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蒼く染まりきれない僕らは

作者: 勿忘草

親友が死んだ。

一家心中だった。

あいつは…大輝は…自分から死ぬような奴や…ないはずやのに…

大きな存在を失った喪失感と親友のはずやのになんも知らんかったことに対するモヤモヤが怒りになって、涙に変わる。

首に縄の跡が着いた遺体は3つ、横に静かに並べられている。

大輝のは1番右だった

僕は大輝の棺に覆いかぶさり、掠れた声を絞り出す。

「なんで…なんでや…大輝…」

もう、大輝には…届かへんのに…わかっとるのに…

棺に落ちる涙を見て、唐突に小3の夏の記憶が蘇る

その記憶は鮮やかで、まるで昨日の事のように溢れ出てきた

自分でも忘れていた。古い、記憶。

ふっと夏の匂いがして、僕は海に沈むように静かに目を閉じる

あの日も、今年と同じくらい。暑い夏やった…

まだ、ばぁが元気だった頃や。ばぁの家の縁側でスイカを食べとった

探究心旺盛な僕は毎日何かしらの疑問を持っとって、それをばぁに聞いとったと思う

その日は妙に空に興味があった、青く澄んだ空に垂れ落ちてきぃひんかと思うほどの白い雲。

それに手を伸ばしながら僕は

「なな、なんで空って青いんやろ」とばぁに尋ねる

ばぁは母ちゃんの母ちゃんで、90近かったから色んなことを知っていた。だけど、謎多き人で、その中でもニコリとも笑わないのは、幼い僕にとっては怖かった

「あおやのぉて、あおや」

淡々とした口調で答えるばぁに

「何が違うんやぁ」と悪態をつく僕

ばぁはコトリと湯呑みを置くと、紙に静かに字を書いた

昔書道の先生をやっていただけあり、力強く、繊細な字だった

大きく1文字『蒼』と

「あ!僕の字や!」僕は思わず叫ぶ

僕のソウとゆう名前はこの字が当てられる

「せや、あんたの名前の字や」

「あんたの名前はな、じぃがつけたんや」

ばぁは口調を変えずに答える

じぃは僕が生まれてすぐに病気で亡くなったから、覚えて居ないし、ばぁはじぃのことをあまり話たがらない。

「空の蒼はな、死んだ人を想って流した涙の色なんや」

「その人を想えば想う程、色が濃く映るんやよ」

「じゃぁ、ばぁは、じぃのせいで空を蒼く染めたん?」

ばぁははっと息を呑む。まるで、聞かれたくない質問をされたかのように表情を歪ませ、

「忘れてもうたわ、ばぁはもう、歳やさかい。」

と言って何処か遠くを見つめていた

その時のばぁは心なしか微笑んでいた…ような気がする


ぱっと目を開けるとぼくはまだ大輝の棺に覆いかぶさったままだった。

大輝の顔をもう一度まじまじと見る。

僕と同じ、17歳の顔だ

「いくらなんでも…はやすぎるやろ…」

また視界が歪む。

その歪みは熱を持って、押し出され、頬を伝い、また棺に落ちる。

強かった雨も段々と弱くなり、やがて雲の切れ目から蒼空が覗く。

涙で濡れた瞳で見る空は、なんだかいつもより蒼いような…そんな気がした。

「大輝、見てみぃ…お前のせいで空が蒼くなってもうたわ!」

「………」

どんなに話しかけてみても、大輝からの返事はなかった

   あなたの涙で、空が蒼く染まっていく。

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