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アルバンの企みとは?

よろしくお願いします。

 全てにおいて解決はしていないものの、数日は平穏だった。だから私は忘れていた。厄介な方を──。


「うわあ……またですか」


 思わず言葉を失った。目の前には大輪の花が所狭しと並んでいる。朝早いこの時間に、どうやってこんなに大量の花束を持ってきたのだろうかと疑問に思う。まあ、送り主はわかっているのだけど。


 添えられた羊皮紙には、予想通りアルバン様の名前。本当にこの方は何がしたいのかわからない。


 バルドウィン様を当主の座から引きずり落としたい、というのはまだわかる。だけど、それが私にちょっかいを出すことに繋がることがどうしても理解できない。しかも──。


「あなたの美しさに匹敵する、ですって。初めて言われました。お前は雑草並みにたくましいとは、よく父に褒められていましたが」

「いや、それは褒め言葉じゃない」


 ついつい吹き出しながら手紙を読むと、バルドウィン様が突っ込む。最近はバルドウィン様が絶妙な突っ込みを入れるようになった。そんな技を磨いてどうするのだろうと、少し疑問だ。


 だけど、ユーディット様はそれよりも気になることがあるようだった。険しい顔で花束を検分している。


「……おかしいですわね。あの方は経済的に困窮しているからこんな豪華な花束なんて送れるはずがありませんのに。誰かがあの方を支援しているということ……?」

「……伯父上ならあり得るな。うまいことを言って女性にたかっていることも考えられる」

「それならミュラーの当主にこだわる理由はなくなりませんか?」

「いや。伯父上がたかるのは高位貴族に嫁いだ女性だろう。女性に見限られたらお金を引き出せないし、結婚もできないから不安定な立場に変わりはない。あの伯父上のことだ。金銭だけでなく、名誉や顕示欲を満たすためにもミュラーの当主の座は必要なはずだ」

「……だからといって私に花束を贈ってどうするんです? 私がアルバン様の色仕掛けに引っかかって、バルドウィン様の足を引っ張ることを期待してるんですかね?」


 だとしたらあまりにも浅慮(せんりょ)だろう。私でさえわかるのだから、バルドウィン様は私よりも先に気がついて手を打ちそうなものだ。


 バルドウィン様も首を左右に振る。


「それはないだろう。もしメラニーが伯父上の方に回ったら、私と離婚してしまえばそれで事は済む。私はそれまでと変わらず当主の座から動かないだろう。むしろこの場合、メラニーの方が被害が大きい。女性有責の離婚は再婚は望めないだろうし、その離婚の理由が噂になった場合、君は社交界に居づらくなるし、ひょっとしたら君の実家のご家族にまで累が及ぶ恐れもある」

「ちょっ、実家はやめてください……!」


 私の背筋を冷たいものが流れ落ちる。


 そもそも私がこちらに来ることになったのは実家の家族のためだ。なのに、これでは家族を守るどころか私のせいで家族に危害が及んでしまう。


 バルドウィン様から離れれば済む話なのかもしれないけど、今の私にとってはバルドウィン様も家族同様大切な存在だ。家族かバルドウィン様か、どちらかを選ぶなんてできるの……?


「メラニー」


 俯き加減の私に、影が落ちて顔を上げる。すると神妙な顔をしたバルドウィン様と視線が絡まった。バルドウィン様は私の両肩に手を置いて言う。


「君が伯父上に惑わされるような女性ではないことはわかっているよ。反対に嫌がっていることに気づいていたし。ただ、事実がなくても捏造することは貴族社会では簡単だ。そういうこともあるから頭に置いておいて欲しいと思って話したんだ。それに、約束しただろう? 私も君を守ると。それは嘘じゃない。まあ、今の私では頼りないかもしれないが」


 最後は自嘲するようにバルドウィン様は笑った。


 私だってバルドウィン様が約束を破るような方だとは思っていない。契約はこれまで守ってもらっているし、仕事だからと私が言っても大変なことを頼んでばかりで申し訳ないと引け目を感じているようだし──


 ──そんな方だから私も好きになったのだから。


「……頼りないなんて思いません。いえ、最初はそう思ってましたが。バルドウィン様は強い方です。私の心を救ってくださいましたから。だから……お願いしてもいいですか? もちろん自分でできることは精一杯頑張るので、足りないところを助けてくださると嬉しいです」


 話しながら顔に熱がこもるのがわかる。他人に頼ることがこんなに気恥ずかしいことだなんて思わなかった。


 だけど、バルドウィン様は嬉しそうに笑う。


「もちろんだ。そうやって頼ってくれる方が嬉しい。私もこれからも君に大変なことを押し付けるだろうが、付いてきてくれるだろうか……?」

「ええ。変わらずに付いていきます。よろしくお願いしますね」


 部下であってもこうやって気遣うところがバルドウィン様らしい。そこで存在をすっかり忘れていたユーディット様の突っ込みが入った。


「またまた二人の世界に入ってますわね。私に付いてこい、ええあなたが行くところならどこまででも……。まさか身近に素でそんなことを言う方々がいるとは思いませんでしたわ。いつまでもお幸せに、とわたくしは言うべきなのでしょうか?」


 バルドウィン様と顔を見合わせると、バルドウィン様の顔がじわじわと赤くなる。


「いや! 私はそんなつもりはなかったんだが……!」

「わ、私もです! 当主に従うのは当たり前だと思ったからで……!」


 契約だからとはユーディット様の前では言えないので、慌てながらも私は言葉を選ぶ。


 この後しばらくバルドウィン様の言葉を反芻(はんすう)しては顔がにやけるのを止められないのだった。

読んでいただき、ありがとうございました。

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