5話 ニート、探索する
無事にペアを組むことができた俺達は早速セラフィーナと共に森へと赴いていた。
演習場の近場にあるこの森は『浅茂の森』と呼ばれ、弱い魔物しか出てこない訓練場として最適なんだとか。
出現する魔物は基本的に脅威度Fの個体しかいないらしい。ちなみにナラト曰く、脅威度Fとは一般人でも対処できる強さの魔物を指す。
つまり俺みたいな魔物しかでないってことだな。言ってて悲しくなってきた。自慢ではないがイモムシ状態の俺は棍棒で殴られただけで死ぬ自信がある。
「キュイキュイー!」
「了解アキヒロ、右方向から300メートル付近に魔物の反応が一体いるんだね」
『磁界の感覚』によって俺が魔物の位置をナラトへと教える。まあ唯一俺が貢献できていることだな。
距離が分かるのは『鑑定』のスキルを使って計っただけだ。
「ナラトの使い魔優秀。索敵もしてくれるし距離まで教えてくれるの?」
「うん、アキヒロは頭がいいんだ」
おっと、セラフィーナから褒めてもらった。
よっ、流石異世界定番の『鑑定』さん! いやー、流石っす!
無人島に持っていくなら何がいい? 的なノリで異世界でまず欲しいスキルと言えば俺は『鑑定』を選んでいる。産まれた瞬間から持っててのは紛れもない幸運だろう。
「ナラト、アキヒロに索敵範囲がどれくらいか聞いて貰える?」
「分かった。アキヒロ、分かるかい?」
うむむ、索敵範囲か。『磁界の感覚』は常時発動系だから俺も特に意識して使ってないんだよな。なんつーか、視覚とか聴覚みたいに磁気を感じる能力がデフォルトで備わってる感じ?
他生物で例えるとヘビが熱源を感じるピット器官が、産まれた時からあってずっと使ってるようだと言えば分かるかな。
もっと言うと、人間だって視覚を使って周囲の情報を読みとるけど、自分の視力でどこまで距離を視認できるか分かる人は少ないってことだ。つまり俺も試してないだけだ。
『鑑定』で測ってみれば普段は大体100メートルほど。今はちょっと集中して使ってるから700メートルが限界かもな。とりあえずナラトには半径700メートルぐらいって使い魔契約を通して返信してみる。
「アキヒロが半径700メートルだって」
「結構広い。ベテラン盗賊職の『気配感知』ですらその半分が関の山だよ?」
「アキヒロの種族はムルムルって言って、珍しい魔物だからね。その分凄いのかも」
セラフィーナに褒められて俺は満更でもない笑顔を浮かべる。性格がちとあれだが可愛い女の子に褒められて気分を悪くしない男子はいない。
と、反応がある所からかなり近付いてきたな。言い表すのが難しいが、『磁界の感覚』からは鳥っぽいシルエットが感じ取れる。これもナラトに返信っと。
「キュイ!」
「アキヒロが鳥っぽい魔物だって言ってる。タマスズメかな?」
「多分そう、攻撃を仕掛ける」
セラフィーナは背負った弓を構えると、反応を表している場所へと向けて鏃を向けた。
「風の第一詠唱――シエラッ!」
バシュ!
旋風が渦巻き、茂みの中へとセラフィーナの矢が突き刺さり、ずんぐりむっくり太ったスズメが驚いて飛び出した。
タマスズメって、なるほどなぁ……。確かにこんなに丸いフォルムからしてこれ以上ない名前だ。
それよりも! 今の魔法だよな! 俺が30歳になっても使えなかった魔法を今目の当たりしている!
弓矢に魔法を乗せて飛ばす使い方なのは少々意外だったが、『シエラ』は十中八九、風の魔法に違いないだろう。
俺にも『土魔法』があるがLvが0のまま。Lvが1にでもあがれば使える気がするんだが、早く使いたいものだ。
いいなぁ魔法! 他人が使ってるところを見ると俺も使いたくなる。早くジバ○アとかベ○ンとか、グ○ビガとか使いてぇ!
「ピョッピッ!?」
「っ、外した!」
どうやらセラフィーナの矢はタマスズメに当たったが、尾羽を掠っただけで致命傷には至らなかったようだ。脅威度Fとは言え腐っても魔物。油断せずに行かないとな。
さてと、俺も魔法が使えるように経験値稼ぎだ! いっちょ行くぜ!
「キュイ!」
ナラトの腕を飛び出して俺は地面に降り立つ。
むしタイプはひこうタイプには不利だが、まあなんとかなるだろう。タマスズメはあの体型じゃ飛べないし、精々たいあたりと鳴き声しか使ってこないはずだ。
俺には『噛み千切り』がある。条件は同等。
行くぜバトルだ!
