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6話 ニート、買い物する



 俺はナラトと買い物をしに街へ繰り出していた。昨夜話した通り使い魔の目印であるアクセサリーを買いに来たのだ。


 なんだろう、俺からしてみればペットに首輪を付ける感覚だな。そのペットが今の俺なんだけど。


 昨日は学校に行っていたので街をじっくり散策する余裕はなかった。しかし、今日ならば異世界の街を心ゆくまで堪能できるぜ! ヒャッハー! 異世界最高! テンション上がってきた!


 街並みを解説すると中世ヨーロッパ風だ。なんかもう、前世のアニメとかの媒体で見慣れすぎて語ることがない。

 閉廷! 終了!


 ……てのは冗談だ。街の景色はともかく、歩いてる人がやけに剣とか弓とか担いでいて武装をしている。治安が悪いのか、それとも街の住民は魔物の襲撃に備えているのかな?


「アキヒロは冒険者が気になるの?」


 冒険者!? 冒険者だと!?


 俺はナラトの背中の上でダムダム跳ねながら興奮気味にキュイキュイ鳴いた。


 冒険者って言えばあれだろ! クエストとか受けて女の子と冒険してうぇーいするやつ! 

 こうしちゃいられない。ナラト、冒険者ギルドに行くぞ! 俺たちの冒険はここからだ!


「いやいや、冒険者ギルドなんて行っても用ないし冷やかされて終わりだよ」


 えぇ……。乗り悪いな。異世界に赴いたらまずは冒険者ギルドに登録するのがテンプレなんだぞ?

 やれやれ、ここはいっちょ俺のステータスを表示させて周囲の有象無象共にマウント取りに行こうぜ。そろそろ主人公ヨイショしてもらいたい。


 あ、そんなことしたら特殊個体(ユニークモンスター)の俺は誘拐されるな。……異世界は世知辛ぇ。


 それよりも。なんで冒険者がこんなに多いんだろうか。クエストが沢山出ているのか近くにダンジョンでもあるんだ?


「その通りだよ。ここ、ダイアラームの街は迷宮都市なんだ」

「キュイ?」


 迷宮都市? ……ってなんだ?


「ダンジョンを中心に人が集まって作られた街のことだよ。ダンジョンに出現する魔物は貴重な素材だったり生活必需品だったりするからね。それに、ダンジョンからはスタンピードが起こらない限り魔物が街に出てくることはないし。自然に人がダンジョンの周りに集まって、街として発展していったんだ」


 なるほど。確かに一理あるな。安全で質のいい狩場があるなら、その近くに街を作ってしまおうという考え方なんだな。

 つまりこの街にいる冒険者はわざわざ遠くに出向かなくてもダンジョンに潜れるって訳か。


 なぁなぁ、ダンジョンなんて話聞いたら気になるだろ。ちょっと行こうぜー。


「あはは……ダンジョンに入るためにはギルドの試験を受けて登録しないと入れないよ。僕は普通に落とされたから諦めてくれない?」


 おふっ。そ、そんなことってありかよ……。

 しかも冒険者になるためにはギルドの試験を受けないといけないとは。


 仕方ない、まずはナラトを鍛え上げることが先決だ。そして女の子連れて冒険することがまず目標になったな。


「キュイキュイ」


 そうして気持ちを新たに街並みを見回していると、俺はある一点に目をつけた。なにやら何かを焼いてるらしい。焼き鳥は前世での好物だったので、異世界の串物がどんなもんか見てみたい。


 おいナラト、あそこからいい匂いが漂ってくるんだ。香ばしくて食欲をそそられる。屋台らしいしちょっと寄っていこうぜ。


「え、アキヒロあそこには行かない方がいいと思うけど……」


 なんだよぉ、ナラト。硬いこと言わずに行こうぜ。一度でいいから異世界の食べ歩きしてみたかったんだよ。


「そんなに行きたいならいいけど。後悔しても遅いからね?」


 なんで後悔? どう見たって普通の屋台だろ。


 気の進まないナラトの背中に乗りながら俺は目的の屋台着く。




 そこでは売られたもほげえええええええええええなんだこれえええええええ!?!?




