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10話 逃走の後に

モンハンRISEしてたので更新遅くなりました。許して。




 道無き道を歩き、山を幾つも越えてどれ程経っただろうか。


 時刻は深夜。俺の『磁界の感覚(トレ・クオリア)』でなんとか歩けていたが、ナラトとセラフィーナは微かな月明かりだけが頼りで、これ以上進むのは難しいと判断した。


 一旦休むこととなり、この世界に来てから初めての野宿を俺は経験している。


「……父さん」


 パチパチと薪が燃えていく焚き火で俺たちは体を温めている。炎に手を(かざ)したナラトの表情は、とても暗いものだった。


「キュイ……」


 あまりにも痛々しくて見ていられなかった。目を逸らすように夜空を見上げると、満点の星空がキラキラと輝いている。


 驚くほど静かだった。津波の後の海みたいに、夜の森は静謐(せいひつ)な雰囲気だけが残されている。

 先程の出来事が悪い夢だったんじゃないか。そのような考えさえも出てくる余裕があった。


 ……だが、あれは現実だ。目の前で委員長とアンダンテは殺され、街はスタンピードを起こして壊滅しただろう。

 俺たちは無力で、逃げることしかできなかったんだ。


「もし、父さんがいれば……。違う、僕が剣聖の息子として強かったら……」


 奥歯を軋むほど噛み締め、ナラトが爪がくい込むほど拳を強く握る。目からは涙が(にじ)み、深い後悔に(さいな)まれていた。


 会話を思い出す。骸骨が去って、その後のことを。


「ナラト! アキヒロ!」


 セラフィーナを起こしにきた俺たちだったが、既に気絶から目覚めていてあっさりと合流した。


「ねえ、アンダンテは?」


 キョロキョロと辺りを見回すセラフィーナ。


 ナラトから使い魔契約を通して語られた。あの骸骨のことも、街にスタンピードを起こされたことは伏せておくそうだ。


 骸骨のことは明かさない。だが、スタンピードのことはヘイラブルに着いてから明かすつもりだ。

 この場で深い悲しみに駆られても意味がないと判断したのだろう。


「……死んだよ。狼に殺された」

「……そう」


 何処か腑に落ちない表情でセラフィーナは頷いた。特に死んだ彼女ら二人と関わったことは無かったが、やはり死んだことに対してはショックを受けていたようだ。


「セラフィーナ、街に戻るのはやめよう。狼が逃げた先はダイアラームなんだ。隣町のヘイラブルに行こう」

「分かった。ナラトを信じる」


 それから今に至り、篝火(かがりび)越しに二人を見つめる。


 ……あの時、俯いたセラフィーナは暗い面影を落としていた。既にナラトの様子から、何かあったことを気付いていたんだと俺は考えている。セラフィーナは分かっていて黙っているのだろう。


「ねえ、ナラト」


 そんなことを考え耽ってる中で当のセラフィーナが口を開いた。名前を呼ばれたナラトは焚き火から目を離して振り向く。


「どうしてあの時、魔物を一目見ただけで判別できたの?」

「それは……。僕の父さんが過去に戦ったことのある魔物だからだよ。話を聞いただけだったけど対策を練られたんだ」

「そっか。やっぱり私はナラトのお陰で助かったんだね」


 納得したようにセラフィーナは胸の前で手を握りしめる。


「あの時、私を気絶させていなければ死んでいた。ナラトの言った通り、狼のスキルによって捉えられていたんだと思う。貴方と居たから、私は生きているんだね」


 そのとおりだった。あの時、セラフィーナを気絶させていなければ確実に『恐怖の感覚(フィア・クオリア)』によって発見されて殺されていただろう。


「本当は……本当は、」


 しかし、セラフィーナの言葉を聞いたナラトは首を横に振ると、自分の手の平を凝視して震わせた。


「アンダンテも助けたかった。僕を虐めていた嫌な奴だったけど、死んで欲しくはなかった」

 

 ……。


 ナラトは引きずっている。下手すれば一生。後悔という、心の傷を。


 どうすれば俺はナラトを励ませることができるんだろう。人を励ます言葉なんて使ってこなかった俺には、何一つ頭の中に浮かんでこなかった。


「ナラト。……辛かったね」


 ぎゅっと、後ろからナラトの頭を抱き締めた。


「自分を責めちゃ、だめ。ナラトは頑張った。だから、もう苦しまないで」


 セラフィーナも見ていられなかったのだろう。静かに目を閉じて涙を流していた。


 俺も……同じ気持ちだ。もうナラトには苦しんで欲しくなかったんだ。


「違う、違うんだよ……!」


 声を捻り出すようにナラトはセラフィーナを振り払って対峙した。


「アンダンテは僕が見殺しにした! 助けようとした手を、僕は伸ばさなかった!」


 ナラト……。


「アンダンテが死んだから僕は生きているんだ……。他人を蹴落とした命で、こうして立っていられるんだッ!」


 使い魔契約を通して伝わってくる。言いようがない、複数の負の感情が合わさったこの気持ち。

 シンクロしたかのように俺の胸も苦しくなり、押しつぶされそうな深い後悔に足が沈む感覚に陥る。


 ナラト……お前……。


 こんなに苦しんでいたのかよ……! 目の前でアンダンテ殺されて、セラフィーナと合流してここで休むまでの間。ずっと、こんな気持ちを抑え込んでいたのかよ……っ!


