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第0話 英雄野犬の成り上がり!

「ソラ、起きろよ。」


「んぁ。」


 腹をどつかれ俺は目を覚ます。そしてあたりを見渡した。


(なんだ?ユラユラ揺れて…気持ちいいな。何も考えたくなくなる。あー。)


 空を仰ぐと、日の光が眩しい。ユラユラ揺れてる?俺は自分が小さな小舟に乗っていることに気づいた。なんでこんなところに?


 だめだ、寝起きの頭では何も考えられない。


「ここ、どこだっけ?」


「shit!見りゃわかんだろ?任務に向かってる最中だ。『天命』覚えてんのか?」


「あー…そうだ、そうだわ、そうだった。」


 頭がすっきりしてきた。そうだ、確かに『天命』の指示でこの船に乗り込んだんだった。


 あたりを見渡すと、苔むした石垣で出来た堤防とその上で行き来する人々の波が見えた。小さい国にしてはなかなか賑わってるみたいだ。


「なんだ、もうつくのか。」


「shit!だから起こしたんだろぉ?…ったく!」


「…それはありがたいな。」



『悪しき害虫が北東の地を荒らしている。ソラ、カツミ両名はルカに赴き、"シビキバッタ"を討伐せよ。』


 それが俺たちに与えられた天命だった。



 そろそろ港につくとわかっているのだが、体がついて来てくれない。くそぅ…二日酔いってこんな感じなのかもな、酒飲んだことないけど。


「!」


 隣に立つ男がダンッと小舟のへりを足で叩いた。

 やべ、怒ってら。


 俺はのそりと起き上がり頭を軽く揺らした。


「…にしてもブラックすぎるよなぁ、この仕事。任務を終えたのにすぐに任務。寝ても寝ても寝足りないぜ!…ったくよぉ。」


「やりがいを感じろよ、どうせ辛いんだから。」


「はん!綺麗事抜かすなよ。」


 俺はさっきからぐちぐちとうるさい隣の男を見る。全体的に黒くて、そして暗い。首に巻かれていたチョーカーは、今は黒い痣になっている。彼の名をカツミと言う。"俺の監視対象"であり、唯一無二の相棒だ。


「ま、お前のその弱音には同意するがな。」


「………あー、弱音じゃねぇよ。これは愚痴。」


「それは一緒だ、shit.」


「前向きな弱音ってことだよバカ。」


「結局弱音じゃねぇかよ。」


 嘆息しながら、カツミが手を差し出してくるので俺は善意に甘えその手を取った。グイと引き寄せられるのに任せ、立ち上がる。


 ガタンと、小舟が揺れた。それに合わせて俺の首元にかけられた銀のロザリオが揺れた。  


「よっ!」「ほっ!」


 小舟用の乗り継ぎ場に船を回し、そこにある桟橋に飛び乗った。すると俺たちの傍にいた子供が会釈しながら紐で小舟をくくりつけた。偉いなこの子。俺がこの子ぐらいのときは飯が落ちてないか目を血走らせて歩き回っていたと言うのに。


「さんきゅ。」


「助かるよ。」


 俺たちが礼を述べると少年も、笑みつきの会釈で返した。礼儀もちゃんとしてるように見えるし、いい国なんだろうなこの国は。


「ほら、ソラ。あれがまず俺たちがいく城だぜ?迷子になんなよ。」


「迷子属性は残念だが俺にはねぇよ。大体"廻"を辿ればお前のところに行けるだろうが。」


「俺に負んぶに抱っこじゃねぇかよ。まぁいいけど。」


「心配すんなよ、絶対にヘマなんかしねぇ。なんせ背負ってるもんがでかすぎるからな。」


「背負ったのはお前だ。」


「わかってるよバカ。」



 俺とカツミを指さして人々が色めきだっている。その理由を俺たちは知っている。困窮している人々は救いを救世主が現れてくれるという夢物語に託す。そして今日、俺たちこそが救世主なのである。