 屋台のおっさんが焼いていたのは俺の同族だった。カブトムシの幼虫みたいなのが串に刺され、香草のタレを付けられてこんがり焼かれている。


 無理無理無理ムリムリ! どっから見てもビジュアルがやばい! なんでこんなゲテモノが普通に売られてるんだよ! 俺の異世界のイメージをぶち壊すんじゃねぇ!!


「やあいらっしゃい。もしかしてその背中のを調理して欲しいのか?」

「あはは……違います。すみません、カキネ焼きを一本だけください」

「まいど!」


 ひぇぇ!! あの屋台のおっさん、俺を見る目がマジだった。こ、殺される。冗談抜きで殺されてもおかしくない……!


 ナラトは金を支払って逃げるようにおっさんの手から幼虫を奪い取ると、そそくさにその場から離れていった。


「……アキヒロ、震えるけど大丈夫?」


 俺はガクガクブルブルとナラトの背中の上で震えていた。


 大丈夫じゃねえ! ああ、何やってんだ! 大人しくナラトの忠告聞いとけば良かった! 異世界人は平気で虫を食べるとか怖すぎる!


「さっきのはキクセンチュウといって、紅茶の茶葉を荒らす害虫なんだ。キクセンの葉を栽培している街では食用になるから売られてるんだよ」


 ナラトは解説しながら幼虫を一気食いすると串をゴミ箱に捨てた。


 そんな情報知りたくなかったよ……とほほ。


「やっ。昨日ぶり」


 俺たちが落ち込んでいる時、不意に誰かに声を掛けられた。振り向くとそこには白髪の少女が佇んでいる。


「キュイキュイ!」


 セラフィーナじゃねえか! 昨日、一緒に演習をしたハーフエルフの少女と街で偶然ばったりと出会ったのだった。


 俺の落ち込みゲージが一気に回復した。そうそう、異世界といえばやっぱ可愛い女の子は必須だよな。俺もハーレム作りてぇとか中学生の頃からずっと思っていたっけ。

 

「偶然だね。セラフィーナも買い物?」

「うん、弓矢の手入れ。ナラトは?」

「僕はアキヒロのアクセサリーを探しに。使い魔の目印が欲しいんだ」


 ナラトとセラフィーナは話しながら横になって歩く。


 なにこの自然な感じ。もしかしなくてもナラトって女の子と話慣れてますよね……コレハァ。


 剣聖の息子だからナラトは異性にモテたのかな? 顔も悪くはないし、金や権力目当てで寄ってくる女が多そうな気がする。


「じー……」


 不意にセラフィーナの視線が俺に注がれる。ジト目で見つめられるとその、ドキッとしますよセラフィーナさん。


「え? どうしたの?」

「アキヒロ抱っこしていい?」

「へ、抱っこ? いいけど」


 な、なんだと!?


 セラフィーナはナラトから俺を受け取ると、猫を抱き締めるように腕を体に絡ませてきた。


 ふわわっいい匂いがする! (クンカクンカ)

 お胸が背中に当たってる! (スリスリ)

 頭撫でられるの気持ちいい! (ジタバタ)


「いいこいいこ」

「キュイキュィイ……」

「なんで僕とは違ってこんなに幸せそうなんだ……?」


 変態ムーブをかましているが今の俺はイモムシなのでやましい心があるなんて気付かれないらしい。俺が女性にモテる条件、それはイモムシに転生することだったんだな。

 ハーフエルフの女の子に頭を撫でられるなんて至福すぎる。トラックに轢き殺された甲斐があったものだ。


「ん、そうだ。ナラトはアキヒロのアクセサリーが欲しいんだよね? 私いい場所知ってる」

「え、本当? 良かったら案内してくれる?」

「分かった」


 セラフィーナに撫でられながら歩くこと数分。俺たちは陰鬱な雰囲気が漂う店の前で着ていた。


 雰囲気が恐ろしい。まるで魔女が住んでるような家が路地裏のすぐそこにぽつんと建っている。


「ここ」

「怪しい店だ……」

「キュイキュイ」


 ナラトに同意しながら店に足を踏み入れる。店内は太陽の光が届きにくいようで、昼間だというのに薄暗い。


 湿った床を歩いていると人影が見えた。この店の店主かな?


