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バルドウィンの力

よろしくお願いします。

 フィンさんから放たれる炎が大きくなり、私は恐怖で目を閉じてしまいたくなる。それをじっと堪える。


 ──バルドウィン様なら大丈夫。


 守りたい誰かは弱点ではない。守りたいという思いが自分を信じる力にもなるのだ。それがないアルバン様だから、負けそうになって心が簡単に折れるけど、バルドウィン様は違う。


 バルドウィン様は深く息を吸い込んで、手をかざした。だけど特に何も起きない。それを見たアルバン様が叫ぶ。


「こんな事態になってもお前は無能のままか! くそっ……」


 本当にこの方は……。だったら自分で何とかすればいいじゃないの。そんな態度だから助けようという気が失せる。それはフィンさんも同様だった。


「本当にあなたは最低だな。痛い目に遭わないとわからないんだろう?」

「ひっ!」


 そしてフィンさんの炎がブワッと大きくなったかと思えば──たちまちのうちに消えてしまった。


 驚きを隠せないアルバン様、フィンさんと私。すると、バルドウィン様が膝をついた。私は慌てて水の壁を消してバルドウィン様に駆け寄った。


 バルドウィン様は額に汗を浮かべ、肩を上下に動かして息を整えている。私はその背を撫でながらバルドウィン様に話しかける。


「バルドウィン様……フィンさんの魔法を打ち消したんですね。やりましたね!」


 何度か深呼吸をして、バルドウィン様が立ち上がる。


「……っ、ああ。久しぶりでどうなることかと思ったが、何とかなったようだ」


 魔法を打ち消されたフィンさんは悔しそうにバルドウィン様を睨み付ける。


「……何で邪魔をするんですか。それにどうせ邪魔をするのなら、どうして私に魔法をぶつけないんです? そうしてくれれば私はこの男と共に死ねたかもしれないのに……っ!」

「フィン……。守りたい者がいる君ならわかるはずだ。魔法は誰かを傷つけるための力でもあるが、同時に誰かを守るための力でもある。私は君を、引いては君を大切に思う者たちの心も守りたいと思った。こう見えても私は欲張りなんでね」

「そんなこと、どうでも……」


 フィンさんは言葉を途切れさせて俯く。その足元の土はポツポツと濃い色に変わる。


 子どもたちの心をどうでもいいなんて、冗談でも言えなかったのだろう。だけど、お母様の無念を晴らしてあげたいという思いとの板挟みで苦しんで。優しい人こそこんな風に苦しむことがやりきれない。


 どうにかならないのだろうか、とバルドウィン様におずおずと話しかける。


「バルドウィン様……フィンさんがしようとしたことは悪いことかもしれませんが、情状酌量の余地はないんでしょうか」


 バルドウィン様は真剣な表情で答える。


「いや。伯父上が人質を取っていたという証拠があれば認められると思う」


 それを聞いたアルバン様が鼻で笑う。


「そんなものあるわけないだろう。そんな事実はないのだから」


 先程まで青くなっていたとは思えない。あまりにもふてぶてしい態度に腹がたつ。


「殴ってもいいですか?」


 バルドウィン様に聞くと、苦笑しながら首を左右に振られた。やっぱり駄目か。

 すると、バルドウィン様がニヤリと嫌な笑みを浮かべる。


「そんなことをしなくても伯父上は罰を受けることになるよ」


 これにはアルバン様が声を上げた。


「なんだと⁈ 私が一体何をしたと……」

「屋敷で暴れた弁償代」

「それはこの娘がやったことだろう⁈」


 アルバン様は私を指差す。それは私も否定できない。窓硝子を割ったのと、廊下を水浸しにしたのは私……。

 頷いた私に、バルドウィン様は肩を竦めた。


「じゃあ何故メラニーは屋敷の中でそんなことをする羽目になったんだ? ()()()()()()()()()メラニーが」


 アルバン様の顔色が再び青くなる。


「確かにそうですね。何故そんなことをしたのかと聞かれたら、私は素直にアルバン様に妹を人質に取られそうになって抵抗したと言いますね」

「ああ。そうなると狼藉者と伯爵夫人の言葉どちらを上は信じるのだろうな? まあ、伯父上が証拠を出せと言うなら、証人は大勢いるから問題ないような気もするが」


 確かにそうだ。使用人たちもアルバン様とフィンさんが来ることを知っていたし、もてなしもした。愕然とするアルバン様に、バルドウィン様は更に追い討ちをかける。


「だが、その費用の捻出も難しくなるだろうな。伯父上は女性に貢がせていたようだが、弄ぶようなことをしていたせいで、怒った女性たちが伯父上に慰謝料を請求するようだよ。もしかしたら結婚詐欺で訴えられるのかもしれないね。伯父上、頑張って働いて稼いでくださいね。それができなければ伯父上の罪を私は国に報告して、強制労働の道しかありませんね」


 バルドウィン様、さりげなくえげつない。二択しかないじゃないの。馬車馬のように働くか、国のための強制労働か。つまりはこれでフィンさんや、フィンさんのお母様の苦労を思い知れということだろう。


 バルドウィン様は、さも忘れていたかのように装ってとどめを刺した。


「ああ、そうだ。もうあなたに協力しないようにあなたのお友達にはお願いしておきます。あと、あなたに脅されるようなことがあれば私が力になりますとも言っておきますね」

読んでいただき、ありがとうございました。

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