怪しい少女
よろしくお願いします。
約束の日の前日。私は屋敷で模様替えの指示を使用人たちにしていた。贅沢は良くないと思うけれど、いつも同じしつらえだと伯爵家の威厳や品位を損ねてしまう。つまりは「うちはお金があって、盛況ですよ。問題ないですよー」といったことを対外的に知らしめるのだ。
……どうでもいい、とは個人的に思う。だけど、そうも言っていられないのだ。アルバン様をこちらに呼ぶのに、バルドウィン様が馬鹿にされるような要素は、できるだけ消しておきたい。そのせいで朝からバタバタしていた。
すると、警備の者が困惑したように私のところに来た。
「奥様。こちらの屋敷の様子を伺う、怪しい少女がいるのですが……」
「え?」
これはまた新しい。来客と言えば大人しかいなかったのに。怪しい少女と聞いても全然ピンと来ない。それなら自分の目で確かめた方が早そうだ。
「いいわ。私が行く」
私がそう言うと、執事が聞き咎める。
「ですが、危険です。正体もわからないし、何かあっては私は旦那様に顔向けが……」
「女の子なら大丈夫よ。私だって一応魔法が使えるんだし……ショボいけど」
「ほら! 奥様では不安です!」
うわ。きっぱりと言い切った。
……執事よ。あなた、さりげなく失礼ね。
「はいはい。不安で結構ですよ。で、その子はどこ? 案内してちょうだい」
「は。しかし……」
「ああ、いいのいいの。彼は心配するのが仕事みたいなものだから」
「そ、そうですか?」
「そうなのよ」
警備の者は首を傾げながら、私に促されて歩き出した。
「〜〜奥様!」
背後から執事の苛立った声がするけど、聞こえない、聞こえない。あ、でもこれは言っておかないと。
「すぐに帰ってくるから、指示した通りにお願いね!」
「奥様ーー!」
苛立った声は悲痛な声に変わった。申し訳ないとは少しだけ思う。だけど、どうしても気になるのよ。
後で文句を言われるだろうと思いながら、私は急いで現場に向かった。
◇
案内されたのは屋敷から程遠い門の前。頭にショールを巻いたドレス姿の何者かが、中を覗き込んだり、首を引っ込めたりと忙しそうだ。
警備はドレスで背も低いから少女だと思ったのだろう。だけど、ちっちゃいおじさんってことも……ないわよね。少し想像して、ないないと打ち消した。
そしてその怪しい人物は、近づいて行く私に気づくとショールを解いて叫んだ。
「お姉様ーー!」
「く、クリスティン⁈」
怪しい人物は──まさかの妹だった。
「……俺もいるぞ」
「お兄様まで⁈」
というか、どこから湧いて出た⁈
クリスティンに気をとられていて気づかなかった。いやでも、警備の者も怪しい少女としか言ってなかった。ってことは本当にどこから湧いて出たんだろう……。我が兄ながら謎だ。
うちの家族が申し訳ない……。私は警備の者に頭を下げた。
「……ごめんなさい。私の兄と妹よ」
「え⁈ あや……いえ、何でもありません!」
彼は言いかけてやめたけど、言いたいことはわかる。うん、怪しいわよね。
それにしても何でわざわざこんなことをしたのか。前もって来るなら来ると言ってくれれば喜んで迎えたのに。
「お兄様もクリスティンも。何でこんなことをしたの? 不審な動きをしたら捕らえられてもおかしくないのよ?」
途端にしょげるクリスティン。この子はこんなことをするような子じゃない。だとしたらお兄様に唆されたに違いない。
すると、お兄様が言う。
「クリスティンが、すぐにお前を助けに行くんだと聞かなくてな。俺はその付き添いだ」
「は? 意味がわからない……」
クリスティンとお兄様を見比べていると、クリスティンはハラハラと涙をこぼし始めた。
え⁈ 私のせい⁈
私はオロオロとクリスティンに言葉をかける。
「く、クリスティン? 怒った振りをしたけど、心配したからそうしただけで。泣かなくてもいいのよ?」
クリスティンは溢れた涙を拭うと、私に笑いかける。
「……お姉様、もういいんですよ。もう頑張らなくてもいいんです」
本当にどういうこと? クリスティンと話していても埒が明かない。助けを求めるようにお兄様を見ると、お兄様はやれやれとため息をついた。
「……クリスティンはビアンカ様と母上の会話を聞いてしまったんだ。お前が家のためにビアンカ様に契約結婚の話を持ちかけられて、承諾したと。だから、辛い思いをしているであろうお前を助けるんだと息巻いて来た、というわけだ」
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