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畑を作って


 確かにアンデットのことは怖い。

 だけど、今は生き残ることが先決。例え戦うことになったとしても、お腹が空いて戦えないだなんて、それは騎士ですらない。事前準備をせずして何が騎士か。

 サベージウルフの肉は残っていない。

 食えるところは全て食い尽くした。

 ならば出来ることは一つだけ。


「よぉし、出来た」


 手頃な棒に平らな石片を巻き付けただけの簡素なクワ。簡素と言っても幾重にも巻き付けられた蔦は固く、ちょっとやそっとの衝撃ではびくりともしない。

 手で持って強めに揺すってみても、それが揺らぐことはなかった。


「よ、っと」


 ざく、と小気味良い音を立てて地面へと突き刺さる。ぐっと力を込めると、簡単に耕すことができた。

 農業などやったことはないけれど、体がまるでコツを知っているかのように動いてくれる。

 なるほど、これがスキルの力なのだろう。


 他の器具でやったらどうなるのか、楽しみではある。


「……意外に楽しいんだよな……」


 ざくざくとあっという間に土を掘り返すのは、気持ちよく、時間を忘れてしまいそうになる。集中していると何時の間にか日も高く昇っていた。

 ぐぅ、とお腹の音が鳴っているのに、その時初めて気が付いた。


「……腹、減ったな」


 朝食べたのを最後に、何も口にしていない上に、このゆおうに働いた後なのだ、当然だろう。

 そういえば、リアやララはどこに行ったのだろうか。

 辺りを見渡しても、見つからない。


 まさか、と嫌な予感が頭を駆ける。


 森の中からやって来たモンスターに襲われたりとか。

 崖から落ちて動けないとか……。


 そんな想像が駆け巡る。


 俺はクワを放り投げると、洞窟の入り口へと走る。立て掛けた剣を引っ掴み、いざ行かんと駆け出そうとした時。

 がさがさと草むらが音を立てる。


『キュルゥ……』


 聞き慣れた声と共にララがそこから顔を出した。

 髪の毛に絡まった葉っぱを不機嫌そうに取っている。


「ララ!」


 思わず駆け寄ってしまう。

 草むらから引っ張り出し、両手で抱え上げる。そのまま全身を観察するようにくるくると回してみる。


「大丈夫か? 怪我はないか? どこに行ってたんだよ、心配したんだぞ?」

『キュ……キュルゥ……』

「保護者かあんたは」

「む……リアも一緒だったか。つれないな、どこかに行くなら教えてくれたっていいじゃないか」


 続いて草むらから出てきたのはリアだった。

 呆れたような表情で、何かを運んでいる。見れば彼女の背中から蔦が伸び、そこに何かが乗っている。


「はぁ……教えようにもあんた、耕すのに夢中で聞いてなかったじゃない」

「……すまん」


 どうやら教えてくれていたようだ。

 気が付かなかった俺が悪い。


「まぁいいわ。そこのね、ララが教えてくれたのよ。前から食べられるものを探そうとしていたって。この子、あんたの役に立ちたかったんだって」

「ララ……」

『キュル!』


 えへんと胸を張るララの姿。

 まだ出会って日は浅いが、彼女との絆が強固になっていくのを感じる。


「って、ことはそれ」

「そ、食べられそうな木の実……ああ、人間の口に合うかどうかはわからないわよ。あたしたちが食べても大丈夫なものしかしらないからね」

「いや、いい。十分だ」


 モンスターが食べられるのなら、少なくとも毒ではないのだ。

 毒ではないのなら苦かろうが酸っぱかろうが関係ない。身体に入ってしまえば一緒だろう。


 洞窟の入り口に降ろされた果実の山は、色とりどりだ。赤や緑、黄色に桃色……果ては青い果実まである。

 青……か。


「緑はまだ熟れていない色だった筈……ならしばらく保管しておいた方がいいな」

「そう? 結構おいしいのに」

「……どんな味だ?」

「? おいしいはおいしいじゃない」

「聞いた俺が馬鹿だったよ」

「なによぉ……」


 とりあえず一個、手に持って齧ってみる。赤色の、毒々しい模様の入った、如何にもな果実……。


「なぁ、もう一度確認するけど……本当に毒はないんだろうな?」

「しつこいわね。あったらあたしたちも食べていないわよ」


 この魔獣の森は魔力が濃い所為か他の地域の果物とは種類が異なる。故に、俺が見た図鑑の中のどこにも種類が書いていなかった。

 ごくり、と咽喉が鳴る。


「ええい、死んだら拾ってくれよ!」

「え、いやだけど」


 一口齧ってみる。

 しゃりしゃりとした感触が舌の上で転がった。

 甘い果汁が広がり、まるで飲み物でも飲んでいるかのように量が多い。

 俺は目を丸くした。


「……うまい」

「でしょ?」

「こんなに毒々しいのに」

「見かけによらないのよ」


 ……これなら何個でも食べたいくらいだ。

 いいや、その前に、試さないといけないことがある。


「ちょっと試してみてもいいか?」

「何するの?」

「ちょっと、な」


 耕した土の一角に、果実の種を植える。


成長促進(グロウアップ)


 俺がスキルを使用した瞬間、ずずずずず、と地鳴りのような音がして、細い幹が地面からせり上がって来る。

 そして俺の鼻先一寸を通過して、その枝を天に向けて成長する。

 思わず、その場に尻餅をつく。


「あっぶね……幹が細くて助かった」

「あんたすごいのねぇ……」


 簡単に樹になるな……本来なら何年もかけて樹になっていくというのに……。


「ん?」


 しかし、俺はあることに気が付いた。

 実が痩せている。


 さっき食べた果実は掌いっぱいに瑞々しい果実だった筈だ。

 けれどそこに実ったのは、皺の浮いたいかにも不味そうな果実……。


「栄養が足りないんじゃないの?」

「栄養……?」

「樹だって成長するのにご飯がいるのよ。一気に成長させたもんだからそれが足りないんじゃないの?」

「なるほど」


 だとすれば、スキル『肥料作成』を組み合わせればいけるのか。


「そうと決まれば」





 ……数時間後、洞窟の入り口を覆い隠す程の果実の木々がそこに生まれたのだった。



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