手がかかる人たち
よろしくお願いします。
慌てふためくユーディット様と私とをツェーザル様は不思議そうに交互に見る。そういえばツェーザル様は知らないんだった。なので、私は意趣返しのつもりでほくそ笑みながらバラしてやる。
「エルンスト様というのは、最近ユーディット様目当てにこちらを訪ねてくる男性ですよ。次期アーレンス伯爵とお呼びした方がいいでしょうか。ついでに言うと、今現在ユーディット様の縁談相手としての最有力候補です」
「メラニー! 怒りますわよ!」
「もう怒ってるじゃないですか。ユーディット様目当てというのは嘘じゃありませんよ。いつもこちらに来てはユーディット様のことを愚痴ったり、ユーディット様の行き先をさりげなくもなく尋ねていかれるんですから。それに、ユーディット様のお父様はアーレンス伯爵家との縁談をユーディット様が望むのなら進めていくと思いますよ。アーレンスの方はあちらのお母様が乗り気なので断るわけがありませんし」
というか、すでにユーディット様はアーレンス夫人との交流を深めていたと思うんだけど。縁談が念頭にあったから通っていたのではないのだろうか。
バルドウィン様は頷く。
「ユーディットとツェーザルは親類だから、もしユーディットがアーレンスに嫁げば、そこで繋がりができる。で、今現在クララ様のお腹には子どもがいる。その子が生まれたらアーレンス伯爵家を後見人に立てるとか、やりようはあるだろう」
「ちょっ、ちょっと待ってくださいませ! わたくしの縁談はまとまっておりませんし、勝手にあんな男と結婚することにさせないでくださいな!」
「え、エルンスト様が嫌いなんですか?」
そんなわけはないと思いながら私が問うと、ユーディット様は両手の指を絡ませながらもじもじしている。
「いえ、嫌いではありませんけど……。わたくし一人の問題ではありませんし、相手がどう思っているかもわかりませんのに……」
「つまり好きなんですね。それなら近いうちにエルンスト様がこちらに来た時にお話してみましょう。私も立会いますから」
素直になれない二人のことだ。二人きりだとちゃんと話をしないに違いない。決して私は出歯亀をしたいわけじゃない、うん、そう。
「ユーディット様も……素敵な方と出会えてよかったですね」
駄目押しのようにクララ様はニコニコとユーディット様に言う。その無邪気な笑顔にユーディット様は真っ赤な顔で口をパクパクとさせていたけど最後には観念して頷いた。
「……ええ、そうですわね。顔を合わせれば文句を言ってしまうのですが、あの男は嘘をつけるほど頭が良さそうには見えないので、まあ信用はできると思いますわ」
「ユーディット様にそっくりですよね」
「似てません!」
憤懣やる方ないといった感じでユーディット様はプリプリと怒る。ツェーザル様がポツリと呟いた。
「メラニーだったか。あいつ、さりげなくユーディットを馬鹿にしてるのか? 頭が良さそうに見えない男とそっくりって言ったぞ」
「いや。メラニーは馬鹿にしているわけじゃない。何というか、エルンスト殿は変に素直な方なんだ。そこがユーディットと似ていると言いたいんだろう」
バルドウィン様も言葉を濁す。二人とも直情型だとはっきり言いにくいんだろう。あれ、そういえばツェーザル様もそうだった。まあ、ツェーザル様の場合は二人とはまた違って、先に手が出るから……。
気を取直したバルドウィン様がユーディット様に尋ねる。
「だが、二日後にはフィッシャー男爵がこちらに来るようになっている。それまでにエルンスト殿と話ができるのか?」
「う……心の準備が……とは言っていられませんわよね。ええ、わたくしも覚悟を決めますわ!」
……いや、話をするだけなのに、そんな悲壮な顔をしなくても。一体エルンスト様とどんな話をするのかと不安になってくる。ああ、ほら。クララ様も不安そうな顔で両手の指を絡ませて祈るようにユーディット様を見ているじゃないの。
「ユーディット様……。別にエルンスト様に喧嘩を売れって言ってるわけじゃないんです。ユーディット様が今思っていることをただ伝えればいいだけですよ」
ユーディット様がエルンスト様を好きでもまだ結婚は考えられないというのなら、断ればいい。ユーディット様の意思を無視して進めたくはない。それこそユーディット様のご両親と同じになってしまう。
ただ、相手はあのエルンスト様だ。どうなるかまったく読めない。
ここまで私に気を揉ませるのだから──。
「まったく手がかかる方々ですね」
あ、しまった。つい心の声が漏れた。ユーディット様は眉を釣り上げる。
「あなたもじゃありませんの! 何を他人事みたいに仰ってますの!」
「まあまあ。そんなに怒ってばかりだと皺が増えますよ。うちの母はお願いだから怒らせないで、とよく弟妹に言ってました」
「その言葉、そのまま返しますわよ。お願いですからわたくしを怒らせないでちょうだい」
「努力はします」
「頼みますわよ」
ユーディット様は疲れたように肩を落とす。それを見て、ツェーザル様、クララ様、バルドウィン様が「口だけだな」「そうね」「間違いない」と頷くのだった。
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