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16話 冒険者ギルドへ

休みを貰えたのでやっと投稿できます。




「アキヒロ、不味いことになった」


 ナラトが入院してから5日目。俺たちに最大の危機が訪れていた。


「お金が……ない!」


 そう、金だ。


 貨幣は異世界だろうが人が生活していく中で生み出したツール。今まで意識していなかっただけで普通に存在している。ナラトの入院費と生活費で手持ちの金が尽きたのだ。


 そもそもの話、ナラトとセラフィーナがいいとこ出の人間とはいえ、演習中に大いなる凶狼に襲われた時点でお金を持って逃げるなんてことは出来やしなかった。


 俺は楽観視していた。ナラトが目覚め、ヘイラブルに着いた時点で剣聖の父親に伝書鳩を送っている。

 セラフィーナと別れ、数日で迎えに来た剣聖と共にどこへ避難する構想を立てていた。


 しかし、実際は返事がいつ来るか分からない。つーか未だに来ない。


 セラフィーナは貴族とはいえ文無しなので、剣聖に頼み込んで金をせび……借りて実家まで送り届けてあげようとしていたナラトもこれには相当困っている。


「このままじゃ入院できない。……私が働く?」


 セラフィーナが悩みながらも提案してきた。


 その提案が現実的だろう。現状、ナラトの傷はまだ癒えきっていない。働くことすら危うい印象がある。それならばセラフィーナが働くのが最適解なのだが……。


「えっと、流石にそれは……。ないんじゃないかな。僕自身が人の道を踏み外したような。そんな気がするんだけど」


 それは命と引き換えにプライドを殴り捨てて、剣聖の息子からヒモになることに等しかった。


 俺が言っても説得力がないだろうが……。


 ニートはいいぞ。養ってもらうことはいいことだ。特に働かなくていいってのは最高だ。

 毎日好きな時間に寝て、好きな時間に起きて、一日中ゴロゴロしながら過ごすんだ。働かなくても食う飯は美味い。

 自分で言っておきながら俺は相当なクズだな。何十年も親の脛齧(すねかじり)りながらニートしていた貫禄があって我ながらびっくりする。


 だが、人としての尊厳というか、生き方に対して疑問を抱くようになるぞ。まじで。

 結構しんどいだよね、これが。ニートしていた人ならば分かるかもしれないけど。


 まあ価値0のニートだった俺がこんなこと言ってもブーメラン発言なんだけどさ……。働かなくて自分に価値がなくなるってのは辛いんだよな。


「それなら仕方ない。私名義で借金してくる」

「ちょ、ちょっと待って!」


 慌ててナラトは腕を伸ばすと、部屋から出ようとするセラフィーナの裾を握って引き留める。


 ナラトが止めたのは分かる。貴族なら借金しても返せると思うが早急すぎるだろう。


「そうだ、クイーンスパイダーかジャイアントスパイダーの素材は持ってない? 冒険者ギルドで換金すればそれなりの額に……!」

「そんな場合じゃなかった」


 だよなぁ。


 脅威度の高い魔物素材は売れそうだが、こっちはナラトを運ぶだけで精一杯だった。瀕死のナラトを差し置いて魔物の解体が出来るほど俺とセラフィーナの神経は図太くないし余裕もない。

 ゲームの世界なら話は別だっただろうけど。


 ん、でも待てよ?


「キュイキュイ!」

「え、アキヒロが……働くって?」


 そうだ、冒険者ギルドで換金できるなら、俺が魔物を倒して素材を売り払えばいい。

 マンネンゼミへと進化した俺ならば脅威度Eまでの魔物ならば倒せるはず。実際にダンガンワシをいとも容易く倒せた実績がある。


 今まで一度も働いたことがない俺が異世界で働く……。せっかく虫になってまで人生をやり直せたんだ。ここは退院するまでは稼いでやるよ!


