嫌な想像
よろしくお願いします。
フィンさんと話しても、結局バルドウィン様が再び魔法を使えるようになるためのヒントは得られなかった。
わかったのはフィンさんがとてもいい人だということだ。気さくで相手を立てる聞き上手。おかげでついつい話しすぎてしまった。孤児院の手伝いがあるからと帰ろうとするフィンさんに、また話そうとバルドウィン様も名残惜しそうに見送った。
◇
「フィンさんって、いい人ですね」
いろいろ質問したにもかかわらず、嫌な顔一つせずに答えてくれた。こちらが貴族だから気を遣っているのかと思ったけど、様子を見ているとどうやら違うようだ。媚びるでもなく、ただただ自然体だった。
バルドウィン様も頷く。
「ああ。何というか、不思議な青年だよ。どこか達観しているというか……。苦労してきたんだろうな」
「そう、ですね。あまり多くは語らなかったけど、それは何となく感じました。それに、物腰が柔らかいというか、言葉遣いがすごく綺麗だと思いませんでした?」
平民の識字率は高くないし、あまり難しい言葉は習わないと聞いた。だけどフィンさんは私たちの問いに一度も詰まることなく答えていた。つまり、教養が高いということだ。それは一朝一夕に身につくものではないと思うのだけど……。
私の疑問にバルドウィン様も同意してくれた。
「ああ。孤児院で育ったと聞いたが、まるで貴族のような……」
そう。まるで貴族のような……。え、貴族?
貴族と聞いて閃くものがあった。フィンさんと初めて会った時に感じた既視感。誰かに似ていると思ったけど──アルバン様だ!
爽やかなフィンさんと退廃的なアルバン様の印象が違いすぎていたし、出会った場所は孤児院で、アルバン様には縁がなさそうだからわからなかった。
「バルドウィン様! フィンさんとアルバン様は似ていませんか⁈」
唐突に叫んだ私にバルドウィン様は驚いて背中を反らす。それからしばらく目をつぶって考えているようだったけど、ゆっくり目を開くと神妙に頷いた。
「……ああ、似ている。そっくりというほどでもなかったからわからなかった。印象が違い過ぎるせいでもあるかもしれないが」
「フィンさんとアルバン様は何か関係が……?」
バルドウィン様は再び熟考する。だけど難しい顔で首を左右に振った。
「いや、わからない。だが、フィンの言葉を思い出してみると、いろいろと想像はつく。彼はミュラー領で母一人子一人で育ったと言っていただろう? 父親はもしかしたら伯父かもしれない。身分違いか伯父が結婚を嫌がったかはわからないが、結局フィンの母は一人で育てていた。だが、その母が亡くなり、王都にいた伯父を頼ってフィンは出てきたが、あの伯父のことだ。面倒を見れないと孤児院に預けたんだろう。あの孤児院はミュラーが援助をしていたから。
フィンは全ては必然だと言っていた。つまり父親である伯父の血筋のミュラーと関係が深くなるのも必然だ、とそうとも取れる」
「まさか、そんな。考えすぎじゃありませんか?」
私は笑ってしまったけど、バルドウィン様は真剣な表情を崩さない。
「だといいが、否定する材料もない。それに伯父に子どもがいると聞いたこともないし、認知したと聞いたこともない。だが、私はずっと不思議だったんだ。女性関係が派手な割に、そういった事実がないことが。だから、あってもおかしくはないと思う」
親類であるバルドウィン様がそう言うのならあり得るのかもしれないけど……。だけど、バルドウィン様の想像を前提にすると、もっとおかしなことにならないだろうか。
「ですが、フィンさんがアルバン様の息子だとして、どうして今頃現れたのかとか、アルバン様は認知していないのに教育を施した理由とか、余計にわかりませんよね?」
「いや、それも解決する。今が私を追い落とすのに絶好の機会だからだろう。伯父自身は不適格の烙印を押されているが、それは能力的なものではなく、人格的なものからだ。もしフィンが伯父の能力を引き継いだ上で、人格的に問題がなければ、フィンは当主候補になれる……私には子どももいないから尚更。そうしてフィンが当主の座に収まれば、伯父はミュラーの当主に収まったフィンの父親として返り咲くことができる。
それに、フィンに教育を施したのは保険のためだろう。いずれ自分の役に立つかもしれないと考えたのかもしれない。私は伯父ではないから合っているかはわからないが」
フィンさんの言葉からこれだけの予想をつけるバルドウィン様に私は舌を巻いた。なんだろう、説得力がありすぎて怖くなった。
そんなに言葉を交わしたわけじゃないけど、フィンさんは悪い人には思えなかった。バルドウィン様の想像でおさまって欲しい。だけど、そんな願いも虚しく、アルバン様がフィンさんを認知して当主候補として名乗りを上げさせたのだった。
読んでいただき、ありがとうございました。