 一言、一言ぐらい言ってくれればいいじゃねえか! 弱音ぐらい吐いたって、俺はなんともねえんだよ! 俺はお前の使い魔だろ! 少しぐらい、頼ってもいいんだよ!


「ははっ……笑えるだろ。剣聖の息子がやったことは魔物退治なんかじゃない! 自分の命惜しさに、他人を犠牲にして生き残っただけなんだ……っ!」

「キュイキュイ!」

「そんな訳ない――!」


 俺が反論しようとすると同時に、強い口調でセラフィーナが反応した。まさかこんな返し方をされるとはナラトも思っていなかっようで、怯んで目を見開いた。


「あの状況で全員を救えるなんて例え貴方のお父さんでも無理だよ。自分と私を逃がすことが出来ただけで、貴方は誇っていい」

「でも――ッ!」

「例え、ナラトのせいでアンダンテが死んだとしても」


 ナラトの言葉を切り、首を横に振ってセラフィーナは否定する。


「私を助けてくれた、でしょ? 貴方のお陰で私は生きてここにいる。だから、もう責めないで」

「うっ、ぐ……。あぁ……」


 ナラトは大粒の涙を零し、泣き崩れた。俺はその光景を静かに見守っていた。


 俺はセラフィーナを見上げた。彼女のお陰で、使い魔契約を通して伝わるナラトの感情が和らいだ気がする。


 俺はナラトに近くに寄り添った。今はセラフィーナの言葉で少しは救われればいいと、強く祈る。


 後悔が涙と共に少しでも濯がれるように、と。




 ◆◇◆




 翌日。


 俺はナラトを揺らして起こし、ヘイラブルに向けて避難するために動いていた。


 昨夜の見張りはセラフィーナ、ナラト、俺の順番でやった。なので俺が最後に起きてみんなを起こしている。


 ナラトを起こす前からセラフィーナは既に起きていて朝食の用意をしてくれている。朝食といってもその辺の木の実の皮を剥いたものと、朝露を集めた水だ。

 俺は問題ないが、二人のスタミナが付きそうにない。特に水は死活問題で水分不足が怖い。

 演習に持っていった水筒の水だけではこの先心もとない。途中で倒れたりしたら、と考えると心配だ。


「行こうか、みんな」

「うん。アキヒロ、折角のスカーフを汚してごめんね」


 ものの数分で木の実を食べ終わり、少ない荷物を纏めてナラトが号令をかけた。

 セラフィーナが頷き、俺のスカーフを取る。木炭を数個スカーフをくるめるとバックの中に入れ、焚き火の火を土を被せて消した。


 俺のスカーフは魔力が込められているので他の布と比べてかなり頑丈らしい。ちょっとやそっとの炎じゃ燃えないんだとか。

 セラフィーナが木炭をくるんだのは、この先焚き火をする時に早く火をつけれるからだった。


「キュ!」


 俺は鳴き声で返答する。別にスカーフが汚されて構わない。セラフィーナの笑顔の方が俺にとっては大事だ。


 あー……。こんな変にキザなセリフ、俺には似合わねえな。でもセラフィーナが頭を撫でてくれたので俺は満足だ。


「方角は合ってるね。これなら半日で街道に出れそうだ」


 太陽を見上げてナラトが言った。


 使い魔契約を通してこの辺りの地図が俺の脳内に送られてくる。ナラト曰く、知能が高い魔物であれば使い魔契約はメッセージだけではなく、イメージさえも送れるらしい。


 地図の内容は大雑把ながらも、『磁界の感覚』と合わせることでより正確になった。しかもナラトが日が昇る方角からヘイラブルに向かうまでのルートを教えてくれたので迷わないで済みそうだ。


 予定としてはここから半日程掛けて東に進むと街道に出るらしい。運が良ければ商人が利用する馬車が通りかかることもあるそうだとか。


 大いなる凶狼は影に身を潜めることが出来るので神出鬼没だ。今頃はダイアラームの住人達を食い殺して満足しているだろうが、いつ森に帰ってくるかは分からない。俺の心としては一刻も早く森から抜け出したかった。


