殺されて
また勢いで書いていきます。
こんなんしか書けません。
私は産まれた瞬間に運を使い果たした。
絶対そう。
だって・・・そうじゃなきゃ、あり得ないでしょ。
初めて男性から食事に誘われて。
待ち合わせ場所に向かったら。
後ろから・・・
ぐさっ。
なんてさ。
「ああ、あお君・・・な、なんで、・・・」
吃る私の背中には、包丁の柄が出てて。
背中がドクドクして、熱くて、すごく痛い。
あの、あお君が、包丁で私を?
いやいや、あり得ない。
長身、イケメン、イケボになんでもできる天才。
主人公な私の幼馴染。
私は平凡なモブ。
中学校までは下僕としてこき使われて。
高校から別々になって、やっと離れられた。
高校を卒業してからは上京して一人暮らし。
もうあお君に会わなくて済むと思ったら、恋愛運も上向いてきた。
いつも利用しているスーパーの店員さんに声を掛けられて、食事に誘われた。
優しそうな眼鏡君だったけど、ドタキャンしてごめんね・・・
だんだん身体に力が入らなくなってきて、倒れた。
痛みも感じなくなってきて、あぁ私、ホントに死ぬんだなぁ・・・
デートも、キスも未経験のまま・・・
あお君はずっと私を冷めた目で睨んだまま。
私、何かしました?
私が子どもの頃からずっと心の中で唱えてた呪いがとうとう発動したとか?
その割に禿げてないな。
意識も遠くなってきて、なにも考えられなくなる。
こうして、私は幼馴染のあお君に殺されたーーー
◆◆◆◆◆
結局、私の人生ってなんだったんだろう。
「お前、今日から俺の」
あお君のその一言で、私の人生は終わった。
まだ3歳だった。
久我 蒼芭。
すごく綺麗な顔の傍若無人な俺様男。
私は中学卒業までこき使われた。
ちなみに「あお君」って呼ばないと怒られるので、ずっとこの呼び方。
あお君が大嫌いだった。
あお君のせいで友だちもいなかった。
散々な人生だった。
だからなのか、神様がこうして生まれ変わらせてくれた。
「まーま」
まだ2歳の子どもだけど。
これからは前世でできなかった事、ぜーんぶやるんだ!
「いーとちゃん。今日はママのお友だちが、伊斗のお友だちを連れて来てくれるからね」
「ともたち?」
まだ発音は練習中。
でも、友だちだってっ!
前世も合わせて、初めての友だちっ!
仲良くなるぞ!
ピンポーン
「綾菜、いらっしゃーい。入って入って」
「お邪魔します」
ママの後ろに隠れて顔だけ覗いてみたら。
綺麗な女の人と、同じように綺麗な顔をした女の子。
「おじゃまします」
(声まで可愛い!)
思い切って、ママの後ろから飛び出して。
「いらっしゃいませ」
って言ってみた。
「可愛い!あなたが伊斗ちゃんね?こっちは私の息子の、奏吾よ。よろしくね」
「えっ・・・おとこ、のこ?」
「女の子みたいな顔してるけど、男の子なの」
カチンって音がしたみたいに、身体が固まった。
思い出すのは、俺様な元幼馴染ーーー
(ままままさかっ・・・)
そうご君はにこって擬音が浮かぶかの様な、可愛い笑顔を浮かべて、
「よろしくね、いとちゃん」
と手を差し出した。
(かわあぁぁー!)
思わず赤面してしまう。
この年でこの可愛さ・・・
将来はどんなに可愛くなるんだろう!
私は急いでそうご君の手を掴んだ。
「よろしくっ!」
そうご君の可愛さに、すっかり元幼馴染の事を忘れてしまったのでした。