表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
./prototype  作者: 不レ禍
1/5

三人よれば

 雨。

 叫び声もかき消えるほどの豪雨。

 気象警報の影響もあって、街は雫の奇想曲(カプリーチョ)に呑まれている。

 ──ゆえに、()()はより異様であった。

 切れ目なき暗雲の下、高層ビルの屋上に()つの影が集っている。

 ひとつは、黄金色の瞳が目立つ男。

 ひとつは、三尺の太刀を腰に帯びた男。

 ひとつは、小洒落た丸遮光眼鏡(ラウンドサングラス)を掛けた男。

 皆、同年代で、同一の背広を揃って着ていた。

 全員、古い顔見知りだった。この国でも特別な三人だった。

 しかしその間にあるのは、親愛ではなく拒絶。

 同じ組織、同じ立場、同じ起点。だからこそ、道は違えども同じ結論を持ってそこにいる。

 だが、誰も言葉を発しようとはしなかった。

 発せば直ぐに、誰かが死ぬことは明白だったから。


 沈黙は三分、或いは永遠に続いた。

 豪雨は止まるところを知らず、一方強く打ち付けるばかり。時折吹く風もまた、死神の吐息が如く彼等を揺さぶった。

 (ソラ)(マチ)の狭間、もはや此方の世ではなく――彼方(アチラ)の夢か。

 長い微睡の末、誰かが溜息をついた。


「にしても、まさか全員揃うとはな。妙月(みょうげつ)はまだしも、十石(じっこく)が予定通りにくるなんて」


 口を開いたのは、遮光眼鏡の男だった。冗談を装っているのか、薄ら笑いを口にだけ浮かべている。

 当然だが、三者はもれなく現状を理解していた。加えて言えば、理解しているという一点においては、少なくとも信頼すらしている。それでも彼が笑ったのは、朋友への礼儀とでもいうべきか。

「別に、僕だって大一番くらいは刻限を守る。これでも組織の一員という自覚はあるんでね」

 太刀を帯びた男が、首を回しながら言った。空気の重圧が嘘のように、その動作は隙だらけであった。

「そっちこそ、副業で忙しかったんじゃないの?」

「問題にもならねーよ。所詮は暇つぶしのひとつだ」

「へぇ、流石は音に聞く枯草(かれくさ)じゃん」

 最後の言葉は、妙月と呼ばれた金瞳の男のものだった。他二人と違って、女性と勘違いするほどの綺麗なその声は、三者の距離をより近く感じさせた。

 間隔はそれぞれ二メートル。やろうと思えば確実な距離だ。

「んじゃ、再会の感傷に浸る前に、手っ取り早くいきますか」

 枯草と呼ばれた男が、指の関節を鳴らした瞬間。


 拒絶が、一斉に殺意へと切り替わる。


 そして男共は、()()()()()()()()()()()()()()()

 妙月は枯草に、枯草は十石に、十石は妙月に。上から見ればさぞ整った正三角形が描かれていることだろう。

「OKOK。普通に全員その気だったか。・・・なあ妙月、こっちについて十石をボコボコにしない?」

「そしたら私の一人負けじゃん。それに、そんなことする為にここに来てない。私も、お前等も」

 妙月は命を握られているにも関わらず、堂々啖呵を切った。

「我々は常に、国の秩序に尽くさねばならない」

「秩序、ねぇ」

 枯草は冷ややかな視線を妙月に送る。心なしか、拳銃を握りしめる力も強くなった。

「組織の厨二セオリーなんて出すからには、相応した事情があるんだろーな?」

「あるよ」

 ひとつも引くことなく、妙月は見つめ返した。逆方向の十石に拳銃を突き付けられているというのに。

 すると枯草は、銃を突き付けながらも観念した様子で軽く失笑した。

「なら、順番が前後するが状況を整理しよう。こっちだって疑心暗鬼だからな。・・・できれば一人くらい別の犯行理由であってほしいもんだがね。まずは――十石?」

「僕に振るんだ、この話の流れで」

 まあいいけど、と半ば諦めたように、十石は肩をすくめてみせた。

「なんの話からするべきか迷うけど・・・まあ概要からでいいか。気になったら止めてくれ」

わざとらしい咳払い一つ、彼はなぞなぞでも出題するかの如く自然に話し始めた。

「僕はとある殺人事件の調査を指示された。ああ、もちろん枯草に回すよう取り入ってみたけど、お前がノーギャラお断りの一点張りだったから僕になったんだよ」

「だって、サービス残業なんてしたくないし?」

 枯草は飄々と答えた。十石は構わずに続ける。

「何せ、被害者が組織構成員だったから外部依頼も頼めない。ついでに、犯人は()()()()だ。僕の得意分野で助かったが、下手に情報を漏らしちゃいけない。仕方なく受けるしかなかったさ。

それで、最初に被害者の情報を諸々渡された。

被害者は男性。死亡推定時刻は午前二時から三時。俗に丑三つなんて云われる時間だ。目立った外傷は見られず、解剖しても死因は不明。状況からして贄として殺されたのだけがヒントだった。肩程までの黒髪に、猫のような瞳が特徴的な奴だったよ。名は――」

 風が吹く。

 十石が口元を歪めた。妙月は、途轍もなく嫌な予感がした。


「――妙月彗五(みょうげつすいご)ってさ」

続きは書き出しやし、飽きたらやめる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