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悲鳴を聞いて


 俺とララはどうにか果物が生っている木がないかと森を歩いていた。不気味な森は静まり返っている。時々遠くからガサガサと枝葉を掻き分ける音と鳥の囀りが聞こえる。


 どうやら人間とは認識されていないようだ。血の匂いの滴るサベージウルフなど、相手にしたくもないのだろう。


「しっかし、見つかんねぇなぁ」


 歩きながら頭上に目を光らせているのだけど、あるのは枝を伸ばした木々ばかりで、果物を実らせているものは一つもない。


『キュル〜』


 何が楽しいのか、ララは俺の背中できょろきょろあちこちに目を向けている。

 もしかしたら、高い視界が新鮮なのかもしれない。


『キャアァァァァァァァァァァァア!!』


 悲鳴が聞こえたのはそんな時だ。


 びくり、と体が反応する。

 こんな森にいるのは、俺のように捨てられた人間かモンスター。可能性は、モンスターの方が高い。


 装備もない、持っているのは『畑』のスキルツリー。使えるスキルも戦闘向けじゃない。


 だとしても、俺は悲鳴が聞こえた方に体を向ける。

 今度こそ死ぬかもしれない。

 だとしても、俺がそこに向かうのを止められる訳がなかった。


 俺は騎士になれなかった。

 だとしても、俺は騎士になるべくして育てられた。

 ならば取るべき選択肢は一つしかなかった。


 ぐっと脚に力を込める。


『キュルッ』


 俺の背中に、ララが飛び乗った。


「いいのか?」


 確かにこいつは相棒だ。だが、それは人間側の俺が勝手に思っていることで、こいつの意思確認はできていない。

 だがそれでも。


『キュルルルル』


 ぺちぺちと俺の頬に手を伸ばして叩きながら、前方を指差す。まるで、早く行け、と言っているかのように。


 俺は驚いた。

 と、同時に笑みが生まれた。

 こんな状況だと言うのに、嬉しいと言う感情が芽生えた。


「ああ! 行くぞっ!」


 脚に力を込める。ドンッ、とまるで爆発でもしたかのように地面が爆ぜる。地面を蹴飛ばすように、駆ける。

 まさしく、風になったかのように。


 悲鳴が聞こえた方角はわかる。距離も、耳に聞こえた音からわかっている。ならばそこに向かって走るだけ。並ぶ木々を躱しながら、俺は向かった。





「——ぁ、あ、ぁ……」


 木の精霊、ドライアドは地面にへたり込んだ。人間の少女のような肉体持つモンスターだ。しかし、人とは決定的に違う点が二つ。体色が緑色であること。そして植物を操ること。


 身体に纏わせた蔦。

 森に住み、人を惑わし、迷わせる恐ろしいモンスター。しかし、今はその顔に恐怖を張り付かせていた。


「な、なんでよぉ……」


 目の前で起きた惨状に、理解できないと首を振る。

 そこに散らばるのは仲間たちだったもの。体液を撒き散らし、食い散らかされたそれらは、余り物だった。


『ガルルルル』


 巨大な体躯。

 サベージウルフが、死体を貪っていた。


「なんでサベージウルフがあたしたちを襲うのよぉ……!」


 涙が溢れる。

 胸が痛む。

 恐怖に身が竦んで、動けない。

 矮小なこの身で、サベージウルフに抗う術はない。奴らは植物を引き裂き、獲物を確実に仕留める獰猛な種族。


 狙われた時点で勝ち目はない。

 どうして狙われたのか、理解できない。

 食いでのない身体は、サベージウルフの胃を満たす程のものではない。そもそも、ドライアドを食べると言うことは、植物を食べるのと一緒なのだ。


 肉を好むサベージウルフが、どうして自分たちを食べるのか、理解ができなかった。


「やだ、やだやだやだ……こないでよぉ……」


 サベージウルフの目が、ドライアドを捉える。

 唯一生き残った獲物に、ゆっくりと歩を進める。

 ぎゅっと目を瞑る。

 どうせなら、痛みがない方がマシだろうな。でも、痛いだろうな。

 そんなことを考えた。


『ギャンッ!?』


 ゴキャッという重苦しい音と共に、悲鳴が耳を突いた。

 そして、来ると思っていた牙はやってこない。

 

「間に合ったな」


 血の匂いと共に、人間の声が聞こえた。


「……キ、キャァァァァァァァァァァァアッ!?」


 もう一度、ドライアドは大きな悲鳴を上げた。

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