところで、パシリ元が私の方にやってきた。
勝手に身体が強張った。
みんなの手前、手は出してこないだろうけど・・・
「伊斗さぁ・・・先週の金曜、めちゃくちゃイケメンと一緒にいたでしょ?」
「そうだね」
そう君関係かぁ・・・
「でも、最近2年の男とも一緒に帰ってるでしょ?」
「・・・そうだね」
はる君もか・・・
「前はいくら紹介してってお願いしてもダメだったのに、自分は2股?男に興味ありませんってフリして、何人の男を咥え込んでんだか」
「このヤリマン!」
「・・・」
何も言い返さず俯いた私に、「ふん」と言ってパシリ元は自席に戻っていった。
この会話をクラスメイトに聞かせて、今日中には学年全体に伝わるだろう。
悪口が広まるのは一瞬。
今週中には全校の有名人になれるかも。
口元だけで笑みを作る。
こんなの前世だけで勘弁してよ・・・
教室は授業中だけは安全地帯でも、休憩に入ると一変してしまう。
気分の悪くなるイタズラに目をつぶり、陰口を聞き流した。
なんとか4限までを耐え抜き、お昼時間になると荷物を掴んで誰よりも早く教室を飛び出した。
校庭の隅の桜の木の根元に座って、これからの事を考える。
みんな受験でピリピリしてるから、少しでも隙を見せたらストレス発散にイジメられる。
でもあと半年ほどで卒業というこの時期に、不登校なんてしたくない。
受験もある。
(・・・教室戻りたくないなーーー)