 俺は国民に見せつけるように片手を上げ、天を殴るように強く振った。


『おおおおおおおおおお!!!!!!』


「カツミ。」


「あー?」


「助けるぞ。みんな助けるんだ。俺たちの目に届く人を全員、絶対に助けるんだ。」


「………………」


 俺とカツミの視線が交差する。バチッと音が鳴った気がした。


「ソラ。」


「…なんだよ。」


「お前、この仕事向いてるよ。」





 ☆


 星架隊というものがある。

 大陸パプリカの全土中に広がるサーグリッド教会の守護兵であり、その強さは大陸最強を誇る。とりわけ星架隊の上位層に与えられる"スターズ"という肩書きを持つものは"一人一人が大陸最強"と言ってもいいだろう。


 だからこそ、善き民衆は彼らに憧れ、悪しき民衆は彼らを恐れる。





「ご訪問くださりありがとうございます。」


「ああいや、顔を上げてくれ。」


 俺たちの目の前に頭を下げる人物が一人。何を隠そう、この国の王である。


 毎回こういう時はどういう顔をしていいかわからない。なんたって俺はスラム育ちだ。いや、スラム街と呼ぶにも偲びない。あれは街ですらなかった。


「しかし!弱国である我らが"スターズ"であるソラ様とお会いできようとは。」


「いやいや!本当そういうのいいから!」


 ていうかやめてくれ、と俺が頭を下げたぐらいだ。

 ちなみにカツミは俺の隣でちゃっかりお菓子を食べていた。俺も後で食べよう。


「それで、シビキバッタ?が出たと。」


「はい。死轢飛蝗。」


 死轢飛蝗は、その名の通りその体重と脚力を遺憾なく発揮して目の前にいる対象を轢き殺すことからその名がついた。群れで襲ってくるその姿は、古代では災害として位置付けられていたという。


「また"堕獣"被害か。」


「最近多いかもな。一体どうなってるんだ?」



 堕獣。この世界に現れる怪物のことを人々はそう呼ぶ。中には人々に飼われ、重宝されるものもあるのだが、いかんせん恐ろしい。


(食料にしてはまずいしな。)



「それで、シビキバッタはいつごろから?」


 菓子を食べていたカツミが顔を上げ王に聞く。すると王は不審気な顔をした。


「ソラ様…あの失礼ですが、こちらの方は?」


「あー…」


 この国の王を始め、パプリカに住む人々は俺のことをよく知っている。なんせ新たに"スターズ"に選ばれた超新星のうちの一人なのだから、期待値は高い。そのぐらいに"スターズ"の名前は重いのである。

 しかし、カツミは別だ。こいつは"スターズ"でもなければ星架隊でもない。それでも俺の相棒だ。


「俺の相棒です。短気ですが害はないです。」


「どうも、カツミです。短気じゃないです。」


「は、はぁ……」


 やはりというか、国王はカツミに明らかに困惑していた。"スターズ"に認められる一般人と言われたら確かにどんな奴か気になるだろう。

 だがまあ詮索されるものでもない。


「それで、話の続きを。」


「あ!はい、すいません。」


 国王は自国に起きている問題を話し出した。



「シビキバッタは、もともとこの国の害虫でした。この国ができるずっと前からこの地ではそれが普通でした。ソラ様はいつから?と問いましたが、そういう問題ではないのです。」


「じゃあ、どういう問題なんだ?」


「でかいんです。」


「は?」


「シビキバッタが、大きくなってしまったんです。」


「………」


 俺は絶句する。堕獣が突然でかくなる話しなど聞いたことがなかったからだ。


「一般的なシビキバッタのサイズは、猪ほど。なので国兵や雇った傭兵で駆除を行ってきました。しかし今回現れたシビキバッタはあの山と同じほどに大きいのです。」


 国王は窓から見える山を指さした。


「…あの山ですか。」


「昨週では村が丸ごと轢かれてしまう始末。このままではこの王国全土が更地になってしまいます。」


 ガバッと、国王が頭を下げた。


「どうか!この国をお救いください!」


 俺はその頭をじっと見つめた。いや、その男に興味があるとかでは全然なくて…ただ、一国の主にこうも簡単に頭を下げさせる自分の、数奇な運命を思い出していたのだ。


 俺はいつからこんなに成り上がってしまったのだろう。



 ろくでもない場所に行きつき、白髪の恩人出会ったときか?


 "穴"で、白髪の家族に捨てられ監獄に入れられてことか?