「アキヒロ、周りの索敵を頼むよ」

「キュイ」


 返事を返して俺は体に喝を入れる。


 おう、任せてくれ。


 俺はナラトの肩に乗り、一行は進み始めた。


 日が昇ってまもないので森は明るい雰囲気を取り戻しつつも未だに静けさが漂っている。木の葉からは朝露が零れ落ち、心地よい湿った空気が肌を過ぎ去っていく。


 『磁界の感覚』から分かることは大いなる凶狼が移動したことで、初日にセラフィーナと演習した時と同じように森にちらほらと魔物の反応があるのとだ。


 どうやら怯えてきた魔物が戻ってきたらしい。大いなる凶狼が遠くにいることが分かる安堵感がある反面、いつ他の魔物が襲ってくるか分からない。


 特に街の近くにある『朝茂の森』から離れた場所は人が滅多に立ち寄らない。そこはちょっとした魔境になっていて、脅威度Eクラスの魔物が出現すると言われている。

 俺たちはそこを移動して街道まで出るつもりなので、警戒は常に怠らないように気を付けている。


 そのため俺はナラトの背中に乗っている。ナラトの指示は的確で、いつ魔物が仕掛けてきてもいいように、唯一『シエラ』を使えて戦えるセラフィーナの手が空くようにしていたのだ。



 そして歩くこと数時間。



 早朝から日が真上まで登り、昼となった。


 森は深く、木の葉が暑い日差しから身を守ってくれるので体力の消耗は少ない。この調子ならまだ余裕はありそうだった。


「みんな、ここで休憩しよう」


 山を越えた辺りで川が見つかった。魚影が見える清流で、川のほとりで休憩を挟むらしい。


 セラフィーナが俺のスカーフにくるんだ木炭を取り出すと焚き火の準備にかかる。俺はその辺の木を集めて薪代わりにし、糸を燃焼剤のように扱い火をつけた。


 水筒に水を汲んできたナラトが帰ってくる。剣と魔法のファンタジーなこの世界でも寄生虫や細菌等の予防には知識があるらしく、野外で水を飲む時は必ず沸騰させてから飲むみたいだ。


 前世の言葉を借りるなら煮沸消毒って奴だ。俺なら間違いなくそのまま飲んでいたので異世界人様様だ。


 とはいえ俺は魔物だから大丈夫そう。二人の水はなるべく確保しておきたいので、川の水をごくごく飲んでいる。


 ぷっはー! 水が美味い!


 こんな状況でなければ自然に浸る楽しさに気付いて俺は満喫していただろう。もしも、前世で登山部とかに入っていたら山に登る楽しさに目覚めていたのではないだろうか。


 高校はFラン進んで出席日数ギリギリで卒業。大学は中退した俺だが、中学から部活なんてバカにして何一つやっていなかった。大学のサークル入ったけど人間関係が肌に合わずすぐにやめた。


 なんか……後悔するな。異世界転生してからいいこともあったが、日本が恋しくなってくる。


「キュイ」


 ええい、やめだやめだ。


 過去のことを振り返っても何も変わらない。今はナラトとセラフィーナが無事にヘイラブルに避難できるよう、俺が少しでも力になってやらないと。



 バシャ!


「キュ?」


 川の水が撥ねた。遠目から見ると魚が動いたらしい。そういえば魚影が映っていたな。


 ……そうだ、魚でも捕まえて二人に食わしてあげたいな。丁度焚き火もしているし、焼いて食べるぐらいの時間はあるだろう。木の実だけでは体が持たない。


「キュイキュイ」


 俺は近くの石をひっくり返し、ミミズや虫みたいな、魚の餌になりそうな魔物を探す。


 もう35年前ぐらいになるのかな。その時は日本はまだ田舎だった。小学生ぐらいの俺は友達がいて、川で魚釣りとかしていたんだ。周りのミミズとかをタコ糸で結んでザリガニを釣って遊んでいたんだっけ。

 その延長線上で魚も取れるかもしれない。


「キュイ」


 お、発見。石を裏返すとゴカイっぽい異世界生物が張り付いていた。


 『粘着糸』でゴカイモドキを取り付け川に投げ込む。すると、ものの数秒しない内に手応えを感じた。


 お、もしかして俺って天才? 意外とサバイバルもいけるかもしれん。


 全力で糸を引っ張るとナイフのような形をした緑色の魚が釣れた。『鑑定』して確かめてみよう。




━━━━━━━━━━━━━━━

 ◆サチメチ

 形が短剣に似ている魚。主に魔境に生息しており、川底にある藻を食べて生活している。独特の色合いをしているのは食べている藻の色が体表面の色になるからで、体表によって何処に生息しているか分かる。食用可であり、淡白な味わい。

