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4話 ニート、学校に行く

 

 異世界転生してから翌日。


 俺はナラトに抱えられながら魔道学院と呼ばれる場所へとやってきた。一言で説明すると異世界にある貴族が通う学校だ。道を歩く生徒がどいつもこいつもいい所育ち。しかも美形ばっかりときた。


 え、どうしてナラトに着いてきてるかだって?


 そりゃ、異世界の学校に興味があるからに決まってるだろ! しつこくナラトの肩に乗っかってお願いしたらしぶじぶ承諾してくれたんだぜ~。うえっへっへ。


 それよりあれだな、昨日まで俺はイモムシに転生したことを恨んでいたがナシだ。

 ありがとう神様。俺をイモムシに転生させてくれて。もし人間のままこの学校に来ていたとしたら、余裕で女性に話しかけられない陰キャコミュ障オタクになって不登校になっている。


 やっぱイモムシ最高! 平気な顔で学校を歩けるなんて何年ぶりだろう。

 俺が中学生の頃なんて学校に行っても保健室と図書室通いでしかなかったからな。堂々と廊下を歩けるこの優越感。

 あぁ、身に染みるぜぇ……。


「アキヒロは嬉しそうだね。魔物から見ても学校は始めたかい?」


 ご機嫌に体を揺らしている俺を見て、ナラトが背中を撫でながら話しかけてきた。


 使い魔契約を通してどうやら俺の感情も伝わるらしい。学校は初めてじゃないです。って、心の中で唱えても流石に伝わらないかな?


 しばらく廊下を歩いているとナラトは立派な部屋の前で立ち止まる。

 ここがナラトの教室か? 扉の向こう側からはワイワイと騒いでいる生徒達の声が聞こえてくる。


 ――うぐっ!?


 聞こえてくる声に耳を澄ましてみればこれは……明らかな陽キャの声だ! 


 くっ、長年ニートしていたからうっかり忘れていた。学校には俺の天敵、陽キャが生息している根城だということを。


 俺は苦悶の表情を浮かべ、吸血鬼が太陽光を浴びせられたかのように、内なるトラウマが鮮明に蘇ってくる。


 前世で陽キャにいい思いは何一つない。学校できららファン〇ジア読んでたらギャルっぽい女子に取り上げられて中身を一瞥された後、鼻で笑われて返された経験が今でも心の奥底で燻っている。

 今世では違うのかもしれないが……かなりくるものがある。


「アキヒロどうしたの!? でも、僕も教室行くのは苦しいから頑張ろうね。……みんなと会うの気まずいし」


 ナラトは苦しげに蠢く俺に驚くものの、意を決して扉のドアノブに手をかけた。


 ナラトお前……薄々気づいていたけど俺と同じ陰キャだったんか。


 分かる、分かるよ。しばらく学校行ってなった奴が久しぶりに教室に入ると何か気まずいもんな。陽キャだったらちょっとした言葉交わして普通に輪の中に混ざるけど、陰キャだったら教室の笑い声がピタリと止まるもんな。

 で、それでクラスメイトが珍獣を見るような目で見てくるんだよ。あれれー? なんであいつ学校にきてんだー? ってな。


 ナラト頑張れ、超頑張れ。

 今はお前一人じゃない。俺が付いてやるから。もうひとりぼっちじゃないから、な?

 飯だって一緒に食ってやる。便所じゃなくて教室の机で食べれるようにしてやる。

 おめでとう、ぼっち飯卒業だ。哀しい学校生活とおさらばしようぜ?


「……なんでそんなに僕のことを憐れむような目で見てんのさ。ほら、行くよ」


 教室に入ったナラトを出迎えたのは奇異の視線だった。盛り上がっていた場は一瞬で静まり返り、誰と彼もがナラトのことを見つめている。


 くそっ、異世界でも陰キャ虐めんなよまじでよぉ! なろう小説ですら現実直視させる描写避けてるんだからもっと配慮しろよぉぉ!!

 おいナラトしっかりしろ! お前はもうひとりぼっちじゃない! 俺が付いているって言っただろ! 怯むな! 平然とした顔して自分の席に座ってやれ!