 監獄から、黒髪の看守と共に多くの囚人を巻き込んだ脱獄作戦を行ったときか?


 目の前で白髪の家族を失ったときか?


 サテライト《星架隊見習い》になり、知識を手に入れたときか?


 スターズ入隊試験で多くの友と出会い、別れ、そして切磋琢磨したときか?


 黒龍を討伐し、かけがえのない相棒を得たときか?



「ふふ。」


 俺は小さく笑った。全くもって愚問であるからだ。



 たくさんの人と出会い、学び、傷つき、そして笑い合ったこれまでの日々が確固たる俺を作り上げている。



 そうだ。俺はあのドン底から成り上がったのだ。愛すべき者たちを守るために。


 そしてマミヤを………。




「国王。」


 目の前の男が顔を上げた。相棒は隣で足を組み城の装飾を見ている。呑気なやつだ。


 国王の顔が不安に染まる。何を怖がっているんだ。俺が来たんだ。大丈夫。



 俺はこういうときになんと言えばいいか、知っている。


「It's a piece of cake.ルカの国王、こんな事案俺にかかれば朝飯前だぜ。」





 ☆


「ここでの移動は大体船なんだな。」


「はい、ルカは"川の国"と言われるほど川が多いのです。」


「へぇ、川魚が楽しみだな。カツミ。」


「シビキバッタの巣がわかっててよかったな。探す手間が省けただけ一気にやりやすくなる。」


「いや、川魚楽しみだなって話を」


「shit!お前俺が魚食べれないことわかってて言ってるだろ!」


「好き嫌いはダメって助言だろうが!」


 小舟がぐらぐらと揺れる。それに伴い案内役の少年が悲鳴を上げた。


「ち、ちょっと!揺らさないでください!落ちちゃいます!」


 案内役はルカに来たときに小舟を結んでくれた少年だった。名をセカというらしい。


「悪かったよ、セカ。」


「shit!お前のせいで怒られたじゃねぇかよ。」


「ああっ!やるか!?」


「やめてぇ!」


 騒がしい小舟が川を降って行く。船が転覆しないのが不思議なくらいだ。


「騒いでも仕方ないし、おしゃべりでもして揺られてようぜ。」 


「喧嘩はナシでな。平和的に行こう。」


「頼みますよ…」


 小舟からは、あいも変わらず苔むした石垣でできた堀とその上を歩く人波が見えた。


「…セカはいくつだ?」


 カツミがセカに聞いた。セカは櫂を握ったまま振り向いた。


「今年で8になります。」


「まだそんな歳なのか?随分大人っぽいんだな。」


「そう…ですか?」


「その歳で働いてるんだから大したもんだろ。」


 カツミがそう言うとセカは照れたように頰を掻いた。


「自分は…母と妹との二人暮らしで、母が病気がちなので自分が働いてるんです。妹もまだ幼いですし。」


「父親はどうしたんだ?」


「おい馬鹿!」


「痛っ!?」


 俺はカツミを見る。カツミは青筋をたてて怒っていた。なんでそんなに怒ってるんだ。


 カツミは俺の肩を抱き、小声で話しかけてきた。


「shit!馬鹿だろお前。言わねえってことはいないんだよ。そうじゃなくてもそれなりの理由があるんだよ。」


「あー…確かにそういうものなのかもしれない。」


 それは、カツミも怒るわけだな。無神経なことを言った。


 しかしセカはニコニコと首を横に振った。


「いえ、いいんです!そうですね…父は国兵でした。シビキバッタに轢かれて、僕が小さい頃に死んだんです。」


「………そうか。」


「だから僕が頑張らないとなって。必死にはたらいてます。」


「…お前いいやつだな。すげぇよ。」


 すげぇよと、もう一度口の中で言った。



「そういうソラさんは、小さい頃どんな子どもだったんですか?」


「え?」


「小さい頃って言っても俺もソラもまだ16歳だけどな。お前とそんな変わんねぇよ。」


「え?そうなんですか?」


 カツミとセカが話していた。その横で考える。

 俺の小さい頃………。



『ソラ!』

 白髪が揺れて僕の名を呼んだ。


 俺は彼/彼女を見て、なんて言ったんだっけ?