「おやいらっしゃい。キヒヒヒッ!」

「ひぃ!」

「ギュィ!?」


 ぬっと人影が振り向くと、皺だらけの婆が顔を覗かせた。まるでお化け屋敷のような店の雰囲気も相まって、俺とナラトは一斉に飛び上がる。


「こらおばば、脅かさない」

「誰かと思えばフィーナじゃないか。あんたも物好きだねぇ」


 どうやらセラフィーナとおばばとやばれた人物は知り合いらしい。顔馴染みのようで、店内を勝手に物色すると店の端に置かれた席の前に俺たちを手招きした。


「今日は客連れてきた。お茶くれる?」

「お茶出して欲しいなら喫茶店行きな。ここは織物屋だよ。……暇だから出してあげるけど」


 席に座った俺たちにおばばがお茶を出してくれる。あれ? この茶葉何処かで見たことあるな……って昨日俺が食った葉っぱだったわ!


 確かキクセンの葉だったっけ。『鑑定』使った時に紅茶の茶葉と表示されていたのを覚えてる。


 このキクセンの葉、さっきのバーベキューされてた幼虫が食ってる葉だよな。名前もキクセンチュウとか言ってたし。

 キクセンの葉には何の罪もないけど、これからは見ただけで軽くトラウマが蘇りそうだ……ぶるぶる。


「ん、美味い」

「アキヒロも飲む? 熱いから気を付けてね」

「キュイキュイ」


 キュイキュイ言いながら紅茶を一口。


 美味い。仄かに甘酸っぱくて気分が落ち着く感じがする。キクセンチュウが主食にしているのも頷ける。


「それで要件はないんだい?」

「私の友達が使い魔のアクセサリーを探しにきた。なにかない?」


 おばばは俺を見ると顎に手を当てて考え出した。


 織物屋とか言ってたよな? 猫とか犬に服を着せるように、イモムシ専用の服を作ってるくれるのかな?


「そうだねぇ……。スカーフなんてどうだい? 首に巻くタイプの奴さ。進化してもしばらくは使えるように仕立ててやるよ」


 おばばはそう言って店の奥に引っ込んで行った。しばらくすると薄緑色の布を持ってきて、俺の首辺りにかけてくれる。


 寸法を測っているようだ。断ち切りバサミで丁度いいサイズに切り取り、刺繍を施すこと数分。

 俺の首にはイカしたスカーフが巻かれていた。



━━━━━━━━━━━━━━━

 靡き風のスカーフ

 装備品。風の魔力が込められたスカーフ。首に巻いておけば風圧を軽減してくれる。

━━━━━━━━━━━━━━━



「いいね、似合ってる」


 そ、そう? 女の子から服装を褒められるとなんだか照れるな。


 ナラトも気に入ったようでお金を支払うと主人である自分の名前をスカーフに書き込んでいた。ちなみに意外と字が上手くて関心した。


 そうして俺たちはしばらくセラフィーナと談笑し、解散して家に帰った。



 ◆◇◆



「ピョッピッ!」

「キュイキュイ!」

「なんで君たち餌の取り合いなんてしてるのさ……」


 家に帰ってきた俺は食事をしていたが、横のピヨ吉がいきなりガロクの実を横取りしようとクチバシを差し出してくる。

 このヒヨ公、小さい癖にしてなかなか力が強い。侮れんぞ。


「キュイキュイ!」


 渡さん、渡さんぞ! 俺の餌は誰にも渡さん! どうしても欲しければ俺を倒して奪い取るんだな!