「えーと……ナラトさん?」


 固まっているナラトに向かって眼鏡を掛けた美形の女子生徒が話しかけてきた。上手く説明できないけどなんか委員長っぽい奴だった。


「ずっと休んでいた君が学校に来たかと思えばその気持ち悪い虫の魔物はなんなのですの?」


 ふああああああああぁぁぁ!?


 俺か! 俺なのか!? もしかしてナラトじゃなくて俺が珍獣扱いされてるのか!? 

 いやまあ、確かにこんなでっかいイモムシが教室にやってきたらみんな奇異の目で見るよね!


「委員長。こいつはムルムルといって、僕が契約した使い魔だよ。珍しい魔物なんだ」

「で、ですが……」


 おっと、この眼鏡っ娘はやはり委員長か。日本で培った俺の経験は確かに活かされているな。


 それにしても気持ち悪いってなんだ。見てみよろこの愛らしいボディ。今ならマスコット枠も夢じゃないと思っていたのに!


 俺がクラスの評価に憤慨している中、委員長の後ろからやけに強気な女子生徒がやってきた。

 燃えるような赤色の髪の毛に肉食獣のような目付きをしたそいつは、ナラトを見定めると獰猛な笑みを浮かべて早足で近付いてくる。


「あらナラト。久しぶりに顔を見せたら随分と趣味の悪い魔物をお連れのようね」

「げっ……アンダンテ!」


 アンダンテと呼ばれた女子生徒にナラトは強い不快感を示す。どうやらナラトにとって、このアンダンテはあまり近寄りたくない相手のようだ。


 確かにアンダンテからは並只らぬ陽キャオーラを纏ってる。雰囲気から分かる、こいつはスクールカーストのトップ層に君臨しているよう奴だ。俺の直感がそう訴えている。


「なにその気持ち悪い使い魔は。持ってきて自慢になるもんですか。こんなイモムシと比べればまだゴブリンの方がマシですってよ」

「キュイイイイィィィ!?」


 なんだてめぇこんちくしょう!!

 いきなりディスられてるんですけど! スライムならともかく、俺のビジュアルはゴブリンより醜悪だって言いたいのかオルァ!?


「剣聖の息子であろうとも人間がはしたない。剣聖の息子なら剣聖の息子らしくもっとしっかりなさい。そうでしょう、ミリィ?」

「え、えぇ。アンダンテさんの言う通りですわ。剣聖の息子なのですから、しっかりしないと」


 アンダンテの言葉に委員長のミリィが同調した。


 ナラトが学校に行きたがらない理由はもう確定した。ここは俺がシゴキを入れないといけない案件だな……。


 え、今サラっとナラトが剣聖の息子だってアンダンテのクソアマが言ってなかったか?

 昨日から良いとこの坊ちゃん育ち盛りだなとか思ってたけど、ナラトお前って奴はそんな凄い家系だったのか……。


「なんですか、教室がやけに騒がしいですね」

「あっ……先生」

「一体何の騒ぎです?」


 イモムシレッグをわきわきしていると、後ろから扉が開いて老けたババアが教室に入ってきた。委員長の発言から先生と見てとれる。


 ババアはナラトの肩に乗っている俺を見て顔を顰めると、腕を組んで威圧的に言い放った。


「騒ぎの原因はナラトさん、貴方ですね。久しぶりに学校に来たかと思えばこのヘンテコな魔物はなんですか?」

「僕の使い魔ですけど……」

「なんとまあセンスがないこと。使い魔にするならばもっと品性がある魔物を選びなさい」


 お前もか! いい加減俺をdisするのやめにしろよ! 繊細さに定評のある俺の心は豆腐メンタルなんだから傷付くだろーが!


「剣聖の息子である貴方がこんなのでは皆に示しが付きませんよ。勇者の娘であるアンダンテさんを見習いなさい。いいですか、これは先生からの助言ですよ」

「キュイキュイキュイー!」


 その時、俺の中で何がキレた音がした。


 なんだ、なんだよこいつらは! ほんとに腹が立つ奴らだな!

 ナラトのことを個人として見ずに、みんな剣聖の息子としか見ていないのがなんかもうムカつく! そんなに産まれた親が大事なのかよ!