「ソラさん?」


「!」


 顔をあげると、セカが心配そうにこちらを見ていた。カツミは見透かしたようにこちらを見ている。おそらく俺の考えていることがわかっているのだろう。


「いや…なんでもねぇよ。そうだな…俺の小さい頃はまあ、一言で言えば野犬だったな。」


「野犬ですか?」


「そう。人のもの盗んだり、死にそうなやつを見殺しにしたり、ああこれは武勇伝じゃねぇよ?憧れて欲しくねぇし。ただの事実だ。」


「は、はぁ…」


「野犬みたいだろ?盗んで走って眠ってなんとか生きてきた。物事も全然知らなくて、ただ死なないことだけ考えてた。」


「……………」


「それでも、やめた。どうしても知りたいことができて、そのためには野犬から人間になる必要があって、上へ上へって上り詰めるうちに"スターズ"になった。失望したか?」


「え?」


「"スターズ"なんて呼ばれて、皆から英雄扱いしてる俺は、別に平和のために英雄になったわけじゃない。今でこそ、この大陸を守りたいって思ってるけど、やっぱり俺は俺のまま、自分の望みを叶えたいだけなんだよ。」


「………」


 セカは黙り込んでしまった。当然だ、彼はまだ8歳だ。こんな俺のつまらない自分語り聞いたところでどうにか言えと言う方が不条理だ。


「僕は、素敵だと思います。」


「!」


「僕は子どもなのでよくわからないけれど、ソラさんの話は素敵だと思います。」


「……はは、そうか、そうか!」


「ソラ、セカが賢くて助かったな。つまらないって言われててもおかしくなかったぞ。」


「うるせぇよ!」


「shit!大きな声出すんじゃねぇよ!」


 あーだこーだと言いながら、何やら人の気配がないところまで辿り着いた。

 セカの様子が目に見えて怯えた風に変わった。


「ここは、ルカの外です。この先にシビキバッタの住処があります。」


 セカが地平線の先を指さす。ふむ…。


「ああ、そうみたいだな。」


「匂うな、虫けらの匂い。」


「え?」



 軽く…30はいるだろう。群れにしては少なく感じるが、その全てが山と同じ規模なら絶望してしまうぐらいに厄介だろう。



 川を降って行く。降れば降るほど、匂いが増して行く。


 川を降って行く。降れば降るほど、セカの顔色が青くなってゆく。



「セカ、俺たちを下ろして戻るか?」


「え?」


「shit.俺たちなら泳いでいけるから大丈夫って話だ。」


「!」


 そんな馬鹿なと思っているのだろう。シビキバッタには羽がある。身動きの取れない、しかも勢いのある川なんかに入ったら空から襲われると、そう考えているのだろう。


「セカ。」


 俺は少年の頭に手を乗せた。


「星架隊を、"スターズ"を、俺たちを、信じろ。」


 俺は川から降りた。カツミも後に続く。

 水飛沫が上がり、俺は小舟を力強く押した。


「ソラさん!カツミさん!」


 セカが悲鳴のような声を上げた。

 俺とカツミは力強い声でそれに返す。


「セカ! 川魚を用意して待ってろ!」


「着替えもな。」



 川の流れに身を任せる。気持ちの悪い音が聞こえる。



『ギィギィ!ギィギィッ!』


 羽音だって聞こえてきた。


「これは…俺たちが少しでも遅れたら危なかったな。」


「なんにしろ間に合ってよかったな。」



 川の先、三角州を覆うようにそいつらはいた。

 羽音をたてながら蠢くシビキバッタは今にもはち切れそうなほどにより集まり、一つの生物のようだった。飛んでは上に乗り、溢れてはまた飛び乗っている。バッタってこんなにくっつくものか?



