初心忘るべからず
よろしくお願いします。
それからは慌ただしい日が続いた。
アルバン様はこれまでの放蕩を反省するように、精を出して働くようになった。それを見張るのはなんとツェーザル様。フィンさんがこれからも孤児院で働くようになったため、孤児院への慰問を続けていたクララ様たっての願いで、脅し、もとい、見張っているのだ。
そして、そのクララ様だけど、無事に女の子を出産した。そのことでツェーザル様のお祖父様方にいろいろ言われていたけれど、アーレンス家が後ろ盾になることで黙らせた。そして、ツェーザル様はクララ様と共に実家を出て、アーレンスに身を寄せた。アーレンスお抱えの魔法騎士として働くことになったのだ。とはいえ、バルドウィン様との縁が切れたわけではなく、喧嘩しながらも交流を続けている。
そして、ユーディット様。彼女は無事にアーレンスに嫁ぎ、エルンスト様と仲良くやっているようだ。手紙を度々送ってくるけど、何だかんだ言ってエルンスト様が好きで仕方ないのが伝わってくる。
エルンスト様の方も相変わらずだ。素直じゃないのか素直なのかわからない方なので、予想の斜め上の行動をしてはユーディット様に叱られている。破れ鍋に綴じ蓋とはこのことだと思う。
そして、ユーディット様とクララ様が仲良くなったことで、お互いに子どもが生まれたら子どもたちを交流させて、子ども同士が望むなら結婚させようなんて気の早い話をしている。ツェーザル様は絶対に嫁には出さないと反対しているそうだ。子どもが生まれてより一層彼の愛は重くなったように思う。頑張れ、クララ様。
更に驚いたのが、フィッシャー男爵夫妻だ。ユーディット様が居なくなったことで二人の時間が増えたからか、きちんと向き合うようになったそうだ。現在、再構築というよりは、ようやく本当の夫婦関係になり、仲睦まじく暮らしている。
そして、実家の方も相変わらず貧乏だけど、家族仲良く暮らしている。そんな中でようやく兄も結婚した。あの掴みどころのない兄に嫁ぐだけあって、相手の方は豪胆な女性だ。そう言うと、兄に嫁はお前と似ていると言われた。解せない。
更に、クリスティンの婚約も決まった。持参金は私が用意できるので絶対にいいところに嫁がせると息巻いていたのだけど、クリスティンが選んだのは同じ男爵位の長男で、昔クリスティンをからかっていた男の子だった。
え、なんで?
クリスティンにそう聞くと、彼は昔のことを後悔していて、もう何年も謝り続けていたそうだ。それに、謝る言葉とともに好きだとも言い続けられたら絆されるでしょう?と苦笑していた。もうじき社交界デビューだけど、彼のエスコートでデビューするのだと嬉しそうに笑っていた。
まあ本人がいいなら、と渋々認めるしかなかった。
そして、私とバルドウィン様といえば──。
◇
「メラニー、走るな!」
バルドウィン様の声に、私は小走りでパーティー会場であるミュラー邸の庭園に向かいながら答える。
「大丈夫ですって。それより早く行かないと。皆さん、お待ちですよ」
「ああ、もう! 君は妊婦の自覚があるのか?」
「いや、ありますけど……。バルドウィン様がここまで過保護になるとは思いませんでした」
あの後、私たちは契約を解消した。私は契約更新でいいと言ったのだけど、バルドウィン様が、それだといつまで経っても本当の夫婦になれないと反対したのだ。そしてようやく晴れて結ばれた。
先日私の妊娠がわかったので、ユーディット様に手紙を出したらすごく喜んでくれて、何故かお祝いをすることになったのだ。私が。
あれ? おかしくない?
祝ってもらうの、私よね?
だけど、みんなで集まるのも久しぶりだし、今度は最初みたいなとんでもないパーティーにはならないはずだと、私とバルドウィン様が仕切ることになった。
主にバルドウィン様が張り切って動いてくれた。私も動けるのだけど、何かしようとするたびにバルドウィン様がハラハラした顔で私を止めるのだ。それだと私の落ち着きがないみたいじゃないの。納得がいかない。
とはいえ、私も初めてのことばかりでわからないので、バルドウィン様に甘えさせてもらっている。
だけど、縁というのは不思議なものだ。
仕事の面接のつもりで来たこの屋敷に、こうして女主人として居ることになるとは夢にも思わなかった。
それに、あの頃の思い出も大切な私の一部。今が幸せすぎて忘れそうになるけど、あの頃、大切なものを守るために頑張ったから今がある。
だからたまには初心を思い出してバルドウィン様に尋ねてみよう。
「これは業務に入りますか?」と──。
これで完結になります。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
誤字脱字報告や、感想など、すごく助かりました。ありがとうございます。




