守りたいものとやりたいこと
よろしくお願いします。
アルバン様はフンと鼻を鳴らす。
「操るのではなく、指導だろう。わからないことは教えればいい。お前だって一人では何もできないから他人に頼っているんだろう。例えばそこにいる伯爵夫人とか」
傍観していたら突然話を振られて、バルドウィン様とアルバン様を交互に見る。アルバン様はソファの背もたれにもたれると、足を組んだ。
「話はいろいろ聞いているよ。なかなかのご活躍じゃないか。お前たちを引き離しておけば、事はもっと簡単だったんだが」
──引き離す?
私は上向き加減で首を傾げた。
アルバン様がやったことといえば……私に変な贈り物をしてきたことくらいだけど、それが関係あるのだろうか。
「あの、ずっと不思議だったんですが、アルバン様は私にいろいろ贈り物をしてくださいましたよね? あれは何か意味があったんですか?」
アルバン様は顔を顰めた。
「……それすらもわからなかったとは。所詮男爵家上がりだから、物や甘い言葉に簡単に釣られるような女だと見誤った私が馬鹿だった。さすがは男爵家上がりと言うべきか」
むっ。男爵家上がりと二回も言った。自分の価値観でしか物を測れないから失敗しただけでしょうに。私のせいにしないで欲しい。言い返そうとしたけれど、私が口を開く前にバルドウィン様がアルバン様に言い返す。
「お言葉ですが、メラニーは伯父上を含め、周りにいる女性たちとも違います。物や金銭に対する欲はあっても、それをくれるからとホイホイついていくような女性ではありません」
……いえ、釣られましたよね? あなたに。
つい目が泳いでしまった。いやいや、今は愛があるから大丈夫!
ふふふと誤魔化すようにバルドウィン様に笑いかけると、バルドウィン様も笑い返してくれた。その無邪気な笑顔が眩しい。邪で申し訳ない。
「……邪魔だな」
ポツリとアルバン様が呟いた。誰が、とは聞かなくてもわかる。もちろん私だ。
私だって言われっぱなしなわけじゃない。わざと嫌味に言ってやる。
「あら。それは私のことでしょうか? それともツェーザル様夫妻か、ユーディット様ご一家か、アーレンス伯爵家の方々でしょうか? いろいろ話を聞いていらっしゃるなら、もちろんご存知ですよね? 彼らがバルドウィン様を支持すると言ってくださっていること。私一人を消したところで、バルドウィン様には痛くも痒くもないのですが」
「いや、メラニー。君が居なくなるのは辛い。冗談でもそれは言わないでくれ」
バルドウィン様は真剣な表情で私の手を握る。いやいや、これは言葉の綾というやつで。とはいえ、呆れたようなアルバン様と、フィンさんの冷めた視線が痛い。
「はい、もう言いません……ということでおわかりいただけましたか?」
バルドウィン様に頷くと、アルバン様とフィンさんに向かって尋ねた。フィンさんはまだ無表情のままで微動だにしない。対するアルバン様は「ああ、よくわかったよ」と意味深に口角を上げた。その表情がなんだか不気味で、思わず視線を逸らしてしまい、負けた気分になった。悔しい。
「それで、フィン。君は伯爵家当主になってどうしたいんだ?」
バルドウィン様はフィンさんに話を振る。こちらが本命だったのだから当然といえば当然なのだけど、フィンさんが答えてくれるかどうかは甚だ疑問だった。
フィンさんはやっぱり無表情のまま口を開いた。
「私は……守りたいものと、やりたいことがあります。そのために伯爵家当主の座が必要だった。それだけです」
「そうか……。ちなみに守りたいものとやりたいことというのはどういったことだ?」
「それはあなたには関係ありません」
間髪入れずフィンさんは答えた。どうあっても心を開いてはくれそうにない。困った……。
答えてくれないのなら、当ててみようか。ふとそんな気になった。当てたところで答えてはくれない気もするけど、何もしないよりはマシだろう。
守りたいもの、ねえ。これまでのフィンさんの行動に照らし合わせてみれば自ずと見えてくる。フィンさんはどこにいて、何をしていたか。
「……守りたいのは、孤児院と、子どもたち、ですよね。フィンさんにとっての家族ですから。違いますか?」
「……」
「それと、やりたいことですね。ううん……孤児院の建て替え、とか? あ、でもこれは守りたいものと同じですよね。じゃあ違うのかも……」
相変わらず返事はないけど、守りたいものの話をしていたらフィンさんの表情が少し変わった。ということは正解に近づいてはいるということかもしれない。だけど、やりたいことに関してはまったく表情が変わらなかった。それは違う、と。じゃあ、当主にならないとできないことって何だろう。
その後は話が膠着状態に陥って、一旦休憩を挟んで仕切り直すことになった。
読んでいただき、ありがとうございました。