「いや、よくみろソラ。」


「?………!?」



 違う。三角州じゃない。三角州そのものがシビキバッタなのだ。彼らは羽を震わせ熱を発生させ、熱さで死んだ同胞の体を川に積み上げている。


 あれは彼らなりの巣なのだ。

 


「全くもって気持ち悪いな。」


「ソラ、さっさと片付けるぞ。」


「……そうだな。」



 俺は、首にかけた銀のロザリオを握った。




 俺がただの野犬でしかなかったとき、俺には家族がいた。血は繋がっていなくても、俺には家族同然の、親友だった。


 そいつは、マミヤはある日俺の前から消えた。慌てて追いかけて、傷ついて、傷つけて、やっとその手を掴みかけたその時、


 マミヤは俺の目の前で、死んだ。


 マミヤは"使徒"だった。

 ずっと、ずっと一緒にいたのに俺はあいつのことを何も知らなかったんだ。だから俺はあいつのことを知りたいと思った。"使徒"のことも、この世界の秘密も、マミヤが見ていた景色も。そのために野犬をやめて上り詰めようと剣を握った。




 俺が握ったロザリオが、姿を変えて行く。大きな光を放ちながら長く鋭く、それは一本の剣になった。


 マミヤからの、最後のプレゼントだった。



「待ってろ、マミヤ。」



 俺は、成り上がった。たくさんの人と出会い、学び、傷つき、そして笑い合い、確固たる俺を作り上げてきたあの日々を振り返り、そして先を見た。


(マミヤ、お前がこの道の先にいるなら)



 シビキバッタがこちらを見据えた。俺は空を飛ぶように川の中で、シビキバッタに体を向けて俺は剣を構えた。


「行け、ソラ!」


 カツミが俺を蹴り上げて、俺は彼の足を踏み切った。


 俺の体が川から飛び出して、空は空へと舞い上がった。


 シビキバッタが羽を広げる。そして飛び立った。

 空高く、俺とシビキバッタたちがぶつかる。



(マミヤ、お前がこの道の先にいるなら、俺は止まらない。この荊のように痛く、美しい道をどこまでも!どこまでも駆け上がってやる!!!)



「消えろ虫けら共おおおおおおおおおお!!!!」





 ☆


「それで、この鮭?」


「太っ腹だよなぁ、ルカの王も。」


 俺たちの目の前に並べられた数えきれないほどの川魚を使った料理。いや、どう考えても食べきれないだろこんな数の魚。


「てかなんでカレンとレイジーが来てんの?」


「shit!俺が呼んだんだよ。どう見ても二人じゃ食べきれないし。まあまさか料理するのに全部の鮭使うとは思わなかったけどな。」


「ご、ごめんって。ちょっとテンションあがっちゃって。あはは。」


 そう言って笑ったのは俺の同期であるカレン=ペルカだった。赤黄色の髪と紅玉のような瞳が特徴的な女性である。


「にしても多すぎだろ。ルカ王は何考えてんだ…」


 そう言って鮭のムニエルを口に含んだのはこれまた俺の同期であるレイジー=ヤンキーガールだった。プリン色の髪の毛を持つ。



 俺とカツミはシビキバッタの討伐を無事完了した。これに対しセカや王をはじめとしたルカの民たちは大喜び。その笑顔を見て俺たちも満足したわけだが。待っていたのは食べきれないほどの川魚だった。もう数日間朝も昼も晩も鮭や鱒ばかり食べている。

 おいしいっちゃ美味しいけどいかんせん飽きた。



 そして現在、俺とカツミの部屋で集まって余りまくった魚料理を食べていると。



「シンたちは?呼んでねぇの?」


「あいつはルナ様とラブラブだ。忙しくてこれねぇよ…shit!」


「兄さんたちも今日は都合が悪かったみたい。」


「へぇ…」


 俺の同期である"スターズ"はあと三人ほどいるのだが都合が合わないなら仕方ないか。


「なんか飲み物もってくるわ。いるか?」


「たのむ。」


「さんきゅー!」


「ありがとう。」


 俺は冷蔵庫に向かい、ジュースを取り出した。コップも棚から出し、大量の魚料理に悲鳴をあげている仲間たちを見る。だめだ、全然減ってない。



「…ん?」


 俺は鮭が入っていた箱の中に一枚の紙が入っていることに気づいた。なんだろうと手に取ってみて俺は笑った。




『ソラさんの野犬の話、やっぱり僕は素敵だと思います。僕もソラさんのように強くなりたいです。 セカ。』




「おい!ソラ!お前も食べろよ!全然減らねぇんだからよぉ!」


「味チェンしよ…カツミポン酢ない?」


「また体重増えちゃうな…」


「カレン!お前ももっと食え!」



「いま行くよ!」


 ソラは笑顔で仲間たちの元へ向かった。

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