拠点を作って
「さて、それじゃあ何からやろうか」
と、口に出してみたもののやることは沢山ある。
じっとこちらを見上げて来るマンドラゴラを尻目に、俺は目を瞑り、脳内に意識を向ける。『畑』のスキルツリーの一部が解放されている感覚がある。瞼の裏に、二つ。一つは『成長促進』。それとは別に、もう一つのスキルが解放されているのが理解できる。
おそらくサベージウルフを倒したからだろう。
スキルツリーは経験値によって成長する。
その経験値は、日々の生活によって変化する。商売を行う。薬草を収集する。人助けをする。そのどれもが経験値として蓄積され、スキルツリーが解放されていく。
今回の成長は、自分よりも格上である敵『サベージウルフ』を倒したこと。
及び『成長促進』を使っていたことによるのだろう。
どれどれ、と俺はスキルツリーに意識を向ける。
複雑怪奇に絡み合った『畑』のスキルツリーの一つが、眼前に映し出される。
『肥料作成』
……植物の成長を助ける肥料を作成することができる。
痩せた土地に恵みを与え、作物の土壌を作り上げる。
「……相変わらず戦闘向けじゃないんでやんの」
わかっていたことだけど、俺のスキルツリーは戦闘と相性が悪い。
植物を育てること、作物を収穫することに特化している。いや、特化し過ぎていると言っても過言ではない。
けれどそれはいい。もう、受け止めた。
重要なのはこれをどう生かすか、だ。
一先ずは……人が生きる為には衣・食・住が重要であるという。
「まずは衣と住……だな」
マンドラゴラはふらふらと揺れながら、成長した自分の体を不思議そうに触っている。
どこからどう見ても人間の幼女にしか見えない彼女が、全裸であるというのは、あまり心臓によろしくはない。
というか、幾らモンスターであったとしても、論理的にどうなんだ、って話だ。
見捨てることはいつでもできるが、それも人道的にどうなんだ。
そもそも懐かれてしまったのもある。
「しょうがない」
「よし」
俺はマンドラゴラを見下ろして、一息ついた。
前掛けのように大きな葉を装備したマンドラゴラは、不思議そうに首を傾げながら、自分の体を見下ろし、くるくると回っている。
回る度に、ふわりと前掛けが浮かんで肌の色が見えるが、何もないよりはマシだろう。
回転が止まると落ちる。再開するとふわりと浮かぶ。その様子が楽しいのだろう。
目をぱちぱちさせながら、自然と笑みを浮かべているのが目に映る。
「気に入ったか?」
『キュル』
「……そうか」
相変わらず何を言っているのか理解不能だけど、どうやら気に入ったみたいだ。
自分の衣服は何もないが、サベージウルフの毛皮を鞣せばいいだろう。
……その前に、だ。
「住むところを作るべきだ」
運が良いことに、目の前に洞窟があり、その洞窟は浅い。
つまり入り口さえなんとかすれば、住むことは可能である。
俺は入り口を覆う為の木の枝と大きな葉っぱを拾い集める。魔獣の森はその名の通り、モンスターのうろつく危険な森だ。その中をこんな格好で長時間歩きまわる訳にはいかない。
洞窟から必要最小限だけ動き、最適な材料を入手する。
拾い集めた木の枝を編み込み、その上に葉っぱを被せれば、不格好ではあるが立派な入り口が完成する。
その臭いは、俺の人間臭さが森に充満し、モンスターを引き寄せるのを防いでくれる。
そして木の枝の先端を尖らせ、もう一つの枝と擦り合わせる。
長時間放置され、乾燥した枝に、難なく火が灯る。
後は、火種を絶やさずに、サベージウルフの牙で削った木の粉に着火する。
すかさず燃料を放り込み、火を大きくしていく。
そうしてようやく火が灯った所で夜が訪れる。
「ああ……疲れた」
行軍した際に役立つ術は全て叩き込まれている。
けれどこんな所で役に立つとは露ほども思っていなかった。
洞窟内は火に照らされ、火の下ではサベージウルフの肉が炙られている。
「そういえば、お前は何か食べないのか?」
『キュルル?』
今日、ずっと俺についてきていたマンドラゴラが火を囲んで対面に座りながら、こてんと首を傾げた。
「肉、いるか?」
『キュ』
ふるふると首を振る。
「肉は食べないのか」
『キュル』
こくこくと頷いた。
「なるほど。マンドラゴラの生態は、わからないことだらけだ」
……まぁマンドラゴラは植物だ。
なんらかの方法で栄養を摂取していることだろう。
「ふぅ……俺はもう寝る」
食事を終え、俺は横になる。
火はそのまま、燻らせておく。煙の臭いが俺たちの臭いを誤魔化して、モンスターを遠ざけてくれる筈だからだ。
『キュルゥ』
てとてとと俺の目の前に寄ってきて、マンドラゴラが横になる。
「……まぁいいけど」
自分の体の変化。
様々なことがあった割に逞しいのは、こいつがモンスターだからだろうか。
考えていても仕方がない。
俺は目を瞑る。
久し振りの、暖かな感触が腕の中にあった。
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