寝取られたその後
浮気をしているという感覚はなかった。単純に今の彼氏――藤井輝が前の彼氏――鴨川一史より魅力的に見えたから、そっちに行っただけ。
一史はいつもナヨナヨしていて、はっきりものを言わなかった。見ていてイライラした。
なんで私は彼に告白なんてしてしまったのだろう。
一史と私は幼馴染という関係であったことから、変な補正がかかって、正常な判断ができなかったのかもしれない。
「俺の女に手を出すんじゃねぇ!」
それに比べて輝は頼もしかった。
彼はただのクラスメイトで友人という関係ではあったけれど、私がナンパされると、立ち塞がって私のことを守ってくれた。
だから私は、一史と輝がどちらが優れているのか試したくなった。一史と付き合いながらも、輝とも関係を持った。
体の相性は輝の方が全然良かった。一方で一史との行為では満足感が得られなかった。
輝の力強さ、頼もしさに私はどんどんのめり込んでいく。一史に対しての罪悪感なんてない。私が誰と何をしようと私の勝手だ。
「亜美、ごめんね。頼りなくて……」
一史は私が輝と関係を持ったことを知っても、怒りもせず悲しそうな表情を浮かべるだけだった。彼は本当に男らしくなかった。
「あんたとは別れるから」
私は一史を捨て、輝と付き合うことにした。
内心、一史から復讐されるかもしれないと怯えていたのだけれど、臆病な彼にそんな勇気はなく、周りに悪口を言いふらされることもなかった。
しかし、輝と付き合って数ヵ月が経つ今、私は自分の選択が誤っていたのではないかと後悔している。
「まじぃな、これ」
輝は男らしい反面、ずけずけとものを言う。忖度なんてしない。折角彼のために作った弁当に対しても、まずいと切り捨てる。
「その服、センスねーな」
思ったことは口に出す。それが彼の性分。そんな輝に私は嫌気が差し始めている。
「亜美のご飯はおいしいね」
一史は私の作った弁当を美味しそうに食べてくれた。失敗作だったとしても文句一つ言わなかった。
ここ最近、輝の悪いところだけが目に付くようになった。その一方で、一史のことをだんだんと懐かしく思うようになった。
輝と付き合いたての頃は、充実感のあった行為も、彼の欲望の捌け口にされてるように思えて、今は全然気持ちよくない。
もはや何故輝と付き合っているのかわからない。ただなんとなく、別れる理由もないからズルズルと交際を続けているような気がしなくもない。
ただ仮に輝と別れても、一史とよりを戻すことはできない。彼にはもう既に新しい彼女がいる。
彼女は私と違って大人しい。一史と雰囲気が似ている。はっきり言って私より彼女の方が一史にお似合いだ。
一史と彼女は幸せそうだ。四六時中イチャイチャしているものだから、見ているこっちが恥ずかしくなる。
輝と私はどうなのか。同じ恋人同士のはずなのにギスギスしている。
この差はどこから生まれたのだろう。一史と私、何が運命を分けたのか、私にはわからない。
最後まで読んでいただきありがとうございました。