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魔法が使えなくなった理由

ブックマーク、感想ありがとうございます。

 その後、バルドウィン様が話した概要はこんな感じだ。


 バルドウィン様の得意な属性は火。護衛を一人だけ連れて領地の見回りをしていたところ、襲われている男性を見かけたそうだ。護衛がその男性を助けようとしたけれど、相手は武器を持っていて、距離的に間に合わない。そこでバルドウィン様が武器だけを落とすように小さな火を出した。そのはずだったのに、思った以上に大きな火になり、制御ができなかった。その結果、暴漢だけでなく、助けようとした男性も巻き込む大惨事になったらしい。暴漢は捕まり、助けられた男性は酷い火傷ではなかったものの、バルドウィン様は責任を感じ、彼をミュラー家で治療し、面倒を見ているそうだ。


 そこまで一気に話したバルドウィン様はため息をついた。


「私にも何が何だかわからないんだ。小さかった火が急に膨れ上がったから慌てて消そうとしたんだが、間に合わなかったのか、勢いをつけて真っ直ぐ相手のところに行った、んだと思う」

「だと思う?」

「ああ。自分では間に合ったと思ったんだが……。時間が経てば経つほど、本当にそうなのか自信がなくなってきて……」

「だから魔法を使うのが怖くなった、ってことですね」


 ふんふん、なるほど。

 人助けのつもりが、結局助けようとした人までも巻き込んでしまった責任を感じてる、ってことか。


 バルドウィン様は神妙な顔で私を見ている。


「……話を聞いた感じでは確かに魔法の暴発っぽいんですけど。でも、別の可能性もある気がしなくもないというか」

「それはどういう……?」

「誰かが干渉した、ってことはありませんか?」


 魔法というのは、大気中に漂う魔素を体内に取り込み、魔力に変換して発動させる。魔素というのは目に見えないし、匂いもないから、発動させたとしても誰が魔素を取り込んで魔法を発動させたかはわかりづらい。それに、元々あるものに影響を与えるか、ないものを生み出すか、それによって魔力量が変わる。


 魔力量というのは体が魔素を取り込み、変換して耐えられる量だ。上位貴族になるにつれてその量が増え、大きな力を行使できるというわけだ。


 例えば、私が以前カップの紅茶をこぼす前に戻した時は、元々あったものを移動させるだけだからそれほど魔素を必要としない。だから魔力量がそこそこの私でも簡単に使える。


 一方、バルドウィン様が小さな火を出したという時は、物体を動かすのではなく無から有を生み出すことで、まあまあ魔素を消費する。私の魔力量なら一日三回くらいが限度だ。


 そして、バルドウィン様が生み出した火を大きくするなら、あるものに影響を与えるだけなので、それほど魔素を消費しない。つまり私程度なら簡単にできる。


 バルドウィン様は渋面で首を振る。


「それはないだろう。魔法はまだ発動している途中だった。もし干渉したとすれば、私ではなく別の誰かが炎を作り出したということになる。つまり、私と同等くらいの魔力量を持つ者じゃないとできない」

「そうですか……」


 今現在お家騒動が起きているということは、以前からバルドウィン様を引きずり落としたいと思っていた人はいたはず。だからバルドウィン様が当主に相応しくないと思わせるために、身内の誰かがやったのかと思ったのだけど。どうやら私の考え過ぎだったようだ。


 バルドウィン様がふっと笑う。


「ありがとう。私の責任を軽くすることを考えてくれたんだろう?」

「いえ、違います。お金をいただく以上は最善の働きをしないと。誰かがやったとわかればバルドウィン様の心の枷が取れてまた魔法を使えるかもしれませんし、身内に犯人がいればその力で人を害した事実があるので、国に処罰を求めることもできます。それならバルドウィン様に瑕疵(かし)がないということで、当主に相応しいと周囲を納得させることができるかもしれません。一度で二度美味しいなと思いまして」


 これで一挙に解決できると思ったのだけど、世の中はそんなに甘くないってことだ。バルドウィン様はがっかりする私を不思議そうに見ている。


「だが、そんなに簡単に解決したら報酬が減るがいいのか? 成功報酬でなく期間報酬なのに」

「そうなんですよね。だからできるだけ延ばした方が……って」


 やばい。つい本音が漏れた。だけど、バルドウィン様は笑う。


「正直だな。それなら成功報酬の方がいいのか?」


 その言葉に、どっちが得かと思わず頭の中で計算してしまった。いや、これからバルドウィン様の身内と会って戦うとすれば長くなりそうだし……。


「やっぱり期間報酬でお願いします!」


 ハキハキと答えた私にバルドウィン様は苦笑だろうけど笑みを深めた。

読んでいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なるほど、これはヒドイン(確信) [一言] でも本気になったらどうなるやら……
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