わからずやのツェーザル
よろしくお願いします。
「……わたくし、すごく居辛いのですが」
ユーディット様の言葉に我に返る。ベッドではクララ様とツェーザル様が抱き合い、ユーディット様の隣では私とバルドウィン様が手を繋ぎあっている。
私は慌ててバルドウィン様の手を離した。クララ様も今自分が置かれている状況に気づいたようで、あっと声を上げると無理に立ち上がろうとする。
「人様のお宅でベッドを占領してしまって……! 申し訳ありません!」
「急に立ち上がっては駄目です……! 貧血を起こしたばかりですし。折角ですからお腹に優しいものでもご用意します。それまでの間、ゆっくり休んでいてください。いいですよね、バルドウィン様?」
「ああ。だったらツェーザルの分も一緒にだな。お前は何でもいいだろう?」
「……適当なものを出しやがったらぶっ飛ばすぞ」
剣呑な口調のツェーザル様。やっぱりわかっていないらしい。クララ様が顔をしかめてツェーザル様を黙って見ていた。
すると、これまで空気になっていたお医者様が口を開いた。
「栄養状態もですが、妊婦にあまり心労をかけないように。ここで喧嘩をするなら旦那様といえども出て行っていただきます」
「なんだと……?」
「もう、ツェーザル様! そんな調子だからクララ様の気が休まらないんです」
今度はお医者様とツェーザルは睨み合う。本当に喧嘩っ早い方だ。クララ様がハラハラした表情でツェーザル様とお医者様を交互に見ていることに気づかないのだろうか。
私はクララ様に向かって笑顔を作る。
「意識が戻ったばかりなんです。お食事を用意する間、横になっていてください。私たちはツェーザル様と話してきますね。あ、喧嘩にならないようにします。そうですよね、ツェーザル様?」
バルドウィン様だと喧嘩腰になるのなら、私が言うしかない。これもクララ様のためだ。それはツェーザル様に伝わったようで、苦虫を噛み潰したような顔で頷いてくれた。
そうしてクララ様を客室に残して私たちは退室した。
◇
「……俺にはお前たちと話すことなんてない」
ツェーザル様は子どもが不貞腐れたように、椅子にふんぞり返って顔を背ける。
「お前は子どもか」
バルドウィン様の呆れた言葉に私とユーディット様も頷く。本当にこの人が父親になって大丈夫なのだろうか、親になるということを軽く考えてはいないだろうかと不安しかない。
「まあ、話したくないならそれでいいです。あれ以上クララ様の心労を増やしたくなかったから連れ出す口実が欲しかっただけですし」
「なんだと?」
途端に私を睨みつけるツェーザル様。それが問題だというのに。クララ様の気持ちを思ってため息が漏れる。
「ツェーザル様から見て、クララ様はどのような方ですか?」
「お前には関係ない……と言いたいところだが、そう言うとクララがまた悪く言われるだろうから答えてやる。クララは優しくて小さくて可愛い。だから守ってやりたくなる……お前らと違ってな」
フン、と最後にツェーザル様は鼻で笑った。するとユーディット様が前のめりになって叫び出しそうになっている。どうどう。落ち着いて。ここでユーディット様が爆発するとクララ様との約束を破ってしまう。
……この気の短さは血の繋がりのせいなのかしら。
そう思ってチラリとバルドウィン様を見ると、やれやれと首を左右に振っている。バルドウィン様は違うようでホッとした。
だけど……悪かったですね。優しくも小さくも可愛くもなくて。別にあなたにそう思われなくても結構です。
ついつい私も鼻で笑い返してしまう。
「へえ。そうなんですね。そう思っている割にはクララ様を悲しませるようなことばかりなさっているようですが?」
「なんだと? お前なんかに何がわかる!」
「少なくともあなたよりはクララ様の気持ちがわかるつもりですが。クララ様は気持ちの優しい方だから争いを好まないのではありませんか? それなのにあなたは所構わず喧嘩をふっかけようとする。クララ様のためという大義名分を掲げて、あなたは誰のために怒っているのですか?」
ツェーザル様は吠える。
「クララのために決まっているだろうが! あいつを見下して馬鹿にする奴らは一人残らず叩きのめす!」
「よく言いましたわ! そうです! 愛する者のためには戦うべきなのです!」
……これは頭が痛い。脳筋のツェーザル様と想像力の豊かなユーディット様は変なところで気が合うのね。バルドウィン様も顔をしかめて突っ込む。
「煽ってどうする」
「そうですよ。クララ様のためと言って、クララ様が悲しむ方法をとったらクララ様が嫌がるのは当然でしょう。そうすると、クララ様が悲しむのが嫌なツェーザル様が、ご自身のためにやっているようにしか見えなくなります。守りたいという気持ちが本物なら、方法を間違えては駄目です」
読んでいただき、ありがとうございました。




