表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/91

バルドウィンの予想外の言葉

よろしくお願いします。

 これはまずい。廊下は広いとはいえ、調度品や花が生けられていたのだけど、かなりの数が無残に壊れたり倒れたりしている。しかも、私は外から水流を呼んだために、窓硝子は粉々。弁償するといくらになるのか……。


 私は勢いよく頭を下げた。


「申し訳ありません!」


 そんな私に倣って、クリスティンも頭を下げる。


「申し訳ありませんでした」


 だけど、アルバン様とフィンさんはどこ吹く風だ。その上、アルバン様は小さく舌打ちをした。それを見たバルドウィン様の顔は更に険しくなった。


「伯父上。私は一番あなたに謝罪を求めたいのだが。何の権利があって、妻や義妹を攻撃する? 私が気に食わないなら、直接私にすればいいだろう!」

「お前の聞き分けが悪いのが問題だろう。初めから退いていればいいものを」

「そうしてあなたは領地を、領民を蹂躙するのですか? 私は父から預かったものを次代に渡すという役割がある。あなたにそれができるとは思わないから、この座に居続けただけだ。これでますます確信した。やはりあなたやフィンでは駄目だ。力で奪うだけのあなた方には、託すわけにはいかない」

「お前は馬鹿なのか? 力がないと守れるものも守れない。今のお前がそうだろう。妻を義妹を攻撃するなと言うが、じゃあお前が力で守ればいい。それもできないくせに偉そうな口を叩くな」


 バルドウィン様は怒るかと思いきや、静かに瞑目した。


「……そうですね。私は人を傷つけるのが嫌だったし怖かった。だが、自分の大切な人たちが傷つけられて我慢ができるほど人間が出来ていない。伯父上。あなたに私を攻撃する正当な権利をあげましょう」


 正当な権利って、まさか……。

 バルドウィン様は目を開けてアルバン様を見据えた。


「あなたに決闘を申し込む」


 やっぱり! だけど、今の魔法が使えないバルドウィン様に勝ち目はない。怪我をするどころか、命さえ危険だというのに、一体何を考えているのか。私は慌てて話に割り込んだ。


「バルドウィン様! 駄目です! 今のあなたは……!」

「わかっているよ、メラニー。自分でも無茶だと思う。だが、力至上主義の伯父上にはこうでもしないとわからないだろう。それに、私も守られっぱなしは嫌なんだ。クリスティンのように、私だって君たちを守りたい。ちょっとくらいは君たちにいいところを見せて見直して欲しいという下心もあるが」


 バルドウィン様は苦笑した。クリスティンに嫌われたことがそんなにショックだったとは……。それとも、魔法を使えなくなったのは精神的なものだから、荒療治で治そうと思っているのだろうか。いずれにせよ私は頷けない。


「私は認めません!」


 だけどアルバン様はニヤリと笑う。


「君が認めなくても、私が受けると言えばそれで済む話だ。ああ、だが、お前の相手は私ではなくて、フィンだがな。地位や名誉をかけた闘いというなら、継承権の高いフィンの方が相応しい。どうだ、フィン。力尽くでバルドウィンから奪ってみろ」


 とことん腐っている。決闘を申し込まれたのは自分のくせに、他人にやらせようなんて。フィンさんもバルドウィン様も頷くわけがない……。


「わかりました」


 え、頷くの?


「ああ、私もそれでいい」


 いいの⁈


 交互に二人を見比べていたら、バルドウィン様はただし、と続けた。


「私が勝てば、伯父上も、一切私たちやメラニーの実家の方々に危害を加えることは許さない。口頭だと不安だから書面にも(したた)めて破れないようにする。そのつもりで」

「ああ、それでいい。()()()()の話だがな」


 そして、いきなり決まった決闘のために、庭に場所を移すことになった。


 ◇


「……バルドウィン様は一体何を考えているのかしら。いきなり使えるようになるとも思えないし、使えたとしてもしばらく封印されていたものが自在に制御できるわけないじゃない。ああ、もう!」


 庭に移動したものの、私はまだ反対だった。バルドウィン様が傷つく姿なんて見たくない。だったら見なければいいのだろうけど、見ない間にひどいことになったらという不安との板挟み。


 隣で一緒に決闘に立ち会うクリスティンが、私の背中を叩く。


「お姉様。不安はわかりますが、お姉様が信じてあげなくてどうするんですか。あの方は誰のために戦うと決めたのかわかっています?」

「わかってるけど……なあに、クリスティン。あなた、バルドウィン様を嫌っていたのに庇うなんてどういう風の吹き回し?」


 クリスティンはバツが悪そうに視線を彷徨わせた。


「……だって、あの方の気持ちが痛いほどわかったんですもの。足手まといになりたくない、自分だって大切な人たちのためになら何でもできるんだっていう気持ちが。私はてっきりお姉様がお金のために従わされていると思っていたのに、あんな言葉を聞いてしまったら、認めないわけにはいかないじゃないですか……かといって、お姉様をあの方に奪われたくもないし」


 クリスティンは項垂れる。本当にこの子は……。私はクリスティンの頭に手を置いた。


「馬鹿ね。私は結婚してもあなたの姉であることには変わりないの。そうねえ……。あなたの姉がいなくなるのではなくて、あなたに義理の兄が増えたって考えてみて。縁が減るのではなく、増えたの。そう考えると素敵じゃない?」


 クリスティンは目を瞬かせた。そしてみるみるうちに笑顔になった。勢いよく何度も頷く。


「はい! 私の家族が増えたんですね……!」

「ええ、そうよ。だから、後でバルドウィン様に嫌ってないって言ってあげて。かなりショックを受けていたみたいだから」

「……はい」

「だけど、まずはフィンさんとバルドウィン様を見届けましょう」


 私たちは対峙するバルドウィン様とフィンさんに目を向けた。そのそばにはアルバン様がいて、ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべて場を仕切っている。


 どうか無事で──。


 決闘だから一対一の勝負だとわかっている。手が出せないのが歯痒い。祈るような気持ちで見守ることしかできなかった。

読んでいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