嵐の訪れ
よろしくお願いします。
次に何が起きるか、何をするべきか。順番に片付けたくても人生なんて思いどおりにならないものだ。何かが起きるときは同時に起きることもままある。
夕食時、バルドウィン様から唐突に、とあることを言われてそんなことを思った。
「ユーディット様、本当に帰るんですか? せっかく仲良くなったのに……」
そうなのだ。フィッシャー男爵夫妻の話し合いが進んだようで、三日後に報告をこちらで聞くことになった。それが終わればユーディット様はご実家に帰ることになる。
問題が片付くのは嬉しいけど、別れは寂しい。かといってこちらにユーディット様を留め置くことはできない。また、男爵夫人の野望を再燃させることにもなりかねないからだ。それに、今度はユーディット様の縁談をまとめなければならない。
ユーディット様は苦笑する。
「永遠の別れであるまいし、あなたがそこまで寂しがることはないでしょうに。お邪魔虫がいなくなって清々すると内心思っているのではありませんの?」
「そんなわけないじゃないですか。バルドウィン様と二人は寂しいです……」
屋敷で働いてくれている使用人たちもいるけど、こうして気安く話をしてくれるわけじゃない。それに、気持ちを自覚してから二人きりになるのは初めてだ。今までと変わらずに接することができるのか不安になる。
「いずれは帰らなければならなかったのだし、それが早いか、遅いかの違いでしょう。それに二人が寂しいというなら家族を増やせばいいのではなくて?」
「ぶほっ」
またまたバルドウィン様が水を噴き出しそうになった。いつまでも物慣れない反応をするからユーディット様にこうして遊ばれるのだろう。ご愁傷様だ。
私の場合は、ユーディット様のからかい方を覚えたから慌てなくなった。それだけ一緒に過ごしたという証左だと思うと、またしんみりとした気持ちになる。
「……あと三日。それならその間、一緒に過ごしましょう。まだまだお話したいことがあるんです」
「だから永遠の別れではないと言っているのに。ですが、まあいいでしょう。いろいろ聞かせていただきますわよ?」
「それはこちらの台詞です」
私たちは顔を見合わせて笑った。その様子を仲間に入れないバルドウィン様が寂しそうに見ていたのだった。
◇
だけど、その約束は翌日である今日、さっそく破られることになった。朝食の席でユーディット様と今日の予定を話し合っていた時だった。
遠くから悲鳴と叫び声が食堂に近づいてくる。
「お待ちください……!」
「待ってられるか! こっちは一大事だというのに。邪魔するならぶっ飛ばすぞ……!」
ユーディット様と顔を見合わせて表情を引き締める。今日はバルドウィン様は早い時間から出かけて留守だ。女主人である私が対応しなければならないだろうけど、どうにも聞こえてくる会話が不穏に感じる。
「……ユーディット様、こちらで待っていてくださいます? 私、行ってきますから」
「いえ。わたくしも参ります。どんな無頼者かわかりませんが、女性一人で対峙するのは危険ですわ。いざとなったら二人で追い払いましょう」
「ユーディット様……。ええ、それでは行きましょうか」
頷き合って廊下に出ると、その無頼者の姿が目に入り、内心うんざりしてしまった。ちらりとユーディット様を見ると、こちらも険しい顔をしている。
「ツェーザル……。一体何をしに来ましたの? 他人の屋敷に無遠慮に乗り込んできて、使用人を恫喝して……。恥を知りなさい!」
そう。来客というか招かれざる客であるツェーザル様が、額に汗を浮かべてこちらに向かってきていたのだ。ツェーザル様も険しい顔でユーディット様に言い返す。
「お前の屋敷じゃないだろうが。お前こそ偉そうに何様だ? っと、そんな場合じゃねえ。クララは来てないか⁈」
「クララ様ならお帰りになったではありませんか」
「その後だ! 昨夜様子がおかしいと思ったら、今朝にはもういなかった。あいつが行くところは限られているから、てっきりここだと……」
「いえ、いらしてませんよ。様子がおかしいって、クララ様に何があったんですか?」
妊娠中の女性は精神的に不安定になると聞いたことはあるけれど、理由もなく、不安になるものだろうか。前に来たときはツェーザル様がちゃんとクララ様と向き合わなかったことが原因だった。
ツェーザル様は目を逸らす。その様子から、何か心にやましいことがあるのかと疑念が湧いた。
──クララ様のことはわかっているとあれだけ豪語していたくせに。
ふつふつと怒りが湧いてくる。クララ様は身重の身。それも初めての子どもで不安だろう。出産で命を落とすこともあるのに、どうして不安にさせた上に家出をするほど思いつめさせるのか。文句を言おうと口を開きかけたときにユーディット様が機先を制した。
「原因は後です。それよりも今はクララ様の行方を突き止める方が先決ではありませんか?」
読んでいただき、ありがとうございました。




