ツェーザルの決意
よろしくお願いします。
いち早く反応したのはバルドウィン様だった。
「お前、本気で言ってるのか? そんなことをしてみろ。お前の祖父や父親が黙ってないだろう」
同感だ。ツェーザル様を見ていたら、どんな一族なのか想像に難くない。きっと同じように血気盛んな方々だろう。
ツェーザル様は横目でバルドウィン様を嫌そうに見る。
「そんなことはわかってる。俺が黙らせればいいだけの話だ。継承権を放棄さえしてしまえば、どうすることもできないだろ。俺だってこれまで家の方針には従ってきた。おかしいと思うことがあっても、家は絶対だったからだ。だが、俺に全てを押し付けて自分たちは高みの見物で、俺から奪うばかりの奴らにこれ以上何の義理がある? そんなに欲しけりゃ自分で頑張れと言ってやるぜ。もう、うんざりだ」
「ツェーザル……。そんなことしては駄目よ。私があなたに相応しくないだけの話だもの。私と別れれば……」
クララ様は悄然と肩を落とす。そんなクララ様の肩をツェーザル様は掴む。
「それは違う! 俺にはお前しかいないんだ! 俺みたいな中途半端な奴でも、お前は見限ることなく寄り添ってくれた。それがどれほど嬉しかったかお前にはわからないだろう。最初はあの狸親父の娘だと思って嫌ってはいたかもしれない。だが、お前はお前だ。あの親父とは違う。頼むからこれからも一緒にいてくれ……!」
ツェーザル様の心からの叫びに、クララ様の目から再びはらはらと涙が流れ落ちる。胸に詰まって言葉が出てこないのだろう。何度も首を縦に振っていた。
ツェーザル様は微笑を浮かべてクララ様を抱きしめた。その表情はこれまでに見たことがないほど優しいものだった。
二人の絆の強さに私も釣られて泣きそうになる。感激屋のユーディット様もそうだ。ハンカチで目頭を押さえている。
だけど、バルドウィン様は落ち着いていた。ツェーザル様に更に追及する。
「……お前の家はいいとして、クララ様の実家はどうするんだ。お前たちは政略で結ばれた身だろう。お前に価値を見出せなくなったバルヒェット卿は無理にクララ様を連れ帰るんじゃないか?」
クララ様もその可能性に思い当たったようで蒼白になった。ツェーザル様の目に剣呑な光が宿る。
「……お前は本当にいけすかない奴だよ。継承権を放棄しても自分で身を立てていくから、クララは渡さない。認めさせてみせる……!」
バルドウィン様は眉を顰めてこめかみを揉む。
「根性論で何とかなる問題じゃないだろう。お前がそんなことではクララ様はいつまで経っても安心できない」
「だったらどうしろって言うんだよ! 他に手があんのか⁈」
ツェーザル様は苛立って声を上げる。その勢いでクララ様が怯えたように体を震わせた。
それを見たツェーザル様ははっとしたように声のトーンを落とした。
「クララ、悪い。赤ん坊もいるのにな。だが、俺は絶対にお前を離さないから」
「ツェーザル……」
バルドウィン様は仕切り直すように咳払いをした。
「悪かった。何かしらの打開策を考えないと駄目だと言いたかっただけなんだが」
打開策……。この場合、準男爵が手を出せないようにすればいい、ということよね。あの方は権威主義で、自分に得があれば何も言わないような気がする。ということは……。
「……ツェーザル様に付加価値をつける。もしくはクララ様とツェーザル様が離れることで不利益が生じるようにすればいい、ということでしょうか?」
お二人を物扱いしているようで嫌だけど、端的に言えばそういうことだろう。
「そういうことですわね。ですが、もう一つ方法はありますわよ」
ユーディット様はニヤリと笑った。淑女にあるまじき悪者の笑い方。せっかくの美貌が台無しだ。嫌な予感はするけれど、ユーディット様に尋ねてみた。
「どんな方法です?」
「簡単ですわ。準男爵の弱みを握って脅せばいいのです」
……やっぱり。まったくもう。それだと恨みを買って、いずれ寝首をかかれかねないだろうに。
バルドウィン様も同じように思ったようだ。
「いや。それだとクララ様も気にするだろうし、恨みを募らせた準男爵がどう出てくるかわからない。クララ様の前でこんなことを言うのはなんだが、準男爵の場合は彼に利益をもたらす存在であり続けたら、関係が悪化するようなことはないだろう」
ツェーザル様は何も言わない。バルドウィン様を敵視していた方だから、素直に教えを請うことはしたくないのだろう。それでもクララ様と一緒にいられる方法を知りたいという葛藤からか、何度も口を開いては閉じてを繰り返している。
ここでクララ様が声を上げた。先程までの頼りなげな様子から一変して、決意を秘めた強い目をバルドウィン様に向ける。
「それならどうすればいいでしょうか。ツェーザルが私と共にある未来を選んでくれるのなら、私も同じです。これからも一緒にいたいんです。そのために私にできることがあるのなら何でもします。ですから、教えてください……!」
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