「こらピヨ吉、アキヒロの餌を横取りしたらダメだよ。ガロクの実なんて食べたらそのう炎になるかもしれないし。ドライフルーツあげるからそれで我慢してね」

「ピピピピッ!」


 飼い主が仲介してきたことで低レベルの争いは一瞬で終わった。へへっ、愚かなりピヨ吉。悔しかったらもっと強くなって出直してくるんだな。


 害鳥を追い払った俺は意気揚々とガロクの実に食らいつく。むしゃむしゃうまうま。


 お、ナラトが学校に教科書を詰め込んでいる。明日は学校に行くのかな?


 ご飯を食い終わると俺はナラトの肩に乗っかってバシバシと叩いた。


 連れてってー、連れてってー! 俺も明日学校行きたい行きたいー!


「え、明日は学校だけどアキヒロも行きたいの?」

「キュイキュイ!」


 当たり前よ! 明日もセラフィーナに抱っこされにいくんだい! 俺の数少ない楽しみが生まれたんだぞ。この機会を逃すわけにはいかない!


「明日の授業も演習だし……仕方ないな」


 苦笑しながらもナラトは約束してくれた。うちの主人はなんだかんだ約束を守るタイプらしいので、これで安心して眠れるぞー。じゃ、朝になったら起こしてくれよ。


 いそいそと俺は自分の寝床に付いて眠りについた。首に巻いたスカーフが暖かくて、すぐに夢の世界にいけそうだ。


「アキヒロが来てからほんと、家が騒がしくなったね。……おやすみ」

「キュムキュム……」


 



 しかし、俺はその時まだ知る由もなかった。


 この平和な日常が簡単に崩れ去ることを。


 その時間がすぐそこまで近づいていたことを。

 ◆異世界の料理解説 キクセンチュウ


・カキネ焼き

 キクセンチュウを調理する上で代表的な料理のひとつ。糞抜きしたキクセンチュウを氷水で締め、ソースを付けて串に刺して焼く。

 扱うソースはキクセンの葉を磨り潰したもの、ナパクの実 (甘い果実)、麗鶴樹(れいかくじゅ) (香辛料の原料)、塩を混ぜて作ったもの。

 カキネとは古い異世界の言葉で合わせ物という意味。昔はキクセンチュウを初めソースの原料が余っていたものらしく、古くから食べらていた。

 このことはあまり知られていないらしく、カキネという言葉が使われることが廃れた今でも料理名の名残として残っている。

 値段は安く、提供される屋台によっては左右されるが1本4匹付きで8ゴールドが相場である。

 味は幼虫の皮がパリッと焼けて、甘塩いソースと中の身が合わさって美味しい。慣れ親しんだ人にとっては舌ずつみを打つが、見た目がやばいので好みが別れる。


 ・エムトル

 キクセンチュウを使ったスープ。作り方が概ね2種類あり、キクセンチュウをすり潰してスープにするのが南北流、キクセンチュウの原型そのままに具材として扱うのが東西流と呼ばれている。


 南北流はキクセンチュウを塩茹でにしてから皮を剥いで身を取り出し、すり潰してスープの素を作る。そこに1:1の分量で先程作った素と水を入れてひと煮立ちさせ、塩、挽肉、各種調味料を入れて完成する。

 見た目はトウモロコシで作られたスープみたいなもので普通の人でも食べれる。味もまろやかで美味しい。原料を知らなければ虫嫌いの人でも喜んで食べる。


 東西流はキクセンチュウを塩で揉み、そのまま水で煮たもの。見た目が酷い。

 シンプルなものもあるが、オードソックスなものは味付けキクセンの葉を少量、黒辛山葵 (馬鹿みたいに辛い生姜みたいなもの)を入れ、具材として香抄菜 (野菜の1種)を入れて煮たものとなる。

 現地の人はよく食べているが……旅人や冒険者からの人気は皆無に等しい。味はオブラートに包んで野生味が溢れている。

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