 と意気込んだものはいいもののの。おっと、ここで少し異世界での貨幣事情について説明しよう。


 この世界での単価はG(ゴールド)。日本円のレートにざっくりと表すと、10円=1Gみたいなもんだ。


 俺の同族が屋台で売られていたのが8Gの80円。

 自然治癒力を高めるポーションなんかが23Gの230円。

 そんな感じで、ナラトが入院している施設の一日料金が1300Gの13,000円だ。


 それプラス、食費だとか雑貨費がかかるので一日1700Gは稼がなくてはならない。こうして考えてみると、日雇い労働者よりも割高な日当が必要になってくる。


 うむむ、魔物倒して金を稼ぐのはいいがちょっと厳しいかもしれないかな?


「それなら、アキヒロを私に貸してほしい」


 セラフィーナが俺を持ち上げて声を発した。


「冒険者ギルドでアキヒロと一緒にクエストをこなす。主人(ナラト)は貸した使い魔の対価を得る。それなら大丈夫でしょ?」

「それは……そうだけど……」


 俺はセラフィーナの瞳を見つめてキュイキュイと鳴いた。


 そうか、その手があったか!

 ナラトは普通に冒険者ギルドの試験で落とされたが、セラフィーナは試験に受かってライセンス的な物を持っているのだろう。

 つまり俺がセラフィーナの使い魔のフリをして協力すれば稼げそうだ。


「いい案だけど不安だよ。アキヒロ、セラフィーナの言うことはちゃんと聞けるかい?」

「キュイキュイ!」

「ん、アキヒロは賢いから平気」

「そう、だね。信じるよ。傍で大人しくしておけばセラフィーナの使い魔じゃないとバレる心配もないし、安全と言えば安全かな」


 おう、任せとけって。

 俺は使い魔契約を通して『問題ない』と答えておく。とはいえ、ベッド上で話しているナラトの顔は不安そうだった。


「アキヒロ、使い魔契約は主人と一定距離離れたら交信が難しくなるんだ。無理はしないでね」

「キュイ!?」


 え、マジか!?


 セラフィーナと離れても異世界情勢に強いナラトの助言があれば心強かったのだが……まあ無いものは仕方ない。

 それよりも使い魔契約って携帯の電波みたいだな。妨害(ジャミング)できそう。


「行こ、アキヒロ」

「キュイ!」


 俺は頷いてセラフィーナの肩に乗る。

 

 ナラトはしばらくお留守番だ。俺は主人の元から離れ、ひと足早く冒険者ギルドデビューが決まったのだった。




 ◆◇◆




 冒険者ギルドは病院からは近くすぐに着いた。


 木製の二階建てで、いかにもそれらしい雰囲気を漂わせている。

 セラフィーナは臆せずに扉を開け俺もそれに続く。中に入ると酒と木の香しい匂いが鼻腔をすり抜け、独特の雰囲気の空間へと足を踏み入れた。


 内装は酒場っぽい。実際に食堂と隣接しており、酒も提供されているだろう。ざっと見た感じ机と椅子が並び、クエストカウンターが配備されているといった様子だ。


 お、おおおお~~!!!


 これだよこれ! まるでラノベで読み、アニメで見た異世界だよこれが!


 席ではつるっぱげの剣士と魔法使いの女性が盃を交わし、クエストカウンターにはそこそこ美人な受付嬢がクエストを受けに来た冒険者に案内を出している。


「キュイキュイ!」

「ん、アキヒロ興奮してる? スカーフも付けてるし、今は私の使い魔だから襲われないよ」


 おっと、興奮し過ぎて勘違いさせてしまったな。今の俺はナラトじゃなくてセラフィーナの使い魔。彼女の顔に泥を塗らないようにも、行儀よくしていなければ。


 ちなみに紹介が遅れたが俺の首には『靡き風のスカーフ』が巻かれてある。以前は森の中で木炭を包むのに使っていたが、セラフィーナが洗って返してくれた。

 少しくすんでしまったが、俺自身は戦い抜けた歴戦の証みたいでかっこいいと感じている。


「さて。クエストを探すよ」


 セラフィーナは大きな木の板の前で立ち止まった。


 ここにはクエストの依頼書が無造作に貼り付けてられているらしい。俺も眺めるとゴブリン、スライムといったオードソックスな魔物達から、見たことも聞いたこともない魔物の討伐依頼や、植物、鉱物の採取依頼が貼ってある。


