表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/91

信じる勇気

よろしくお願いします。

「何故庇うんです? この男にそんな価値はないとわかっているでしょう? あなただって妹を人質に取られかけたというのに」


 フィンさんは理解できないと顔を顰めて首を振る。フィンさんの言葉はもっともだ。私だってこんな人、庇いたくもない。


「私は正直、アルバン様が嫌いです。その性根を叩き直してこいとも思いますし、この人に貢ぐ女性たちの気持ちはさっぱりわかりません。こんな人に貢ぐくらいなら家族のために使いたい。はっきり言ってお金の無駄です! お金は本っっっ当に大事です!」

「……おい、小娘。私を馬鹿にしているのか?」


 アルバン様が剣呑な口調で背後から私に話しかけてくる。もう、鬱陶しいわね。今はあなたの相手をしている暇はないの。時間の無駄。時間はお金と同じくらい大事!


「馬鹿にしているのではなく、馬鹿だと思っています! アルバン様はうるさいので黙っていてください! フィンさん。私が守りたいのはフィンさん、引いては孤児院の子どもたちです! あなたを失ったら子どもたちはどうするんです……?」


 フィンさんはぐっと言葉に詰まった。だけどそれも一瞬。私を睨みつける。


「……そんな言葉には惑わされません。私は私の意思を貫く。そうでなければ母が浮かばれない。わかったなら早く退いてください。退かないならあなたも一緒に傷つくことになる」

「そんな脅しの言葉には乗りません! もうあなたの目論見はバレているんです。決闘にかこつけて、事故に見せかけてアルバン様を葬るなんてもうできません。諦めてください……!」


 フィンさんは薄く笑う。だが、目が笑っていない。鬼気迫るものを感じて、私は少しだけ後ずさりをした。


「ええ。もう全てバレてしまったのなら、余計に私に怖いものなどない。何故ですか、バルドウィン様……。どうしてあなたは人の心を暴くような真似をしたんです!」


 フィンさんは悲痛な声で叫ぶ。私はこの言葉に腹が立った。


「何を言っているの? あなたが潜在的に持ってた思いがたまたま今、この時に明かされただけでしょう? 遅かれ早かれ、あなたはアルバン様への復讐をするつもりだった。それを止めたバルドウィン様のせいにしないで!」

「うるさい! あなたに家族を失う気持ちが、大切な人を失う気持ちがわかるのか?」

「わからないわよ! 失ったことがないもの! だけど……考えるだけで辛いことは知ってる。クリスティンに危害を加えようとしたあなた方のおかげでね!」


 そのことは絶対に許せない。睨みつけると、フィンさんは忌々しそうに私を思い切り突き飛ばす。不意打ちで私はたたらを踏み、その先にあった石につまずいて転んだ。格好悪い……なんて言ってる場合じゃなかった。アルバン様とフィンさんが向かい合う。


「……あなたはきっと死ぬまで変わらない。改心すれば許すなんて甘いことはもう思わない。生きているだけで罪なんですよ、あなたは」

「よく言う。私がいたから今のお前がいるんだろう。少しは感謝をすればどうだ。お前たち親子を私は救ってやったんだ」


 アルバン様は鼻で笑ってフィンさんの怒りをいなそうとした、のだろうか、これは。反対に火に油を注いでいるけど……。


 すると、フィンさんの全身から炎が噴き出した。怒りで制御できないのかもしれない。熱い。間近にいる私まで灼かれそうだ。だけどこのままでは、フィンさんの魔力、体力ともに持たないだろう。大きな魔力を消費するとその分消耗も激しい。


 観察している場合じゃない。熱い空気が、息をするたびに臓腑を焼いていくようだ。呼吸ができない。まず先に自分の身を守らなければと、私は庭に撒く予定だった水を集めて自分を守る水の壁を作った。


 その壁に炎が当たるたびに、ジュウッと嫌な音がして、水が水蒸気に変わる。それをまた集めて水に、とやっていても間に合わない。


 何より、このままでは私やアルバン様、バルドウィン様どころか、離れた位置にいるクリスティンまでが巻き込まれかねない。


 どうにかしないとと思っても、フィンさんと同等の魔力を持つのはアルバン様と──バルドウィン様しかいない。


 噴き出した炎を練り上げるように手のひらに集めたフィンさんは、確実に当てようとアルバン様に近づいていく。するとアルバン様の余裕が消える。青い顔で後ずさりする。


「な、どうしてだ。私よりも力が上だなんて……」


 アルバン様は圧倒的な力の差に戦意を喪失しているようだ。フィンさんはアルバン様の寝首を掻くために、敢えて本人に低く見せていたのだろう。


 ──頼むから足掻きなさいよ! いつもの自信過剰なところを見せなさいよ!


 アルバン様が何もしないとなると、残るのはバルドウィン様だけだ。

 大丈夫だろうか、と私の脳裏を不安がよぎる。だけど、クリスティンが言うように、信じることも大切。愛する人を信じなくてどうするの!


 私は水の壁の中からバルドウィン様に向かって叫ぶ。


「……っ、バルドウィン様、お願いです! フィンさんを止めてください! あなたなら絶対にできるって信じています──!」

読んでいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