女の子扱いされて
「伊斗先輩、新曲ダウンロードしたんですけど聴きます?」
「わぁ!ありがとう!」
夏期講習のお昼休憩、はる君と一緒に空いてる教室でお昼を食べていた。
そう君といる時と違って、変に気を使わなくて済むし、すごく楽しい。
いや、はる君がどう思ってるかはわからないけど。
「イヤホン、どうぞ」
「ごめんね。ありがとう」
YouTubeで1分ちょいのWebCMを観てたけど、フルバージョンは初だからすごく楽しみ。
イヤホンを受け取って、ニヤける顔を隠す事もせずに耳に嵌める。
流れてくる音に、目を閉じて集中する。
その間、はる君は携帯をいじっていた。
音が止まるのを待ってから、イヤホンを外して目を開ける。
「最高っ!いや〜、やっぱいいなぁ。癒される〜」
「それは良かったです。何回かリピートします?」
「えっ!いいの?!」
「いいですよ。休憩終わるまでなら」
「はる君、ありがとう!」
「いいえ」
そのままありがたくイヤホンを貸してもらう。
はる君は参考書を取り出して見始めた。
そんなはる君を、チラッと盗み見る。
イケメンって訳じゃない。
だから、一緒にいても苦しくならない。
年下だけど、穏やかで落ち着きがあって、年下だと思えない。
たまに見せる柔らかな笑顔には、ドキッとさせられる事もある。
「そろそろ休憩も終わりかな・・・イヤホン、ありがとう」
「いいえ。今日は最後まで残るので、一緒に帰りますか?」
サラッとこーゆー事言える所は、イケメンだな。
「ううん、大丈夫。最近、面倒な幼馴染にこの塾の前で待ち伏せされててさ。うるさい姑みたいな奴だから、はる君会ったら巻き込まれちゃう」
「え・・・それって、大丈夫なんですか?」
「ウザいけど、大丈夫」
「何かあったら、言ってくださいね。伊斗先輩、女の子なんですから」
「うほぉっ!・・・いやっ!ごめん・・・変な声出た」
私って女の子だったんだなぁ。
いや、そう君も女の子扱いするけど、あれはなんか違う。
「ありがとね。自分が女子だって忘れてたわ」
「伊斗先輩は年上とは思えないくらい、可愛い女の子ですよ」
「褒めても飴くらいしかあげられない・・・ごめんね」
こんな事、そう君以外からは言われた事ない。
勘違いしちゃいそうな恥ずかしい内容で、顔が赤くなってるのを誤魔化すために冗談で返した。
いや待て、これはガキっぽいって言われてるのかな。
「伊斗先輩」
「っはぁい!」
はる君が怒ってるみたいに低い声を出すからビックリした。
「冗談じゃないです。ちゃんと自覚して下さい」
「はい・・・、ごめんね。心配してくれてるのは分かった!頼りない先輩で、申し訳ない・・・」
「それはいいんですけど・・・。その幼馴染さんは、頼りになる人ですか?」
「んー、人間性はちょっと疑ってるけど。今のところは頼りになるかも」
「それなら、ちゃんと送ってもらってくださいね」
「う゛、あ、はい」
後輩の言いなりだけど、はる君は良い子だから。