騎士を目指して
ずっと、騎士になるべくして生きてきた。
「アスタ、今日はお前がスキルツリーを授かる記念すべき日だ」
「はい。父様」
「なぁに、心配いらん。お前には俺の技術を教えてきた。そのお前が、どうして『剣聖』以外になるだろうか」
そうだ、俺はこの日の為に生きてきた。
父様の厳しい修行を耐えて、頑張ったのだ。
産まれてから今まで、何度も死に掛けながら今日を待った。
十五歳を迎える年。
俺が剣聖になる日だ。
聖都・クルスハーツの中央にある教会。
その礼拝堂に俺たちはいた。
俺と同じような今年、十五歳を迎える子供たちが揃っていた。
一人、また一人と奥へ呼ばれ、神からスキルを授かる。
その度に歓声と落胆の声が上がる。
落胆の声に、俺は憐憫の眼差しを向ける。
気落ちしたように出て来る少年がいた。
胸を張って出て来る少女がいた。
そして遂に、俺の名前が呼ばれた。
「アスタ・フォン・クラウディアス、奥へ」
「はいっ!」
立ち上がって、父様に向けて。
「では、行って参ります」
「うむ」
父様が厳めしい顔で頷いたのを見て、俺は奥へ向かった。
礼拝堂の奥はがらんとしていて広く、司祭様が一人立っているだけだった。
真っ暗な中、ぼんやりと見える神像の手前には光が落ちていて、無意識にそこに行くのだと理解出来た。
「アスタ・フォン・クラウディアスで間違いないか?」
「はい、司祭様」
「よろしい。では神像の前で、手を合わせ、祈るがいい」
「はい」
俺は歩を進め、光の中に片膝をついた。
両手を合わせ、神像に祈りを捧げる。
司祭様が手に持った本に光が宿り、恐らくそこに、スキルの情報が記される。
「アスタ・フォン・クラウディアスに告げる。汝のスキルツリーは『畑』だ」
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?」
「スキルツリー『畑』だ」
俺は耳を疑った。
疑い尽くした。
「な、なぜ……?」
「神がそう決めたのだ」
「俺が……『畑』……?」
「はい」
「う、そだ。うそだうそだうそだうそだうそだうそだ俺は信じないぞ!!!!!!」
「しかし、ここにそう記されております」
「そ、んな…………」
「以上だ。次が閊えている。出て行きなさい」
俺は暗い足取りで、礼拝堂に戻る。
父様にどう顔向けしたらいいんだ。
途中、女の子とすれ違った。
不思議そうに俺を見る、その眼さえも、怖かったんだ。
「おお、アスタ、どうであった?」
「…………」
俺は笑顔を返すことが出来なかった。
「どうした? まさか『剣聖』ではなかったのか? そんなこと気にするな。『騎士』か? 『重騎士』か? 『戦士』か? なんだって良いのだ」
父様が揚げるのは戦闘系のスキルばかりだ。当然だが、騎士の家系である俺はそれを期待されて育てられた。
つまり、それの意味する所は——
「……畑……」
「…………な、なんと? 何と……言ったのだ……?」
「だから……『畑』」
その瞬間、父様の表情がすっと抜け落ちた。
まるで俺に対する興味の一切がなくなったかのように。俺を見る目から光が消えた。
『おおおおおおおおおぉっ!!』
どよめきが礼拝堂に響く。
「『剣聖』だ! 『剣聖』が出たぞ!」
言葉と共に、一目見ようと人々が群がる。
そして同時に、父様は俺から視線を外す。さっきまでの焦ったような表情ではない。 子供のように、きらきらとした瞳で。 まるで、自分の夢が叶う瞬間を目にしたような。
「父……様?」
もう父様は俺のことなんて眼中になかった。
こちらを見ることもしなかった。
まるで俺の存在など知らなかったかのように……。
そしてその夜、気がついたら、俺は森の中で倒れていた。
「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!
していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!
ぜひよろしくお願いします!