家族に報告
よろしくお願いします。
ミュラー伯爵邸からの帰り道、馬車の中で私は考えた。
家族への報告だ。
仕事を受けると決めたのは私だけど、契約内容は口外しないことが条件だった。というのも、敵を欺くには味方からということで、事実を知る人は少ない方がいいと三人で話し合ったからだ。
契約結婚だとわかれば、更にバルドウィン様は厳しい立場に追い込まれる。そうでもしないと嫁がこないと言っているようなもので、人望がないと暗に証明してしまう。
だけど、バルドウィン様自身も今の状態では結婚に前向きにはなれないようだ。いつ自分が放逐されるかわからないのに、相手の人生に責任は負えないと言っていた。
真面目な人だ。そこまで考える必要はあるのだろうかと私はちょっと疑問だったけど。
だったら放逐されないように妻や妻の実家を後ろ盾にしないのかと聞いたら、そんな他力本願では更に当主に相応しくないと周囲が騒ぐだろうと暗い顔になった。
何というか、どうあっても思考が後ろ向きになるのだ。外見にあれだけ恵まれているにもかかわらず、あの自信のなさ。それもきっと置かれている状況からくるものだろう。
ミュラー家の中だけでなく、バルドウィン様が魔法を使えなくなったことは貴族の中で広まってしまっている。そのため、ミュラー家当主は平民と同じだと馬鹿にされているそうだ。
──本当にくだらない。魔力は王族や貴族が持つものだと誰が決めたの?
本当のところは、平民でも魔力を持つ者はいる。最低な貴族の男が戯れに平民の女性に子どもを産ませ、認知をしないことがあるからだ。そして、その子の子孫が先祖返りで強い魔力を持つこともある。そんな子は大抵貴族の養子に迎えられる。平民が魔力を持っていては国にとって都合が悪いという理由で。
バルドウィン様も、貴族の選民意識に振り回されて気の毒だとは思う。魔法や魔力があることが貴族の証明だというのが常識になってしまっているから。そんなものが無くても、伯爵家を守る方法はいくらでもあるだろうに。
ビアンカ様は、そういったバルドウィン様の考え方を矯正することも私に求めているようだ。バルドウィン様の手前、魔力や魔法を否定はしなかったけど、ヘルツォーク流を求めていた。
つまり、ないものを嘆いて諦めるのではなく、あるものを最大限に活かして生き残るということ。バルドウィン様に自信をつけさせて、当主に相応しいことを身内に知らしめて、魔法が再び使えるようになるまで手助けをすればいいのだ。
まあ、なんとかなるだろうと、私はヘルツォーク邸への道程を馬車でのんびり過ごした。
◇
ヘルツォークの夕食は騒がしい。良くも悪くも貴族らしくない我が家では、夕食も家族の団欒や仕事の報告に費やしている。
「それで、今日はどうだったの?」
私がミュラー家に出かけていたことを知っている母が唐突に切り出した。すると、みんなの視線が一斉に私に集まる。期待に輝く目がすごくわかりやすい。
私は軽く咳払いをすると笑顔を作った。
「うん、決まった」
途端にやったーと手を上げて喜ぶ弟妹。その喜びようについつい私のいたずら心が刺激される。
「結婚が」
「え?」
父だけが目を瞬かせるが、弟妹たちは相変わらず喜んでいる。本当にわかってるんだろうか。
「だから。バルドウィン・ミュラー伯爵と結婚するの。結婚しようって言われたから、受けてきちゃった」
嘘はついてない。最初にバルドウィン様はそう言っていた。
私の話に兄は一言。
「そうか」
……いやいや、そうじゃないでしょうよ。少しは驚いてくれないと、せっかく溜めた間が台無しだわ。
だけど、兄のユリアンはこんな感じだ。内心では驚いていても、言葉にも態度にも出ない。驚かせるつもりで言った私が恥ずかしくなる。唯一驚いた反応を見せた父が、怪訝に尋ねる。
「仕事の面接じゃなかったのか?」
「ううん、お見合いだった。最初にお見合いだって話したら私が来ないだろうからってビアンカ様が仕事の面接ってことにしたんだって。お母様は驚いてない、ってことは知ってたんでしょ?」
ビアンカ様と仲がいい母のことだ、もしかしたら裏事情もわかっていたのかもしれない。それでも黙って私をミュラー家に行かせるあたり結構ひどい。
「さあ、どうかしら」
母は薄く笑う。いつもながら食えない人だ。
この母の実家は今はもうない。元々は同じ男爵家で、政略として父と結婚した。だけど、同じ男爵家でありながらもプライドの高かった母の実家は生き残ることができなかった。労働は貴族のすることではないと、足掻こうとしなかったのだ。だからこそ母は貴族であることは何の助けにもならないと学び、私たち子どもに労働の尊さを説いた。
そのため、我が家では一に仕事、二に仕事、三、四がなくて、五に仕事と言われている。もちろん家族の幸せが前提にあってのことだ。
まだ幼い弟妹がはしゃぐのをよそに、父は浮かない顔になる。
「……メラニー、本当にいいのか?」
読んでいただき、ありがとうございました。




