シュタインクロイツ/3
疲れてきた
戦ぐ枝葉と柔らかな木漏れ日。
自分は、十石に連れられて神社奥の林道を歩いていた。およそ整備されているとは言い難い、凸凹だらけのさながら獣道である。そして一般には公開されていない、いわゆる立入禁止エリアでもあった。
理由は気になるところだが、然るべきタイミングで教えてくれる――或いは否応なく知らされるはずだと信じ、今は黙っておこう。どうせ答えてくれないし。それよりも知りたいのは――。
「いったい、どこまで続くんですか、この道」
歩き始めて約三十分。ゴールはいまだ見えず。
そろそろ足も疲れを自覚し始めた。肉体面では問題にはならないものの、精神は削られるばかり。平面ゆえマシだが、地面のわずかな凹みに足を取られそうだった。
――地図や航空写真では、森というほどの規模じゃなかったのに。
「んはは。秘匿課なんだからこれくらいで音を上げないでくれよ」
私の思考でも読んだのか、十石がこちらを一瞥する。その横顔と声は余裕たっぷりだった。流石は秘匿課最上位の実力者といったところか。
彼の様子にあてられて、こちらも見栄を張る。
「まだ大丈夫です、これでも、組織内では鍛えてる方なので・・・!」
この際、どれだけ鍛えても体力の向上する気配がないのは秘密にしておこうと誓った。
「へぇ。ああでも、ゴールはもうすぐかも。残念ながら、鍛えた成果はまだ発揮できそうにないね」
「そ、そうですか」
極めて冷静に返す。内心は安堵でいっぱいだった。
それから、先を歩く彼を追う。
歩く。歩く。
歩く。歩く。
躓く。歩く。
無言で、進み続ける。
「・・・まだ、ですかね?」
再び十石に声をかけたのは、もう五分歩いてからのことだった。
「ゴールは近い。でも、まだたどり着けない」
「たどり、着けない?」
汗をぬぐいながら鸚鵡返す。どういう意味か聞き返す前に、「例えば、君は今の自分の背後に何があると思う?」と、目前を歩く十石が、哲学者の如く言ったのだ。
「木と凸凹の道・・・ですかね」
「じゃあ、確認してみなよ」
何を言っているのかわからなかったが、取り敢えず振り返ってみる。
想像と宣言の通り、左右の木と凸凹した未舗装の土道があった。
「やっぱり木と道でしたけど」
視線を十石に戻す。彼は振り向いてはいなかった。自分だけが馬鹿を見ているみたいな気分に襲われた。
「それじゃあダメ。そしたら僕の方向が背後になってるだろ」
「当たり前でしょう、そんなの。私は目が前にしかついてないんですから、背後をリアルタイムに視認なんてできませんよ」
十石が変なことを言うので、思わず失笑してしまった。
「でも、それができないとゴールどころか、まずこの道から出られないぞ?」