 そんなにナラトが剣聖の息子として活躍して欲しいのかよ! ナラト個人の意志を無視して押し付けがましい価値観をさも当たり前のように言ってくるのがイライラする!


 ムカつくんだよこのクソババア! その口を一旦閉じやがれ!


「四聖職の剣聖と言えばレアト=シニュシアがこれまで誇りある名誉を守ってきた血統ですのよ。それを息子であろう貴方が汚してはなりません! 自覚があるのですか? 分かっているのですか? これだから貴方はぶつぶつぶつぶつぶつ……」

「キュイイイ!!!」

「ぶつぶ……きゃぁっ!? なんですかこれは!?」


 『粘着糸』を発動。俺の口から白色のネバネバとした糸がクソババアの顔面に貼り付き視界を防いだ。

 そのままババアは慌てふためいて盛大にすっ転んだ。後頭部を強く打ったらしく、「ぐえっ」と蛙が潰れたような音が聞こえた。


「ぐぅ……取れない……! ナラトさん! このことは家の方に連絡を入れますからね! よく注意しておきますから次はないように! 一限目は演習を行うので皆さんは移動しておきなさい! 先生はこのいっ……糸を取りに席を外します!」


 はははっ、ざまあみやがれ! 

 次は『粘着糸』のLvをもっと上げておくから覚悟しろよぉ? (ニチャァ


 そうして授業開始の鐘が鳴り響き、登校時のごたごたは一旦幕を閉じたのだった。





 ◆◇◆




「今から二人組を作ってもらいます」


 演習場にやってきた俺達にクソババアから突然死刑宣告を下された。


 あれか? 嫌がらせか?


 そんなに顔面に糸吐かれたのが嫌だったか? これだから器の小さいおばさんの先生は嫌なんだよ。小学校から中学生までおばさんの先生が結婚できない理由はこうゆうとこだぞ?

 だからお前らは結婚できないんだ。気付いたら誰も貰ってくれなくて行き遅れになってるんだ。いい加減に気付けよ。


 だがま、残念だったな?

 ナラトはもうぼっちじゃない。俺とナラトでペアが組めるんだーよーっだ!


「使い魔を持っていても今回は一人としてカウントしますので、必ず生徒同士でペアを組むように。ペアを組んだ人達から各自森に赴き、魔物を討伐してもらいます」

「ギュイイイイィィィ!!!」

「ちょ、アキヒロ! 静かに!」


 あああああ”あ”あ”ぁぁぁぁぁ!!!


 もう絶対に許さないぞあのクソババア! 明日の弁当はふりかけ替わりに俺の糸を吹っかけてやる! いきなり自分の水筒取られてご飯を冷たいお茶漬けにされた虐めの辛さを擬似的に体験させてやるよおおおおぉぉぉ!!!


「討伐した魔物の数によって成績が着くので頑張るように。それでは始め!」


 クソババアは言いたいことを捲し立てた後、すぐにその場から離れていった。


 はぁはぁ。落ち着け、落ち着け俺。


 人生の先人としてここはナラトに攻略法を教えなければいけない。まずは自分のクラスが偶数になってることを祈るんだ。確率は二分の一。確定的に余った人間と組めば問題ない。


 俺は首を曲げてナラトのクラスを見渡すと、既にクラスメイト全員がペアを組み終わって出発した後だった。


 ……おいおいナラトどうするんだ。お前のクラス、もう全員ペア組み終わって一人も余りがいねえじゃねえか!

 かーっ! 詰んだ! やめだやめだ! もうばっくれて帰ろうぜ!


「僕のクラスは17人だからいつもこうなんだ。アキヒロ、違うクラスの子と組に行くよ。最悪先生と組めばいいし」


 え、まじ? もしかしてナラトってコミ力が高い系の陰キャですか? 俺なんて組が余ったら校庭か体育館の隅でじっとしてたぞ?


