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頑固な妹とマイペースな兄

よろしくお願いします。

「はい、どうぞ」


 紅茶とケーキを振る舞うと、クリスティンはわかりやすく目を輝かせた。まだ十二歳なのだ。このくらい素直な方が可愛い。


 あの後、往来で話す内容ではないので、二人を屋敷に招いた。最初は怪しい二人に警戒していた屋敷のみんなも、二人が私の家族だとわかり安心していた。ただ、兄もクリスティンも母似の美形なので、なかなか信じてもらえなかったことは腹立たしい。


「それでね、クリスティン。私は別に嫌々ここにいるわけじゃないのよ? だから一緒には帰れない」

「嘘。お姉様のことだもの、私たちのためにお金を稼がないとって思ったんでしょう?」


 うっ。クリスティン、鋭い。だけど、お金を稼ぐためであっても、自分で納得してここに来たから心配しなくてもいいのに。


 クリスティンは、この美貌のせいで嫌な思いをしてきたから、他人に対する風当たりが強い。そのせいでバルドウィン様にいい感情を持てないのかもしれない。反対に身内にはとても情が厚い。これでは私が何度大丈夫と言ったところで聞きはしないだろう。本当にビアンカ様もお母様も厄介なことをしてくれたものだ。


 あれ? ということはお母様は知っていたということ?


 遅ればせながらその可能性に気づいた。私は恐る恐るマイペースにケーキをつつくお兄様に尋ねる。


「お兄様、お母様は初めから知っていたということ?」


 お兄様は呆れたように眉を上げた。


「知らない方がどうかしてる。ビアンカ様が母上を通さずに勝手なことをするわけがないだろう。父上はともかく、俺もわかっていたぞ。お前が素直に結婚するとは思わなかったからな。ちなみに教えておいてやるが、二人はお前が結婚した後も、出戻らないように画策していたぞ」

「うわあ……」


 全ては二人の思い通りってことか。となると今のこの状況も計算されたもの?


「じゃあ、クリスティンが私を迎えに来たのもお母様たちの計算ってこと?」

「どうだろうな……。もしかしたらそうかもしれないが、俺にはわからん」

「うーん……」


 困った。明日は大切な話し合いだというのに、ここで実家に帰るわけにはいかない。


「だけど、二人ともごめんなさい。ゆっくりしていって、と言いたいところなんだけど、明日は大切なお客様たちが来られるのよ。そのせいで今日は私も忙しくてね。大したもてなしができないの。だから……」

「はい。お姉様も一緒に帰りましょう」


 ニッコリと笑うクリスティン。いや、だから、そうじゃなくてね。


「私がお客様をもてなさなくてどうするの。クリスティンだっていずれは誰かと結婚して、もしかしたら私と同じように伯爵夫人になるかもしれないでしょう? お客様にそんな失礼なことをするつもり?」

「いえ、私は結婚しませんから」


 クリスティンはきっぱりと言った。この子の頑なさはどこから来るのか。頭痛を堪えるように私はこめかみをもみながらお兄様に話を振った。


「……お兄様? クリスティンはここまで頑固だったかしら」

「ああ。お前が妹可愛さに甘やかしたせいじゃないか?」


 ぐっ。お兄様の言葉が胸に刺さる。嫌なら嫌でいいと許容し過ぎたのが良くなかったのだろうか。それは駄目だともある程度はちゃんと叱っていたつもりなのだけど……。教育って難しい……。


 それなら余計にここでクリスティンに折れるわけにはいかない。私は厳しい顔を作ってクリスティンに言う。


「私には責任があるの。バルドウィン様にも、実家のみんなにも顔向けができなくなるようなことはしたくない。だから絶対に帰らない!」

「お姉様……わかりました」

「わかってくれた? よかったわ、クリスティン!」


 そうそう。この子は話せばわかる子だもの。うんうんと頷いていると、クリスティンは無邪気な笑顔を浮かべて言った。


「私がそのバルドウィン様、という方を見極めて差し上げます!」


 ……わかってない。というか、更に悪化した。こうなったらこの子は意地でも動かないだろう。ため息をつくとクリスティンに尋ねる。


「つまりはここに留まってバルドウィン様に会いたいということ?」

「そうです。お姉様をぞんざいに扱う方なら、私が絶対に許しません!」


 ふん、と鼻息荒くクリスティンは答える。せっかくの儚げな美貌が台無しだ。ああ……クリスティン。気持ちは嬉しいけれど、その顔はやめて。


「じゃあ、俺は帰る」


 お兄様はそう言うと、すっくと立ち上がる。いや、本当にあなたは一体何をしに来たの。まさか、クリスティンの付き添いにかこつけてケーキを食べに来ただけでは……。そう勘繰りたくなる。


「ちょっ、お兄様! それは無責任ではありません⁈ 私に丸投げするのですか⁈」

「いや、俺はちゃんと言った。クリスティンの付き添いだと。つまり仕事は終わった」

「付き添うなら、最後まで付き添うのが筋じゃないですか!」


 憤慨する私をよそに、お兄様はクリスティンに尋ねる。


「一日あれば足りるか? 明後日には迎えに来るからな」

「はい。それで大丈夫です! ありがとうございます、お兄様!」


 クリスティンはお兄様の言葉に素直に頷いた。私の言葉には素直に頷かなかったのに、納得がいかない。

 そしてお兄様はさっさと帰ってしまった。私は仕方なく、バルドウィン様が帰って来るまでクリスティンを連れて屋敷の采配に忙しく過ごすのだった。

読んでいただき、ありがとうございました。

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