━━━━━━━━━━━━━━━



 よし、とりあえず食える魚だ。


 俺はもう一度同じことを繰り返し、サチメチを二匹確保してナラトとセラフィーナの元に持ってきた。


「キュイキュイ!」

「アキヒロ、どうしたの?」


 俺の声に気付いたナラトが振り向いた。背に乗ったサチメチを差し出すと、少し驚いた表情をした後、嬉しそうに受け取った。


「そっか……。アキヒロ、ありがとうね」


 ぶくぶくと沸き立つ水筒の横で、ナラトは木の棒をサチメチの口に刺すと焼き始めた。 その様子を見ていたセラフィーナは俺を抱きあげると、不思議そうな顔で俺をまじまじと見つめた。


「凄い……。頭いい。もしかしてアキヒロは特殊個体?」


 え? そう? えへへ、まあそれぐらいなんてことないのさ!


 ……。


 あ、やべ。こればれたな。


 自ら墓穴を掘った俺がもじもじと誤魔化そうとしている傍らで、ナラトはセラフィーナに向き直った。


「アキヒロは特殊個体だよ。僕の見立てでは人間並の知能はあるんじゃないかな」


 明かした! まあ、誤魔化すのは無理があるだろう。セラフィーナは俺を誘拐なんてしないだろうし、それならここで明かして内緒にして貰えばいいだけだ。

 ナラトも同じことを考えていて、使い魔契約を通してこの趣旨を伝えてくれた。


「大いなる凶狼が現れた時もアキヒロが助けてくれたんだ。僕が指示を出していないのにも関わらず、糸を使って別の場所へ誘導してくれたし」

「それは、凄い。偉い、偉い」


 セラフィーナがなでなでしてくれる。猫を撫でる様に可愛がってくれるから、ちょっと俺の好感度がカンストになってる。

 

「アキヒロ」


 ん?


 突然に手を止めて、セラフィーナが俺を見つめた。


「守ってくれて、ありがと」


 ~~~~~!?


 産まれて初めて、異性からの抱擁の破壊力は凄まじかった。


 や、やばい……。これは惚れてしまう! 不意打ちにこんなことされたら、頭がどうにかなっちまいそうだ。

 

「セラフィーナ、このとこは」

「ん、分かってる。誰にも言わない」

「助かるよ」


 ――ハッ!


 よ、よし。正気に戻った。


 このままだと人げ……ナラトの使い魔としてダメになりそうなので、いそいそとセラフィーナの腕から抜け出す。


 ふぅ……。すぅ……。


 あああああぁぁぁ! イモムシに産まれてきてよかったあああああぁぁぁ!!!


 心臓が波打って膨張している。女性経験が無さすぎて今にも破裂しそうだ。


 くっ……やったよ俺! 異世界に行って初めて女の子とときめいてるよ!


 俺は俺を褒めてやりたい。今日の夜はお赤飯だな!


「? アキヒロどうしたの?」

「はは……セラフィーナに褒められて浮かれてるんだと思うよ」


 苦笑いをしながらナラトは答える。使い魔契約を徹して俺の内心事情は赤裸々だ。それでも上手くやり取るする辺り、ナラトの有能さが光ってる。


 なあなあナラト、セラフィーナと一緒に暮らせねえかな? いや同棲は無理でも、同じ街で暮らすことぐらいできるか?

 いやもう、ナラトお前結婚しろ! どこぞの馬の骨に渡すよりお前の方が安心できる! それなら合法的に俺は幸せになれるんだぁ!


 ――今の僕は嫁を迎える立場じゃなくて、嫁ぎに行く婿の立ち位置だよ。いや、実際は平民の扱いだね。剣聖の家系は名誉貴族のだから貴族として扱われるのは父さんだけだし。剣聖としての血統が目覚めれば違うかもしれないけど……。


 え、ということは?


 ――無理だね。


 ああああぁぁぁぁ!!! そんなぁ! あんまりだあああぁぁぁ!!!


 俺の中でナラト育成計画がまたひとつ始動した。冒険者ギルドの試験に受かることと、剣聖として覚醒させることだ。

 ちくしょう! 絶対にやってやるぞ! 絶対にだ!


 ジタバタと藻掻く俺を見てナラトは苦笑いを続けている。


 この瞬間だけは。いつもの日常が、ほんのちょっぴりだけど戻ってきた気がした。




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[良い点] 漫画でよくある英雄気質のある 主人公が頑張った結果、 都合の良い奇跡を起こす展開では 無いというところ ただ世界が残酷であるという事実だけが あるところが凄いですね [一言] 実際ナラト…
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