 俺の内心を大して気にもしてなさそうにナラトは言うと、俺を抱き上げて余っている人間を探しに行きに走り始めた。


 そして走って一分も経たないうちにナラトは自分と同じぼっちオーラを身に纏っている生徒を見つけたようだ。


 流石はナラトだ。過ごしてきた陰キャレベルの高さが伺える。

 ターゲットの年齢はナラトと同じぐらい。弓を背中に背負った目立つ白髪の少女がぼーっと演習場の済で座っていた。


「あ、あの!」


 大胆! ナラトは何も躊躇わずに話しかけに行った。ちょっとナラトくん凄いですね。声掛けただけで女の子が振り向いてくれたよ。執事には一言添えて今日の夜はお赤飯を炊いて貰おう。


「……? なに?」


 って、ナラトが話しかけた女の子めちゃくちゃ可愛くねえか!? 初雪のような白髪とトパーズを彷彿させる黄色い瞳。幼さが残りつつも輪郭が整った端麗な顔立ち。

 胸は慎ましいがロリコンの人からすれば完璧な逸材。


 うあああぁぁ、緊張してきた……。


「……なにか用?」

「僕はナラト。君と同じでペアが組めなくて余ってるんだけど、良かったら一緒にどうかな?」

「そう」


 白髪の少女は顎に指を当てて考える仕草を数秒行うと、何か思いついたのかナラトに指を向けてドヤ顔で言った。


「さては貴方……ぼっちでペアが組めなかったの?」


 推理したみたいに言ってんじゃねえよ! その通りだよ! 今は俺が付いてるけど!


「え、えーとまあ、うん……」


 否定とも取れるし肯定とも取れる曖昧な笑みを浮かべながらナラトは頷いた。

 この少女はあれだな、マイペース過ぎてみんなに避けられている奴だ。同じ陰キャでも方向性が違う。


「仲間ね。貴方は私と同じぼっちオーラが漂っているぼっち」

「ぼっちオーラってなんなの……?」


 ナラトが困ったように俺を見つめて助けを求める。

 ちなみにぼっちオーラは他人が話しかけにくい、近寄り難い雰囲気を表しているオーラのことだ。

 熟練者になると四方八方からクラスメイトが談笑していても誰も話しかけてこなくなるぞ。

 ソースは俺。


 白髪の少女は立ち上がるとナラトの前で会釈した。


「私は森人族(エルフ)普人族(ヒューマ)のハーフだから。誰も話しかけてくれないから助かる。いいよ、ペア組もっか」


 は? なんて?

 エルフ? エルフって言ったよね今!?

 なんでみんな話しかけないのか謎なんですけど! エルフと言ったら異世界に来たならサキュバスを差し置いてエッチしたい種族ナンバーワンだろうが! 俺なら興味津々で話しかけ……られないけど見ちゃうもんね!


 そんな俺の気持ちを察したのか、ナラトが使い魔契約を通して話しかけてくる。


 ――アキヒロは魔物だから分からないかもしれないけど……。他種族同士の子どもは訳ありな人が多いんだよ。エルフとヒューマのハーフだから避けられているんじゃなくて、厄介な家の事情に首を突っ込みたくないからみんな話しかけないだけだと思う。


 なるほどなー。貴族だからこそ家の事情に踏み込んじゃいけないのか。

 つーかマジで使い魔契約便利だな。主人からこうしてテレパシー的な感じで話しかけることができるかよ。


「手に抱いてるイモムシは貴方の使い魔? 可愛いから触ってもいい?」

「う、うん。いいよ」


 えっ。


 俺はいきなりペタペタと白髪の少女に頭を撫でられる。


 初めて母親以外の異性に触れられた俺はなんとも言えない動きをしていたと思う。とにかくバイブ機能が追加されたんじゃないかと思うぐらい震えていた。


 あばばばばばばばばばばばは……。


「この子の名前はなんていうの?」

「えと、アキヒロっていうんだけど……」

「ぷぷっ、変な名前」


 白髪の少女はにこやかに笑うと手を差し出して握手を求めた。


「私はセラフィーナ。よろしくね、ナラトとアキヒロ」



 ハーフエルフが 仲間に なった!


 プロット段階ではアキヒロのパートナーがセラフィーナでした。しかし書いていても大して面白くなかったのでナラトに変更された経緯を持ちます。

 セラフィーナは口数が少ないキャラで、内心をアキヒロを補強してあげるペアリングでしたが、口数の少なさ上に他の登場人物と会話が続かない弊害が出てきたので断念しました。

 すまんなアキヒロ。

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