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二人の気持ち

すみません。

今回少し文字数が多いです。


よろしくお願いします。

「……仕切り直しと言われても、もう、わたくしは……っこ、ことわられて……」


 ユーディット様の目から再び涙が流れ落ちる。それでも泣くのを我慢しようと唇を噛み締めて俯いた。


 泣かせた張本人はというと、眉を下げて助けを求めるように私を見ている。だけど私は動作で、何か言えと指示した。ユーディット様にも非があるとはいえ、エルンスト様も悪い。私は許しません。


 ぷいっと顔を背けると、エルンスト様が肩を落とすのが横目に見えた。エルンスト様はしばらく黙っていたけど、私が軽く足を踏むと、観念して口を開いた。


「あ、その……さっきの言葉は、本当なのか?」


 ……もう、この人は! 言うに事欠いて、それを聞く?

 この姿を見てまだ疑うなんてどうかしてる。


 ユーディット様はきつい口調でエルンスト様に言い返した。


「っ、今更嘘をついて、どうしますの! それともあなたは、そんなにわたくしを馬鹿にしたいのですか!」


 ユーディット様の剣幕にエルンスト様は仰け反った。そして、うっすらと頬を染めて人差し指でこめかみをかく。


「いや、そうか……それなら私だって……」


 もごもごと話しているせいで聞き取りづらい。もっとはっきり言わないとユーディット様には伝わらないでしょう。今度はエルンストの脇を肘でつつく。はっきりと、と口をパクパクとさせると、エルンスト様は力強く頷いた。ようやく覚悟を決めたらしい。咳払いをして口を開いた。


「……本気なんだな。婚約の件だが……承知した。私からフィッシャー男爵家に申し入れるようにする」


 うんうん、それで? ……あれ、それで終わり?

 エルンスト様もユーディット様に伝えたいことがあるんじゃないんだろうか。


 ユーディット様が小さな声で尋ねる。


「それは、どういう意味ですの……? あなたはわたくしを……?」

「嫌いじゃない」


 ガクッときた。嫌いじゃないと、好きでは、受ける印象が違う。これではユーディット様だって嬉しくないだろうに。そう思ったら。


「……そう、です、の……」


 ユーディット様はそう言って花が綻ぶ様に笑った。

 え、いいの?

 まあ、さっきまで嫌われていたと思っていたなら、それでもいいのだろうけど。当事者じゃない私がモヤモヤしてしまった。


「本当にエルンスト様でいいんですか? ユーディット様に言わせるだけ言わせて、自分は楽するような男性で」

「ええ、いいのです。初めからわたくしは好かれておりませんでしたから。これから一緒に過ごす中で、少しずつお互いを知り合えば、きっと……」


 ……いじらしい。ユーディット様ってこんな方だっただろうか。もっと気が強くて、意地っ張りな方だと思っていた。


 恋がユーディット様を変えたのかもしれない。あのエルンスト様の相手をするなら、どちらかが折れないとずっと平行線になりそうだし。


 大人になったのね、ユーディット様……。


 だから余計にエルンスト様のヘタレっぷりに腹が立つ。私はエルンスト様を睨んで告げる。


「……いいですか? ユーディット様を悲しませるようなことをしたら許しませんからね!」

「あ、ああ。わかった」


 わかったかどうか怪しいけれど、よしとする。今度はユーディット様に向かって告げる。


「ユーディット様。もし、エルンスト様に愛想を尽かしたら、別の男性を紹介しますからね」

「え? ええ。メラニー、ありがとう」

「おい。そこは断るところだろう。私の前で心変わりの相談をするな」

「あら? だって、あなたもわたくしを今は嫌いじゃなくても、将来嫌いになるかもしれませんでしょう? その時は辛くても、お互いに前に進まないといけませんもの。メラニーはその心配をしてくれたのですわ」


 いえ、違いますが。

 今のユーディット様は、エルンスト様が好きだから愛想を尽かすことは想像できないのだろう。むしろ、自分が嫌われることを恐れている。そんな女心がいじらしい。


 エルンスト様は不機嫌そうに言う。


「……そんなことはわからないだろう」

「わからないけれど、考えておくに越したことはありませんわ」


 ユーディット様は切なそうに目を細める。気持ちの温度差がユーディット様にそう思わせているということが、エルンスト様にはわからないのかもしれない。


 エルンスト様は苛立って声を荒げる。


「……っだから、わからないと言っているだろう! 私だって失いたくないと思ったから、追いかけて来たんじゃないか! その行動で察してくれよ! 大の男が、君が好きだ、愛しているなんて、素面(しらふ)で言えるわけがないだろう!」


 いえ、言っていますが。

 だけど、感情的になっているエルンスト様は、自分が何を言ったのか気づいていないようだ。


 ユーディット様は驚きに目をみはる。そして、口を手で覆ってまた涙を零し始めた。エルンスト様は慌ててベッドの上のユーディット様に近づくと、自分のスラックスのポケットからハンカチを出してユーディット様に渡す。


「な、ど、どうしたんだ急に」

「あ、あなたの、せいですわ……!」


 そう言うと、ユーディット様は渡されたハンカチで自分の目元を拭う。わかっていないだろうエルンスト様に、私は説明する。


「今、エルンスト様はユーディット様を追いかけてきたという行動で、ユーディット様を好きだ、愛している、と示したと仰ったんですよ。だからユーディット様は嬉しくて泣いている、と」

「え?」


 エルンスト様は私の顔をまじまじと見た後、ユーディット様を見て、天井を見る。自分が何を言ったか思い出しているようだ。そして気づいたようで、私を見て顔を赤くし、首を左右に振る。


「わ、わたしは、そ、そ、そ、んな、つもり、は」

「もういいじゃないですか。いい加減認めても。ユーディット様が好きなんですよね」


 ユーディット様は涙に濡れた目でエルンスト様を見る。これで否定したら本当に最低だ。観念したエルンスト様は頷いた。


「……ああ。好きだ」


 だけど、こちらもユーディット様のどこがよかったのか聞いてみたい。女嫌いと言われたエルンスト様にどんな心境の変化があったのだろうか。


「エルンスト様は、ユーディット様のどこに惹かれたのですか? 女嫌いと聞いていましたが……」

「私は媚びるというか、弱そうに見せる強かな女性が苦手なだけだ。そんな女性に意味がわからない因縁をつけられて、責任を取れと迫られたことがある。で、金品を要求してきたんだが、私よりも上位の貴族男性に目をつけてまた同じことを繰り返しているようだ。しかも、その女性の友人も同じような手で夫人に収まったとか。だから母が見合いを勧めてきても、乗り気になれなかったというだけの話だ」

「で、ユーディット様は?」

「しつこいな……。ああ、もういい! こいつは最初から私に食ってかかってきていたから違うかもしれないと思ったが、それも計算かもしれないと観察していたんだ。だが、まあ、誰に対しても変わらなかったというか、ツンケンしているところもあれば、素直なところもあって、可愛げもないこともないところは気に入っている……」


 あら。ユーディット様より、エルンスト様の方がユーディット様のいいところを探すのが上手い。


 これだったら二人の婚約、結婚もうまくいきそう。


「お似合いですね。ユーディット様をお願いします」


 私にとってもユーディット様は大切な方だ。私は深々とエルンスト様に頭を下げた。


「ああ。言われなくても」


 私が頭を上げると、エルンスト様は恐る恐るユーディット様の肩に手を置いて抱き寄せていた。これ以上は私がいると二人ともが気まずいだろう。扉を開いたままにして、私は退室した。

読んでいただき、ありがとうございました。

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