服を着て
仕事って、書く気力を奪う天才だと思う
サベージウルフの牙を蔦を使って厳重に巻きつけた棒。左右に幾本もの牙が突き出したようなそれは、剣のように見えなくもない。
切れ味はないだろうが、刺さると痛い。
使えるかどうかはわからないけど、何もないよりは全然良い。
「よぉし、こんなもんか」
サベージウルフの毛皮を纏った俺は、どこからどう見ても山賊にしか見えやしない。
でも、寝間着で過ごすよりは幾分マシだろう。
サベージウルフの臭いが俺の人臭さを消してくれる。
これはこの森で過ごす上で非常に都合が良い。
……ただ一つ、残念な所があるとするならば……。
『キュルルルルル……ッ!』
マンドラゴラが俺を威嚇してくることだろうか……。
ジト目がちな瞳で俺に向けて剥いて、警戒している。
俺なのかサベージウルフなのか、判断がつかないようだ。こいつをここまで騙せるのならば、この森で生活していくことに有効なのは間違いがないようだ。
「ああ、そっか」
目で見ていることと臭いに混乱しているのかもしれない。
俺はゆっくりとした足取りでマンドラゴラに近付くと、そっとその頭に手を差し伸べる。
びくり、とマンドラゴラは目を瞑る。
オレンジ色の髪の毛をゆっくりと撫でると、ようやく俺であることの確信を得たらしい。
目を細めて、咽喉を鳴らしている。
「……その服、心許ないけど、お前もこれ、着るか?」
と、俺は自分の身に付けた毛皮を指差す。
マンドラゴラは察したのか、目を大きく見開き威嚇するように歯を剥いた。
……いや、わかってたことだ。すまない。
「しかし」
俺は洞窟をざっと見渡す。
こうして、衣と住が揃った。
ならば残るは。
「やっぱ食糧の問題があるな……」
サベージウルフの肉はまだ残っている。が、しかし、それも長くは持たない。このままでは飢え死にしてしまうことは目に見えてわかっている。
何度も魔獣など、狩れるものではないし、そもそも俺のスキルは戦闘向けじゃない。
外に出て、果実を探すのも限界がある。
そもそもこの辺りに食べられるものはあるのだろうか。
「お前は……いや、なんでもない」
『キュル?』
話し掛けてやめた俺に、不思議そうにこてんと首を傾げるマンドラゴラ。
相手は理解してくれても、俺はこいつの言葉を理解できない。
そもそも言葉なのか? これ。
「八方塞がりってやつか……」
口に出して、いや、待てよ、と頭の中に閃きが生まれる。
戦闘向きじゃないといった俺のスキルはなんだ?
そう『畑』だ。
「くはっ、無茶しないと生き残れないってか」
作物を育てるには土壌がいる。
種がいる。
けれどこの二つを『畑』スキルなら解決できる。
食べたい時に育てればいいのだ。
……自然の摂理に反しているようで癪だが、そうするより他、生きる道はない。
そうと決まれば。
「まずは食べられそうな果物を探す」
口に出したのは当初の方針。
「そして、ここに畑を作る」
なら、やるべきこと、目標は一つだ。
「俺はこの魔獣の森で、畑を作って生きてやる」
見てやがれクソ親父。
絶対に生き残って、吠え面かかせてやる。ゴーストでも見たような目で俺を見るがいい。
それを目的に生きてやる。
『キュル……』
「お、なんだ?」
マンドラゴラが撫でていた俺の手を叩く。
真っ直ぐに見つめてくる瞳に俺は。
「そうか、手伝ってくれるんだな」
そう言っているように見えた。
『キュル!』
こくこくと頷く。どうやら正解らしい。
「ってことは、俺とお前は今日から相棒だ」
連れて行くことを決め、俺の目的を手伝ってくれるのなら、こいつと俺は同志だ。ならば決めなければならないことが一つある。
「お前は……」
そう、名前だ。いつまでもマンドラゴラでは味気ない。他のマンドラゴラと区別もできないし、なんだか寂しい気持ちになる。
名前……名前……マン、は論外。ドラ、も論外。ゴラ、も論外。なんて名付け辛いんだ、マンドラゴラ。
マンドラゴラ……マンドラゴラ……うーん。
「そうだ! お前はララだ!」
安直だけど、それが一番良い。
『キュル?』
「名前だよ、なーまーえ。ええと、呼び方、とか。とにかく、俺はお前をララと呼ぶぞ。ララだ」
『キュ……キュル!』
目を輝かせて、何度も頷いて意思を示してくれる。
「よぉし、ララ。早速食糧となる食べ物を探しに行こう」
『キュル!』
相棒と共に、ようやく俺の新生活は幕を上げるのだった。
「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!
していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!
ぜひよろしくお願いします!