フィンの処遇
次で完結になります。
よろしくお願いします。
呆然とその場にへたり込むアルバン様を一瞥すると、バルドウィン様はフィンさんに向き直る。
「……フィン。すまない。私は復讐を否定するつもりはない。大切な者を奪われそうになる痛みは知っているからな。だが、伯父上の場合は、反省していないのに簡単に死で贖えとは言いづらい。私は思うんだが、君たち親子が味わった苦しみを体験させることで少しでも伯父上が反省するなり苦痛を味わわなければ、伯父上には反対に死が救いになってしまうのではないだろうか。もちろん、フィンに手を汚させたくない気持ちもある。それを望まない者たちが多くいるからな」
バルドウィン様は私を見てから再びフィンさんに視線を戻す。
「……それで、フィン。君の処遇なんだが……」
「……ええ。私は誘拐未遂を起こし、魔法で人を傷つけようとしました。申し開きはいたしません。どんな罰でも甘んじて受けるつもりです」
フィンさんはバルドウィン様に頭を垂れた。真摯に自分の罪と向き合おうとするフィンさんがそこまで重い罪に問われることがないよう、私は両手を組んでバルドウィン様を見つめる。
「ああ。申し訳ないが、君のことは国に報告しなければならない。私も君も、国に叛意がないと示さなければならないからね。そうなると、君の強い魔力は国にとって脅威になる恐れがあるということで、魔法を封じられることになるだろう」
私は思わず目を伏せた。
これまでに貴族が王家に歯向かったことがあったために、王家はその力を恐れ、魔法封じの技術を開発した。そして、それを魔力を持った罪人に彫り物として見える形で施してきた。つまりは罪人である証ということだ。
これでフィンさんは貴族ではなくなり、平民に戻るどころか、罪人扱いになってしまう。
バルドウィン様の顔も辛そうに歪む。だけど、フィンさんは微笑んだ。
「ええ。全て覚悟の上ですから。それにこんな力、私には必要ありません。あの男と同じ血が流れていると思うだけで気分が悪い」
「フィン……。だが、身柄は私が預かるように国に頼むつもりだ。私から君に頼みたいことがあるからね」
頼みたいこと? フィンさんもわからないようで、首を傾げている。
「バルドウィン様が私に頼みたいこととは……?」
「ああ。君に孤児院の運営を任せたい。今の院長は高齢だから、いずれ君が引き継ぐつもりで、院長の元で勉強をしてくれないか?」
バルドウィン様の言葉を反芻して、私の落ちた気分は一気に上がった。
「バルドウィン様! それじゃあ……!」
「メラニー、喜ぶのはまだ早いよ。貴族から平民になった上、罪人の証を付けたまま市井で暮らすのは、フィンにとっては辛いことだと思う。どうだろうか……?」
フィンさんは難しい顔で考え込んでしまった。やっぱり罰が重過ぎるのだろうか、とハラハラしながらフィンさんの返答を待つ。しばらくしてフィンさんは重い口を開いた。
「……そんな私に都合のいいこと、受けてもいいのでしょうか? 私はもっと重い罰を受けるべきでは……」
バルドウィン様は辛そうに顔をしかめて首を振る。
「私からすると、充分重いんだが。君は伯父上の被害者だ。そんな君に重荷を背負わせることを心から申し訳ないと思う」
「いえ、そんなこと……。そこまで思われてしまうと、受けるしかないではないですか……」
フィンさんは泣き笑いの表情を浮かべる。これがフィンさんの救いになるのかはわからないけど、フィンさんを大切に思う人たちに囲まれて過ごす中で、少しずつでもフィンさんの心の傷が癒されるといいと思う。
こうして、アルバン様やフィンさんとの決着はついた。
◇
「じゃあ、すまないが行ってくるよ」
馬車の窓からバルドウィン様が、私とクリスティンを交互に見て告げる。同乗しているのは項垂れたアルバン様と、清々しい表情のフィンさんだ。アルバン様は最後の足掻きに抵抗しようとしたけれど、バルドウィン様がアルバン様に魔法を見せつけて黙らせた。どこまでも往生際が悪い。
「行ってらっしゃいませ」
私よりも先にクリスティンがそう言ったことで、バルドウィン様はおや、という表情になる。あれだけバルドウィン様を認めようとしなかったクリスティンが声をかけたことを疑問に思っているようだ。私はクリスティンを突いて促す。クリスティンは戸惑いながらもバルドウィン様に頭を下げた。
「……失礼な態度ばかり取って、申し訳ありませんでした。お姉様が私たち家族のために犠牲になっていると思ったら、どうしてもあなたを許せなくて……。でも、あなたがお姉様をどう思っているかがわかったし、お姉様も幸せそうなので……。お姉様をお願いします」
クリスティンの言葉にバルドウィン様は破顔する。
「ありがとう、クリスティン。君も私の家族だ。またいつでもおいで」
クリスティンも嬉しそうに笑う。
「はい。ありがとうございます」
美少女の笑顔はすごい破壊力だ。バルドウィン様についつい念を押す。
「……クリスティンはあげませんからね」
「だから、私は君がいいんだと言っているだろう」
「もう。イチャつくのは二人きりでやってください」
クリスティンは呆れたように言うと、ニヤリと笑う。
「この調子なら、私がおばさんになるのも近いかもしれませんね」
理解するのが遅れた。気づいた私とバルドウィン様は顔を見合わせる。
──そうだ。問題が解決したらって言ってたから……。
バルドウィン様が照れ臭そうに頭をかきながら頷いた。
「……こればかりはわからないが、そうだといいと私も思うよ」
ぶわあっと私の顔に熱が集まる。そうしてバルドウィン様は恥ずかしい台詞だけ残して行ってしまった。残された私はしばらくクリスティンにからかわれるのだった。
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