「キュイィ!」
先手必勝、『噛み千切り』!
イモムシファングをカチカチ鳴らし、俺の攻撃はタマスズメへと直撃―――。
「キュイ!?」
か、かてぇ!?
『噛み千切り』は直撃したものの、俺はタマスズメの分厚い脂肪に弾き飛ばされ、無様に木の幹へ叩き付けられた。
おいおいおいおい、まじかよ。イモムシになっても流石に太ったスズメには勝てると思うじゃん? けどなんか弾き飛ばされたんだけど。
なんだこれ、クソゲーか? 俺の体はデスクリムゾンの主人公並か? 序盤のザコ敵にすら倒せない俺の性能なんなん? 性格不一致個体値逆6Vにでもなってんのか? それとも種族値が200しかないせいか?
「アキヒロ無理しちゃダメだよ!」
ナラトが吹き飛ばされた俺に近付いて抱き上げた。心配そうに俺を見つめるナラトの顔を見て悔しさが込み上げる。
トホホ……。もっと強いポ○モンとして生まれたかった。
「――シエラッ!」
そんな俺を他所に、強敵タマスズメはセラフィーナによっていつの間にか倒されていた。シエラを受けたタマスズメは胴体に風穴が開き、血を流して倒れている。
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タマスズメを討伐しました。
経験値を12獲得しました。
Lvが1から3に上がりました。
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お、アナウンスだ。1発攻撃を入れただけでも経験値をくれるのは有難い。この調子で早くLvを10まであげてしまおう。
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ゴブリンを討伐しました。
経験値を16獲得しました。
タマスズメを討伐しました。
経験値を12獲得しました。
タマスズメを討伐しました。
経験値を12獲得しました。
ヒュージスライムを討伐しました。
経験値を23獲得しました。
カナアミグモを討伐しました、
経験値を25獲得しました。
タマスズメを討伐しました。
経験値を12獲得しました。
〘Lv7/10〙
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その後、勢いに乗った俺たちは次々と魔物を倒していった。最終的にはタマスズメが4匹、ゴブリン、ヒュージスライム、カナアミグモが1匹ずつ討伐に成功した。
俺のLvも7まで上がり、あと少しで進化できるところまで来ていたのだが、日が暮れてきたので解散との話になった。
◆◇◆
特に何も無く演習が終わり、セラフィーナと別れ家に戻ってきた俺達。自宅では執事の爺さんがご飯を作って待っていてくれた。
夕飯のメニューはよく分からない肉のステーキとレタスみたいなサラダ、黒い豆のスープと焼いたロールパン。剣聖の家庭は言わば武勲を立てたことで爵位を貰い、貴族と同じ家庭だと勝手に思っていた。もっと豪華そうな食事かと思えば割と庶民らしい献立である。
執事が料理がしてる間にキュイキュイ鳴いて今日はお赤飯にしてくれと頼んだが、俺はよく分からない葉っぱを与えられて部屋に戻された。葉っぱはまあまあ美味かった。
いや話を戻して、今の食卓は現代日本の基準で考えると分からなんな。もしかして貧乏人は茹でたじゃがいもで終わりとかあるし、この食生活の水準が高い可能性も出てくる。
……考えても無駄か。とりあえず俺も飯を食べるか。
「アキヒロのご飯はこっちだよ。どう? 気に入ったかな?」
高椅子の前に座らされたと思いきや、机の上には葉っぱの上にカットしたフルーツとが皿に盛り付けられていた。
うーん……明らかに俺はイモムシ扱いだ。いやね、確かに俺はイモムシだけども。本音を言うとステーキ食いたいんだよなぁ……。
ポジティブに考えよう。隣のピヨ吉なんて植物の種だぞ。それに俺だったらイモムシの食事なんて葉っぱしか出さない。それなのにナラトはフルーツまで出してくれるんだ。充分豪華と言えるだろう。
あ、ちなみにピヨ吉と言うのは俺よりも先にナラトと使い魔契約をしていた同居人だ。パピリヨンバードという種族らしい。
「キュイキュイ」
キュイキュイ鳴いて俺は出された料理を観察した。葉っぱは桜に似ているな。で、出されたフルーツは三種類。それぞれリンゴ、マンゴー、ライチみたいだ。
そうだ、俺には『鑑定』のスキルがある。やってみるか。
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・キクセンの葉
庶民に親しまれている茶葉。乾燥させてからお湯で濾すことでキクセン茶となる。
気持ちを落ち着かせるリラックス効果があり、女性を中心に人気が高い。
・ガロクの実
トゲトゲとした殻に包まれた果実。中の果肉は非常に美味であり、鳥や虫から身を守るためにこのような進化をしたと考えられている。
・タムタロ
温暖湿潤な気候に群生する果実。栄養豊富な地面の下で育ち、果肉が黄色いことが特徴。
地質によって味が変化し、地域差によって値段が大きく変わる。
・ジャオウガン
硬い殻に包まれた小さい果実。割ると大蛇の眼のような見た目から名付けられた。
甘酸っぱい味であり、食べると疲労回復の効果がある。
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お、おおおおおおぉぉぉ……!?