 『荒れ狂う砂海』に生息する骨しかない魚の魔物、『エギラディス』の討伐。

 魔物が生息する森にだけ群生する黄色い唐辛子、『ペププチ』の採取。


 俺は夢中になって次から次へと読んでいく。


 凄ぇ。モ○ハンのクエスト一覧みたいなのがまだまだある。この調子なら無限に見ていられそうだ。

 

「ん。この楽蓮草(らくれんそう)の採取……。やけに実入りがいい」


 しばらく眺めていると、セラフィーナの目にある依頼書が目に付いた。手に取って読んでいる後ろ姿から俺も覗き見して内容を確認してみる。


 内容は『泥濘の湿地帯』と呼ばれる魔境に群生している『楽蓮草』の採取。内容だけ見るに特に難しいクエストでもないみたいだ。


 気になる報酬金は……7000G!?


「キュイ!?」


 なにぃ!? 日当7万円のクエストだと!?そんな夢のようなクエストがあるっていうのか! 


 俺は目をキラキラと輝かせながら依頼書に穴があきそうになるほど睨めっこした。


 話が本当ならナラトの入院費の負担が軽くなる。是非受けてみたい、が……。


 ぶっちゃけ、怪しくね?


 前世でもこんな(ことわざ)がある。"美味しい話には裏がある"と。


 依頼書を見るとあまりにも普通だ。いや、普通すぎる(・・・・・)

 他の依頼書と比べても報酬金以外は怪しいところが何一つ見当たらない。


 恐らく罠に近い。俺の予想では、このクエストを受けた冒険者を楽蓮草のある場所で待ち伏せし、身ぐるみ剥がして殺すというものだ。

 まさに魔物狩りならぬ冒険者狩り。そんな悪いやつらが異世界にいてもおかしくない。あまりにも美味しい餌を前にした時、人は突き進むのではなく疑ってかかるべきだ。


 そうだろ、セラフィーナ?


「これにしよ、アキヒロ」


 おおおおおおいいいいいいいぃぃぃ!?


 このっ……世間知らずなお嬢様め!

 馬鹿っ! 貴族だから金銭感覚狂ってんじゃねえのか!? どう考えても受けたらダメなクエストでしょーが!


「キュイキュイ!」

「うんうん、アキヒロもこれがいいんだよね」


 全く話を聞いてくれねぇ!


 そりゃそうか。俺にはナラトという、極めて優秀な頭脳担当(ブレイン)がいた訳だ。しかも使い魔契約を通して言葉が喋れないながらも意思疎通ができる。


 それに比べるとセラフィーナとは意思疎通が出来ない。使い魔契約を結んでいないからだ。

 これは不味いことになった。ナラトが不安がっていた理由がやっと理解できた自分が恨めしい……!


