どうにかなって
『キュルッ』
と、聞き覚えのある鳴き声が聞こえたのはその時だ。
同時に、蔦のようなものが地面を走り、俺の側を通過する。そして、サベージウルフの体を縛り付けた。
植物の成長を促進する『成長促進』が少しでもマンドラゴラの体の修復に役立ってくれたみたいだ。
……助けられるのは、予想外だったけど。
なんにせよ、サベージウルフはもう動けない。体中を取り巻く蔦を外そうともがいているが、幾重にも絡まった蔦はそう簡単には外れない。
俺はゆっくりと両顎から手を外し、その下から這い出した。
「ありがとう、助かった……よ?」
俺はマンドラゴラの方を向いて礼を言おうとした。
騎士道は礼に始まり礼に終わる。助けられたのならモンスターだって関係ない。
だからこの行動は正しい。絶対的に、正しいのだ。
けれど語尾が、尻すぼみに掠れてしまう。
「お前……さっきのマンドラゴラ……だよな?」
恐る恐る問い掛けると『キュルルルル』と鳴いて、頷いた。
間違いではないらしい。
ニャンジンと同じ、オレンジ色の髪を足下まで伸ばし、その髪には所々葉っぱのようなものが絡んでいる。
穴の空いたような瞳や口には、今や髪と同じ色のぱっちりとした瞳と、小さな口がついている。
体色は、俺と変わらない、いや、もっと白い。ちょこちょことした小さな手足には、はっきりと五指が揃っている。
小さな身長は、人間の子供サイズにまで成長している。
そこにいたのは、紛れもなく、人間の幼女と変わらない。けれど、確かにモンスターである矛盾を孕んだ存在。
俺の目には、全裸の幼女に見えた。
『キュルルルル』
鳴き声と共に、ぐっと胸を張る。
その頂点に、桜色のぽっちを見つけ、俺は頭を抱えた。
「いや、どうすりゃいいんだよ」
『ガアッ!』
「っと、そうだ」
蔦に絡め取られたサベージウルフがもがく。俺の顔に向けて、涎を飛ばしながら、威嚇するように顎を打ち鳴らす。
「悪いな」
俺は自由を失ったサベージウルフの頭頂部に向けて、今度こそ石を振り下ろした。
ぴくりとも動かなくなったサベージウルフを見て、ようやく一息つけた。
ずるずると体の力が抜け、ぺたんと地面に尻をついた。
「は、ははっ、なんとかなった……」
なんとか生き残れた。
体の中を安心感が駆け巡る。
サベージウルフの死体の処理はどうするべきかとか、頭を過るが、そんなことはどうでもいいくらいの達成感と安堵に包まれる。
『キュルル?』
そんな俺の膝にぺたんと手をついて見上げてくるのは、俺が成長させてしまったマンドラゴラだ。
なだらかで凹凸の少ない体は、白く、綺麗だ。愛くるしい瞳で、こてんと首を傾げて俺を見上げてくる様は、まさに美幼女と言って相違ないだろう。
だがしかし、彼女——見た目が幼女である以上、そう呼ばせてもらうが——はマンドラゴラであり、紛れもなくモンスターなのだ。
けれど、彼女が元の群れやモンスター達と共にあれるだろうか? 最早、見た目からして違う。
そんなマンドラゴラをこのまま、はいさようなら、と見捨てて良いものか。
——いや、そんな筈はない。
彼女には命を救われた。ならばその恩は返さねばならない。
「悪いな、そんな体にしちまって」
『キュルルルル?』
「意思が通じてるのかわからんけど、その責任は果たさなければならないんだ。俺と一緒に来るか?」
打算的な意味ももちろん、ある。
少しでも生き残れる可能性があるのなら、俺はそれを選択する。
マンドラゴラを引き連れようと思うのもそれだ。
俺は彼女を利用する。
けど、その代わり、俺は彼女を守る。
『キュルッ』
こくん、とマンドラゴラは頷いた。
言葉が通じているのは間違いない。
「よし、それじゃあ。生き残るぞ。ここで、この森で。捨てられたのならいいさ、俺は自由にさせてもらうぞ」
父様に宣言する。
俺がいらないのならそれでいい。
俺は俺で自由にやらせてもらう。
一先ずは、拠点、そして武器が必要だ。
ここから生き残る為に。
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