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小姑のクリスティン

よろしくお願いします。

「いらっしゃい、でいいのかな?」

「お邪魔しております。あと、姉がお世話になっております」


 玄関ホールでバルドウィン様を迎えると、案の定バルドウィン様は困惑していた。前もって来ると知らなかったのだからその反応は正しい。それに対するクリスティンの十二歳らしからぬ落ち着きよう。どちらが姉なのか、わかりはしない。


「あ、ああ。で、メラニー、これはどういうことなんだ?」

「話せば長ーくなりますので、とりあえず夕食にしませんか? 今日は忙しくてバタバタしたせいでお腹がペコペコなんです」


 くうと切なく鳴くお腹を私は押さえる。真面目な話をしている最中に大きな音がしたら、緊張感も台無しだ。いや、別に緊張感はいらないんだけど。


 クリスティンが爛々と目を輝かせてバルドウィン様の一挙手一投足に注目しているから、変な緊張をしてしまうのが悪い。


 そして、何故か泊まることになったクリスティンと三人で食卓を囲むことになった。


 ◇


「改めてようこそ。私はバルドウィン・ミュラー。メラニーにはお世話になっているよ」

「こちらこそ突然の訪問失礼いたしました。私はクリスティン・ヘルツォークと申します。姉が()()お世話になっているようで」


 にこやかなバルドウィン様に、向かいに座ったクリスティンは挑戦的な笑みで答えた。挨拶合戦が始まったので、私は一人、バルドウィン様の隣で静かに食事に手を付ける。

 今日の献立は鶏肉のソテーとパンにスープ。素朴ながらもほっこりとした味がする。はあ、お腹に染み渡る……。


 すると、バルドウィン様が私に話を振った。


「メラニー、君が自慢の妹だと言うだけはあるな。クリスティンは美人になりそうだ」

「でしょう? だからといって、あげませんからね」

「だからいいと言っているだろう」


 食事の合間に二人でそんな軽口を叩いていると、向かいから地を這うような声が聞こえた。


「……減点1」

「は?」


 バルドウィン様は何を言われたのかわからないようで、目を瞬かせている。その間抜けな顔も可愛い。なんて、そんなことを言っている場合じゃない。


「クリスティン! 失礼よ!」

「ええ? どっちが失礼なんですか。お姉様という素敵な妻がいながら、目の前で別の女性に粉をかけるような男ですよ? お姉様を馬鹿にしています!」


 いやいや。今のは社交辞令でしょうよ。私の妹だからクリスティンを褒めてくれたとは思わないのだろうか……って、クリスティンはわかっていてやっていると思う。気に入らないところをあげつらって、私を連れて帰るつもりね。そうはいかないんだから。


 だけど、ただ一人バルドウィン様だけはわかっていなかった。少し考えるように上を向いて、得心したように頷いた。


「ああ、そうだな。一番素敵なのはもちろんメラニーだ。他の女性を褒めることはあっても、私が愛しているのは君だけだ」


 ぐはぁ。まさかの流れ弾。お願い……。身内の前ではやめて……。いたたまれなさに顔が熱くなる。顔を押さえて身悶えすると、クリスティンは更に告げる。


「減点3!」

「どうして? 今のは別にバルドウィン様は悪いことをしてないでしょう」


 私はすごく恥ずかしかったけど。あ、もしかして私を恥ずかしがらせたから、とか?


 クリスティンはバルドウィン様を睨みつける。


「嘘は一番許せません! 私はお姉様方が契約結婚したことを知ってるんです! そんな嘘には騙されません!」


 ……そうだった。そこの説明をしないといけないんだった。だけど、ここまで頑ななこの子に違うと言って、信じてもらえるんだろうか。


「あのね、クリスティン。経緯はそうなんだけど、今は私がバルドウィン様と一緒にいたいと思うからここにいるの。いやいやじゃないの」

「だったらどうしてお姉様が仕送りをしているんです? この方がお姉様を妻として扱っていない証拠でしょう!」


 それを言われると辛い。姻戚関係を結んだのだから、婚家のヘルツォークへバルドウィン様が援助するのが普通だ。だけど私はそれを望まなかった。バルドウィン様のことだから、私に内緒で上乗せした金額をヘルツォークに渡さないとも限らない。そこで、私はバルドウィン様から直接受け取って、金額を確認した上でヘルツォークへ送っていた。まあ、働いた実感を味わうためという理由もあったのだけど。これが私の労働の対価、と眺めてニヤニヤしていたものね……。


 これは腹を据えてクリスティンと話す必要があるようね。


「わかったわ、クリスティン。今日はとことんあなたに付き合いましょう。知りたいこと、おかしいと思うこと全部私に話してみて? その代わり、バルドウィン様への失礼な態度は禁止するわ」


 私がニッコリ笑うと、クリスティンも負けじと笑い返す。


「ええ。お姉様。ただし、私が納得したら、ですけど」


 これは手強い。

 その後、食事を終えた私とクリスティンは同じ部屋で寝ることになり、クリスティンに嫌われて少し元気のないバルドウィン様と別れた。

読んでいただき、ありがとうございました。

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