凄い、凄いぞ『鑑定』! 物品の名称どころか簡単な説明をしてくれる!
早速俺はキクセンの葉から食べてみる。茶葉用として出されているので香ばしい。悔しいかな、イモムシとして生まれたからかとても美味しく感じる。味はなんというかドクターペッパーみたいな感じがする。
次はガロクの実。美味い、リンゴと白桃を合わせた感じかな? 食感は餅のようにモチモチとしているのも気に入った。
タムタロは見た目はマンゴーだけど味はなんというか……例える言葉が見つからない。不味くはないんだけど、美味しくもない。食えるっちゃ食えるけど……。それに食感がジャリジャリとしていて微妙。
ジャオウガンはヨーグルト味のゼリーで食感はライチそのものだ。前世でも馴染みのある味なので安心する。とりあえずタムタロ以外は当たりだな。
さて、ナラトにはタムタロ以外は美味しいかったと返信っと。
「キュ!」
「タムタロ以外は気に入ったんだね。え……?」
ん?
使い魔契約を通しての俺の返信にナラトは目を開いて驚いた。
おいおいなんだ? イモムシが味の感想を言った事に驚いたのか?
「アキヒロ、なんで初めて見る果実の名前がわかるの?」
あたぼうよ! 『鑑定』さんのお陰よ!
……あっ。
俺は自分が犯した間違いに気が付きフリーズした。
ナラトには俺の前世が人間だって言うことを伝えてない。そりゃそうだ、俺もイモムシが元人間なんて言われても信じないからだ。だから今までキュイキュイ鳴いてイモムシを演じていた。
だけど今の返信で俺のイモムシのベールが剥がれかけた。セラフィーナが言っていた『特殊個体』。確かに俺の称号の欄に記載があるし、いっそのこと明かした方がいいのかもしれない。
「え、アキヒロって特殊個体なの?」
そうそう。なんと『鑑定』スキルも持っているんだぜー。
「父さんが持ってきてくれた卵だけあるよね、これ。七大魔境の魔物が親だし、納得はできるんだけど……」
ナラトは驚きながらも何か言い淀むといった感じだ。どうかしたのかな?
「いいかい、アキヒロ? 『特殊個体』ってのはね、他の個体より知性が優れていたり、特別なスキルを持っている魔物に付く称号なんだ」
な、なるほど。俺は前世の記憶があるせいかなーと思っていたが、『特殊個体』の称号にはそんな意味合いが含まれていたのか。
「それで言いにくいんだけど……『特殊個体』を使い魔にしているテイマーは襲われやすいんだ。勿論、その魔物を狙ってね。中には無理矢理使い魔契約を上書きして自分のモノにしようとしたり、高額で売りさばこうとする悪い人がいるんだ」
こ、怖すぎるんだけど!? 俺ってそんな価値があるのか……参っちまうな。
……そういえば俺、セラフィーナの前で特殊個体ムーブしてたけど大丈夫かな。鑑定でバリバリ距離測ってたし。セラフィーナならそんなことはしないだろうけど、これからは気をつけた方がいいかもしれない。
「無いとは思うけど、アキヒロは自分のステータスは僕以外に教えたらダメだよ? 僕は正直、腕っ節が弱いから万が一何かあったら守れないんだ」
ま、まじかよ。ナラト以外の人間の前ではキュイキュイ鳴いてるだけのイモムシになろ。そっちの方が安全なだけはある。
「そうだ、明日アキヒロのなるアクセサリー買いに行こっか。使い魔の目印になるんだ」
アキヒロの身体能力解説
・イモムシファング
イモムシが持つ鋭い二対の牙! 葉っぱ程度なら簡単に切断することができるぞ!
・イモムシアイ
クリクリとした可愛らしい瞳! その視力は脅威の0.2!
・イモムシイヤー
周囲の音を感じ取れる聴覚機能! 人間を少しだけ凌駕する性能だ!
・イモムシソナー
磁気を使って周囲を把握する超高性能ソナー! 『鑑定』も使えば距離まで分かるぞ!
・イモムシボディ
ぷよぷよとした愛くるしいボディ!
触り心地は最高だが、敵からの攻撃に関しては水風船の如く脆弱だぞ!
書き留めが消滅したので更新は終わりです。
次回の本編更新は3/20日を予定しています。
感想をくれると作者のモチベが上がって筆が早く進む……かも?
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