ドライアドに聞いて
「なんでサベージウルフが、植物系のモンスターを食ってるんだ?」
「その前に」
喋り出した俺を制し、ドライアドは手のひらをこちらに向ける。
「どうしてあんたはあたしを助けるのさ」
「どうしてって……」
そんなこと言われてもって感じだ。
「そんなこと言われてもなぁ……俺は元とは言え騎士だし」
「それは人間の為の騎士でしょ!?」
「……」
とは言え、俺は騎士ではない。騎士になる為に生きて、そうなれなかった半端者だ。
けど、生まれてからずっと、騎士として育てられてきた。そのことが、今となっては嫌いだ。思い出したくもない。
けど、そうだな。その教えは今でも俺の胸の中に生きている。
消すことなんてできやしない。
「騎士ってさ、虐げられているものを護る為に存在するんだぜ。そこに、モンスターがどうのとか、俺の中には存在しねぇ。大体、この森に捨てられて、初めてモンスターと対峙したんだからな……それに、なんだ、涙を流している奴を放っておくことなんて、俺にはできないんだよ」
ドライアドはきょとんとした顔で俺の顔を覗き込む。
くそ、なんか恥ずかしいな。
今までそんな持論なんて語ったことなんてなかった。教えられるがまま、良い子の皮を被って生きてきた俺にとって、この経験は初めてだった。
照れ臭い。思わず頬を指先でかいてしまう。こちらを見るドライアドの瞳がこそばゆくて、視線を反らした。
「ふぅん……まぁ、いいわ。ところでその子は?」
ドライアドが指差した先には、俺の背中によじ登ろうとしているララの姿があった。
「ああ、こいつはマンドラゴラだ」
「へぇ……マンドラゴラ」
「こいつもサベージウルフに襲われてて、助けたんだよ」
「マンドラゴラ……?」
小首を傾げる。が、しかし、諦めたように首を振った。
「いいわ。あんたと話していると疑問がどんどん湧いてきちゃう。もうそういうものだとして受け入れるわね」
「こいつの名前はララってつけたんだ」
「ああ、そう」
げんなりとした顔で、ドライアドは全てを諦めたように天を仰ぐのだった。
「サベージウルフは、いつの頃からかこっちに流れて来るようになったのよ」
ドライアドはそれから訥々と語り始めた。
「あいつら、縄張りが森の奥の方にあってね、そっちの方はこっちよりももっと危険なのよ。強力なモンスターも多いし、まさに魔境って感じ」
ドライアドの指差した方は、薄暗く、鬱蒼としげった木々の向こうにあって、なにもわからない。
当然、俺がその位置を見ることなんてできない。
もしかしたら俺が千里眼のスキルなんかを持っていたら見えたのかもしれないが……。
「けど、いつの頃からかサベージウルフがこの辺りにやって来たの。最初の頃はあたしたちみたいな植物系なんて襲わなかった。もっと獣のような……グレーターラビットや、ティタノボアなんかを襲ってたの」
グレーターラビットは、頭部に一角を頂く、真っ白な小さなモンスター。
ティタノボアは、鼻先に牙を持つ、巨大な図体で突進してくるモンスター。
図鑑で見たことのあるそいつらは、どれも強力なモンスターだ。
そいつらを襲い、捕食するサベージウルフ……どう考えても俺に勝つことのできないモンスターだ。勝てたのはきっと、運が良かったからだろう。
「ここら一帯から、そんな獣が消えていったわ……でも、お腹を空かせていたんでしょうね。いつの間にか、あたしたちや他の植物系統の子たち……この子みたいにね」
『キュル?』
「見境なく襲い始めたの。いくつもの集落が消えたし……あたしたちも食われる……それが自然のことならいいの。でも……こんなの今までなかった。誰も知らない。ねぇ……このままじゃ、あたしたち、いなくなっちゃう」
『キュルルル?』
「……ありがと」
ララがなにを言ったのかわからない。
けど、俺の背中から精一杯に伸ばした手を、ドライアドの頭に向けている時点でどこか察しがついた。
「しょうがない」
俺は決めた。
「ちょっと、森の奥へ行ってみるよ」
「ちょ、ちょっと、なにする気?」
「いや、あり得ないことなんだろ? だったら調べてみるだけだよ」
「なんで!? 死ぬかもしれないのよ!?」
「んー……それはちょっと困るけど」
けど、決めたんだ。
「クソ親父が俺を捨てたこの場所で、生き抜いてやるって決めたんだ。だったら、おかしなことになっている現状を確認したい……それに」
サベージウルフがこの一帯を食い尽くした先のことが頭の中に浮かぶ。
「あいつらを放っておいたらきっと、人里に降りて来る。そしたら、人間が襲われる。俺はそんなの、見過ごせない」
たとえ装備が心許なかろうと。
たとえなにも持っていなかろうと。
そうしないと俺の気がすまないのだ。
だから、俺はこいつらの味方をしようと思う。
きっと一般的な騎士の在り方とはちょっと違うんだろう。
けど、虐げられているものを助ける。この在り方は、正しく俺の想像した騎士の在り方で。
その在り方を、俺は生きている限り貫くのだ。
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