安定して……するわけねぇ!!
洞窟の周りが果樹園のようになった。
それは食糧の心配がなくなったことを指す。生活が安定する。
それ、すなわち、進歩の停滞を示す。このままでいい。果実を入手することができるし、水分の接種も可能だ。たとえ、獲物を頂くこともなく生きていられる。
果たしてそんな生に意味があるのだろうか。
いいや、ある。
ハプニングが人生の華だという奴はいる。
けれど生きる為にハプニングは不要である。
「さて、どうしよう」
『キュル……?』
「藪から棒にどうしたの?」
焚火を挟んでリアがこちらに身体を傾ける。
「いやな、こうして生活が安定しただろ? ってことは、頑張る必要がなくなったんだ。後はこの生活を維持するだけでいい。それ以上のことをする必要がない」
「なにが言いたいの?」
「無理にアンデットを倒す必要がない」
俺が無理に突撃したところで、戦う意味がない。
あっさり倒されるのが目に見えている。
それに。
「俺たちだけが暮らすことを考えると、これ以上、なにかをする必要性を感じられない」
『キュル……』
俺の言葉の意味をわかったのだろう。
ララが俺の傍に寄って来る。
「いいじゃないか、無理せずに、このスキルだけで生きれば。いいじゃないか。これで」
それはきっと停滞なのだろう。
それはきっと、前に進むことを諦めたのだろう。
けれど目的は達成できる。俺の目的はこの森で生き残ること。
クソ親父の目論見を外し、この森でただ生きること。
……本当にそれでいいのだろうか。
「……本当にそれでいいの?」
リアが口を開く。
まるで俺の心を読んだように。
「あんた、どこかつまらなさそうだもん」
「つまらなさそう? 俺が?」
「そう。つまらなさそう。あんな、戦ってた方が生き生きしてたもの」
「…………」
それはそうかもしれない。
ずっと訓練をしていた。戦うことを考えて生きていた。
騎士になる為に、ただその為だけに生きていた。
他の生き方を知らなかった。
そんな俺が、畑を作って生きていく。
それがどれだけつまらないことか。
鍛えた技を使うこともなく、闘争心を忘れ、戦うことをせず……。
そんな生に意味があるのだろうか。
「ねぇ、あんたは――」
リアが何事かを口にしかけた時、洞窟の外に気配を感じた。
ぼんやりとしたうすら寒い気配。
まるで定まらないそれは、森の奥で感じたものと同じ。
「――っ」
俺は即座に立ち上がる。
洞窟の外へ向け、剣を片手に駈け出す。
不思議と、唇が弧を描いていたのを、俺は知らない。
洞窟の外には、月明りの下、影が蠢いていた。
一見すればモンスターや人の影。
しかし、月明りに照らされた元に見れば、それは違うものとなる。よく見ると、体のあちこちが欠損している。蛆が蠢き、腐り落ちた肉が異臭を放つ。
それはアンデットだ。
無数のアンデットが、その場で蠢いている。
人間の死骸だけではない。モンスターの死骸さえも動かし、こちらに向かっている。
アンデットは生者を引きずり込む、死者の軍勢。
つまりそれは、生きているものを察知し、自分たちの領域へと堕とす死者の群れ。
「バレた、か」
そのことはたぶん最初からわかっていた。
そんなことは百も承知で拠点を作っていた。
生きているサベージウルフに襲われることも考えていた。けれどそれらは対処が可能だ。
しかし、アンデット。
これらは初めて戦うモンスターだ。
そして、彼らの弱点である聖属性の魔法を俺は使用することができない。
(聖属性の魔法が使えない俺ができる、アンデットの対処法はただ一つ)
朝を迎えること。
アンデットは日の元で蠢くことはできない。
森の中でこの場所だけが日の光が降り注ぐ。
だからこれは防衛戦。
戦ったことのない俺の、初めての防衛戦だ。
死ぬかもしれない。
けど。
「死んじゃあいけないんだ」
剣を構える。
「このまま、死んで、なにも成し遂げられないだなんて、俺は許容しない。別にお前たちに恨みはない。むしろお前たちが恨みを抱えているのだろう」
けれど。
「だからといって、殺されてやるわけにはいかない」
だって俺は。
「騎士だから」
俺は腹を決めたぞ。
下段に構えた剣。一足の後に、前へと踏み出した。
◆
しばらく前から、この森に人間が住み着いた。
いや、捨てられたらしい。
なるほど。
しかし、人間は強い。
ならば死ぬことはないだろう。
戦うスキルはない。
けれど、戦うことはできる。
さぁ、見せておくれ、人間がどこまで抗えるのか。
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