 俺の不安を他所に、セラフィーナは呑気にクエストカウンターの方へと歩いていく。受付嬢に話しかけて受理しようとしているのだろう。


 と、その時だった。


「おっと、それに目を付けたのか?」


 上の方から声を掛けられた。


 見上げていると背の高い男性冒険者が立っていた。暗い紺色の髪、灰色の瞳。整った顔立ちで、鋭い目付きが特徴的な奴だった。

 装備はレザーベストと……水筒を6つ程腰のベルトから下げている。服装からして怪しい、というのが俺の第一印象だ。


「貴方は?」

「失礼。俺はここ、ヘイラブルのギルドで活動している金級冒険者。そして君が持っている依頼書を発行した者だ。名前はグランツ=ユーリシリア。よろしくな」

「金級……!?」


 依頼書から目を離してセラフィーナが驚いている。


 俺も同じだ。まさか、この怪しいクエストを発行した人物と、これほどまで早く対面するとは。

 それに金級冒険者だって? 冒険者ギルドでの基準は分からないが、立場的にはベテランなのは想像が着く。


 俺はキュイキュイ鳴きながらグランツと名乗った冒険者を睨みつけ、警戒する。


「すまないが君の名前を聞いてもいいかな? できればそちらにいる、使い魔の名前もね」


 依頼書とグランツを交互に目配せし、セラフィーナは迷いながらも答える。


「私はセラフィーナ、銅級。背中にいるのはマンネンゼミのアキヒロ」

「それでは……」

「待って。何故、金級冒険者の貴方がこんなクエストを募集している?」


 お、いいぞセラフィーナ。ちゃんと言えたじゃねえか。


 俺は内心でほっとする。このままホイホイついて行くようだったら無理やりでもナラトのとこに引っ張っていた所だ。

 グランツのことは疑ってかかった方がいい。そう俺の本能が直感として訴えている。


「すまない。それはギルドの秘密事項に抵触してしまうから言えないんだ」

「……」

「ただ、ギルド直属の依頼なのは俺が保証する。もし受ける気があれば依頼内容の詳細を話そうと考えている」


 これはクロだな。


 セラフィーナは依頼書をカウンターではなく、グランツの手に押し付けた。


「ごめん、私は手を引く。貴方のような人間は信用できない。他の人を探して」

「キュイ!」


 一方的に言い捨てるとセラフィーナはその場から離れようと踵を返した。


 ふぅ……セラフィーナが着いていか心配だったが杞憂だったな。ったく、厄介なのに絡まれたもんだぜ。ま、関わらなければいいだけの話だ。さっさと次のクエストを探しに……。


「少し、待って欲しいかな。音の第二詠唱――『ヘホルツ』」

「キュイ!?」


 それはプロのマジシャンが行うマジックのような、とても鮮やかな詠唱であった。


 グランツが指を鳴らすと振動が木霊する。目をよく凝らして見なければ気付くことができない、音の膜が二人と一匹を包み込み、周囲から喧騒を隔離した。


「――! 何をした?」

「魔法で音の障壁を貼ったまでだ。ここから三歩程度の範囲ならば俺たちの声は周りに聞こえない」


 喋り声が絶えない冒険者ギルドの中なのに。グランツが言った通り、この間だけは無音に包まれている。外からの声も聞こえないし、俺達の――内からの声も外に聞こえないらしい。


 まさに音の結界を数秒にも満たない時間で造り上げたのだ。


「キュイ……!」


 数々の戦闘経験を掻い潜ってきた俺はすぐさま感じ取った。

 魔法のことはまだ理解しきれてない、第一詠唱齧った程度の俺だが、グランツの魔法の精度は高いものだろう。


 やっと俺は自身のピンチを自覚した。グランツとかいう冒険者、実力はかなり高い人間なのだと。


「あまりバラしたくなかったんだけどな」


 グランツが漂わせていた気配が様変わりした。小声でセラフィーナではなく、()に耳打ちする。


「『鑑定の魔眼』」


 ―――――!?


 なっ!? なんだと!?


 グランツの右目が白色に輝き、幾重もの魔法陣が瞳から展開された。カメラのレンズが回るように魔法陣がクルクルと回転しながら俺を捉えてやがる。


 聞き間違いでなければグランツは俺と同じ『鑑定』のスキル所持者だって言うのか!


 これは不味いことになった。俺の持つスキル、そして称号の『■■■■■?』。その内容を見られたりしたら……。


 ろくな事ならないことだけは、確かだった。


「単刀直入に言おう。どうして君に話しかけたのか。それは興味が沸いたからだ」


 汗腺(かんせん)なんてとっくにない筈のに、冷や汗をかいたような冷たさが背筋を走った。


「君の使い魔(・・・)、面白いスキルを結構持ってるじゃないか?」




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