戦って
「っふ!」
一刀、上段から振り下ろした剣がアンデットの頭部に突き刺さり、破壊した。
安心はしない。
なんといっても、相手はアンデットなのだ。それはつまり、死体と同じということ。砕かれようと、潰されようと、その身体を動かすことができるのなら、無限に蘇り続けるのだ。
だから、こうなる。
「うおっ!?」
頭部を失った死体が、腕を振り、脚を縺れさせながらこちらに向かってくる。
「……厄介だな」
本当に厄介極まりない相手だ。
その相手が一体や二体程度なら、俺でも対処はできる。時間をかけて、体中を叩き潰し、再生不能になるまで戦い続ければいい。
けれどアンデットは死体がある限り、術者が生きている限り増え続ける。
それこそ、対応するには聖属性の魔法……教会に属する者の祈りが必要だ。
俺には聖属性の魔法は使えない。
それは『聖職者』のスキルツリーを獲得して、初めて使えるようになるのだ。
俺のように『畑』のスキルツリーしか持っていないものは、普通は農耕の仕事に従事する。戦闘能力など、本来はないに等しい。
かつての騎士としての修行の成果が、今の俺を生かしているのだった。
(……とはいえ、そう長くはもたないな……)
アンデットは疲弊することはない。
反して俺は疲弊する一方だ。
無限に復活するアンデットに、人間は基本的に不利だ。『聖職者』でなくとも、祝福を受けた武装ならば倒すこともできるだろう。
けれど、ここにそれはない。
あるのはどちらかというと呪われてそうな手作りの剣だけ。
使えるスキルは三つ。
『成長促進』
『肥料作成』
『農耕』
とても戦えたもんじゃない。
四方八方から遅いくる死体を相手取るのには何もかも不足している。
それでも。
「——ッ」
俺は背後から迫るサベージウルフのアンデットの牙を躱すと、跳躍。アンデットの囲いの外へと体を逃す。その場に剣を突き立てる。
「『肥料作成』」
効果範囲は畑を作っている時に熟知している。
畑と認識した範囲がそれだ。つまり俺の中で畑と認識すればそれか『肥料作成』の範囲だ。
剣を起点に、地面が緩み、独特の臭いを発し出す。
そこにあるのはもはや純粋な土ではない。肥料の混ざり合ったふかふかの土だ。
『ギガギギギッ』
こちらに寄ってきていたアンデットの群れが、足を取られて転倒する。突然の状況に反応できないのだろう。
そして。
「『成長促進』」
俺は周囲の植物に対して、『成長促進』を使用する。肥料を糧に、木々が草が、成長する。
地鳴りのような音を上げ、あっという間にそこに迷路を作り出す。樹木の乱立する自然の迷路。
そうなれば、後は決まっている。
「こっちだっ!」
俺は自ら森の中へ姿を隠す。
住み方した洞窟とは反対の方向へ。
こうなれば、俺にできるのは一つ。アンデットを作り上げた原因を見つけ、仕留めること。
できるかどうかはわからない。
しかし、安寧とした生活を送る為には不可欠なのだ。
俺はできるだけ、アンデットに背中を追わせるように、姿をチラつかせながら走る。止まれば死ぬしかない。
騎士として、修行した中で、死ぬかもしれないということはいくつもあった。
けれど、そこには安心感が絶対に付随してきた。死ぬかもしれないが、死ぬことはない。
今はそれがない。
心臓は早鐘のように波打ってるし、喉は乾いている。汗がとめどなく流れ、呼吸が浅くなる。
それでも。
実感する。戦うこと、生きることを。
だから。
「死ねないな……ッ!」
今、洞窟に置いてきた彼女らは震えているだろうか。大丈夫だろうか。大丈夫だと思う。腐ってもモンスターなのだから。
外に出て、安心して暮らせるように、俺は頑張ろう。
◆
がりがりと音がする。
洞窟の入り口に、太い蔦で壁を作った。おそらく、アンデットたちの爪や牙では突破できないだろう。けれどそれは数が少なければの話だ。荒波のように押し寄せる奴らをいつまでも止められはしない。
逃げ場は、確かに洞窟の奥へ逃げればあるかもしれない。奥に何が潜んでいるのかはわからない。
ならば壁を作るのを繰り返しながら、洞窟の奥へと流れるのが無難だろう。
「ったく、なんだってこんな所に家を作るのよ!あいつは!」
これではせっかく生き残りたいと思っていたのが台無しではないか。
『キュル』
マンドラゴラのララがあたしの口に指で作ったバッテンを突きつける。
「あーもう、あんたも難儀ねぇ。助けられた恩だかしらないけど、こんなことなっちゃって」
『キュル』
「この森に生きてるんだから仕方ないって? 違いないか。どうせ、どこにいたってこいつらは来るんだし」
どこからか現れたアンデット。
サベージウルフの住処を荒らし、森を荒らしたアンデット。
どうにかしないといけない。
どうにかできるのかな、あいつは。
「ま、あたしにはどうにもできないし、こんなことになった縁もあるからね。できる限りは護ってあげるわよ」
だから、せめて早く帰ってきて。
外から聞こえる、アンデットのうめき声は未だやまない。
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